愛しい想い人
ラインハルトが頑なに吐かない為に、ミカエラは薬物注射で吐かせる準備を進めた。
あれから進展が無いのにおかしいと思ったケビィンが部屋を訪れて驚愕する。
「ラインハルト!? ミカエラ特務大尉、話が違うぞ!」
「私は任務に忠実なだけです。八一号作戦は間も無く開始されますし、決起に参加した兵士達の為にやらねばならないのです!」
「きっ貴様!」
ケビィンがミカエラに掴みかかる。
「お前達! 大佐を拘束しろ。大佐、貴方の任を解きます。今後は私が指揮を執る」
「何を馬鹿な事を!?」
ケビィンが扉に居る衛兵を見ると、彼らは銃を向けていた。
「お前達……」
ケビィンの腰から拳銃を取り上げ衛兵達はケビィンを部屋から連れ出した。
ミカエラが気絶しているラインハルトの頭に水を掛け、頬を叩いて起こす。
「お前、大した精神力の持ち主だな。訓練を積んだ兵士でも普通は喋るぞ」
「そりゃどうも……。ヴィッキーに鍛えられてるし、これくらいの精神力が無いとアルムルーヴェの想い人は出来ないからね……」
「見上げた奴だ。だが薬を射つとそうは言ってられなくなるぞ。この薬は神経の痛みを増幅し、堪え難い苦痛をお前に与える。さっきまでの拷問が楽に感じるくらいにな」
注射針の尖端から薬剤が数滴したり落ちる。
「やればいいさ……僕は絶対に言わない。彼女に失望されるくらいなら死んだ方がマシだ……」
「淫蕩なアルムルーヴェの小娘の色仕掛けに惑わされたた奴が何を強がる」
「今度……僕の前で彼女を侮辱する言葉を言ったら……お前を殺してやる」
「減らず口を……」
注射針がラインハルトの腕に刺す瞬間、要塞が揺れ動き、同時に爆発音も響き渡った。
「何事だ!?」
ミカエラが窓から外を見ると、海から船が……軍艦が砲撃しