悲しき別れ
遂に再開を果たしたラインハルトとヴィクトリア。
感極まってヴィクトリアはラインハルトに抱き付いた。
「会いたかった……会いたかったぞ、ラインハルト!」
「僕もだよ……ヴィッキー。奴らにペンダントの事は喋ってないから……」
「黙れバカ! そんな事はいいんだ……お前が無事ならいい」
しかしラインハルトの体中の火傷や切り傷を見てヴィクトリアは静かに怒りを滲ませる。
焔の瞳は今までに見た事が無いくらい、紅い輝きを放つ。
「ラインハルト……誰にやられた? お前にこんな傷を負わした奴を引き裂いてやる!」
「大丈夫だよ……こんなの大した事無いから。それよりも早く逃げよう」
「しかし……」
怒りを爆発させているヴィクトリアを宥める為に、ラインハルトは彼女の頭を撫でた。
「お願い……ちょっと疲れたから」
「うん」
ラインハルトのお願いにヴィクトリアは頷き、彼にかせられた手錠を外す。
「ヴィッキー、悪いんだけどちょっと肩を貸してくれる? ちょっと歩き辛くて……服を汚しちゃうけど」
「そんなの気にするな。ほら……掴まれ」
ヴィクトリアの肩にラインハルトは手を回してて歩き出す。
ミヤビ達とは地下の桟橋で落ち合う手筈になっている。
二人が地下の桟橋に辿り着き、ライトの船が見えたが要塞砲の砲撃で船が近付けない。
「ライト!」
辛うじて砲撃を回避しながら、要塞に近付こうと伺うが敵も砲撃で近付けさせない。
するとミヤビが何やら上を指さして何かを訴えている。
「ラインハルト、すまないが第二プランだ。少し歩くが我慢してくれ」
「わかったよ……」
ヴィクトリアが了解の合図を送ると、ライトの船は煙幕を出しながら要塞から離れていってしまう。
ヴィクトリアの第二プランが何か分からないが、ラインハルトは信じてついて行く。
地下の桟橋から地上へ続く搬入用の昇降機を待っていると二人の兵士に見つかってしまう。
「いたぞ!」
ヴィクトリアはラインハルトを自身の背中に隠し、柱の影から反撃する。
しかし拳銃と突撃銃では火力が違い過ぎて次第に詰められてしまう。
遂に拳銃の弾が切れてしまい、ナイフと手榴弾のみになる。
ラインハルトだけでも助ける為に刺し違える覚悟を決めた瞬間、誰かが兵士達を撃ち殺した。
「私だ、撃つな!」
暗闇から現れたのはラインハルトの養父、ケビィン。
「義父さん?」
ケビィンはラインハルトに近付こうとするがヴィクトリアが立ち塞がる。
「ラインハルトに近付くな! いくらラインハルトの父君でも近付いたら無傷ではすまないぞ!」
「ヴィッキー……」
焔の瞳を紅く輝かせ、ナイフを構えるヴィクトリア。
「落ち着け、俺はラインハルトを助けたいだけだ。信じられないなら、ほら……」
ケビィンは地面に置いた拳銃をヴィクトリアの方に蹴り飛ばす。
ヴィクトリアが拾うと、彼女は拳銃をケビィンに構える。
「どういうつもりだ? ラインハルトに拷問をしておいて、今さら父親気取りか」
「父親気取りか……確かに父親気取りだな。今さら許してもらおうなんて思っていない。ラインハルトを連れて帝国に帰れ、ラインハルトの想い人」
ケビィンのその言葉を聞いて、ラインハルトが拳銃に手を置く。
「ヴィッキー、お願い。義父さんと話をさせて欲しい……」
「わかった。お前の望みなら仕方ない」
ヴィクトリアが拳銃を下ろしてケビィンに来るように合図する。
ケビィンがラインハルトに近付くなり口を開いた。
「すまない、ラインハルト。お前を酷い目に遇わせて……。俺は自分が許せなかったんだ。国防軍の軍人でありながら、カイとエヴァを守れなかった自分に。アイツらを死なせてしまい、やるせない怒りを誰かに向けなければ自分が救われなかった……頭ではわかっていたが、どうしようもなかったんだ」
長年、心の奥底に溜め込んでいた想いの言葉にラインハルトは頷いた。
「僕の方こそごめんね。義父さんが悩んでいたのは気付いていたけど、気付かない振りをして逃げていた……。父さんと母さんが死んで一人で泣きながら戦災孤児待機所に居たとき、迎えに来た義父さんと義母さんが『待たせて悪かったな。今日からお前は私達の息子だ』って言ってくれた時の言葉は、僕にとって凄く嬉しかったんだよ。もう一人で夜を過ごさなくて済むと思って安心したんだ……」
ラインハルトの本心に触れ、ケビィンの氷が溶かされていく。
「当たり前だ。お前は俺と母さんにとって自慢の息子でもあり、ルクリエにとっても自慢の弟なんだからな」
「義父さん……」
互いの壁が壊され、遂に和解を果たしたラインハルトとケビィン。
そんな親子の中を引き裂く一発の銃声。
「義父さん?」
ケビィンは自分の腰を触り、手の平を見ると赤く染まっている。
そのまま倒れそうになりラインハルトとヴィクトリアが受け止めると背後からラインハルトにとって嫌な声がした。
「ふざけるな! お前達はいつだってそうだ、アルムルーヴェに利用され捨てられる! アイツらはいつだって私達シュヴァルーヴェを利用する事しか考えていないんだぞ!!」
「ミカエラ……特務大尉……」
瞳が蒼く輝き憎悪に満ちた表情のミカエラ。
その光景にヴィクトリアがラインハルト見る。
「あの人もシュヴァルーヴェ一族の末裔なんだ……」
「そうか、我らアルムルーヴェの業があの者を歪めてしまったのだな……」
拳銃の弾倉を入替えながら近付いて来た。
二人でケビィンを柱の影まで引き摺っていくとヴィクトリアが応戦した。
「まずいぞ、ラインハルト。早く最上階まで行かないと!」
「わかってるけど、義父さんが……」
心配するラインハルトにケビィンは伝えた。
「最上階に行きたいなら、搬入用昇降機の隣のやつを使え……。直通の昇降機だから……俺が奴を足止めする」
「嫌だよ、義父さんも一緒に行こうよ!」
「いいから早く行け! ヴィクトリア王女殿下、数々の非礼は御詫びします……ここは私が命をかけて食い止めますので」
ヴィクトリアがケビィンの傷口を押さえる。
「我らアルムルーヴェは寛大だから気にするな、父君。貴方には私達の愛の証を見て貰わなければならないからな、だから死ぬなよ」
「御安心を、我らシュヴァルーヴェはしぶといので。それに二人の愛の証を見るまで死ぬ気はありません……ラインハルトを宜しく御願いします、王女殿下」
その言葉を聞きヴィクトリアは拳銃と残りの手榴弾をケビィンに託した。
「あぁ、我らアルムルーヴェの名にかけて必ず」
「それとコレを帝国軍に渡して下さい」
胸ポケットからメモリースティックを取り出してヴィクトリアに手渡した。
「これは?」
「八一号作戦の作戦概要です。急ぎ帝国軍に渡して下さい。じゃないと手遅れになります」
「わかった。必ず帝国軍に渡すと約束する」
その言葉を聞き納得したケビィンが応戦するとミカエラが怯む。
「今です!」
ケビィンが叫ぶと二人は柱から飛び出して直通の昇降機に飛び込んだ。
「義父さん! 早く来て!」
ラインハルトの言葉を聞き、ケビィンは走りだす。
一緒に昇降機に飛び込むかと思ったが、ケビィンは乗らずに昇降機の扉が閉まり出す。
「義父さん……?」
「お前は俺の誇りだ、ラインハルト・シュヴァルツ。王女殿下と幸せに生きろ、俺みたいに過去に囚われて生きるなよ……」
そして扉が閉まる。
ラインハルトが最後に見た父の顔は笑っていた。
「お前っ!!」
ミカエラが拳銃を撃ちながら叫ぶ。
「ふざけるなっ!――」
弾は至る所を撃ち抜いていく。
「アルムルーヴェを取り逃がしやがってっ!」
それでもケビィンは振り向いたが昇降機の扉に倒れ込む。
「ミカエラ……お前は死すべき人間だ。私と一緒にな……」
「何を……っ!?」
ケビィンの手には手榴弾が握られていた。
「お、おおおまままえええっっっ!!!」
その瞬間、爆発と共に一つの輝く命の星が落ちた。




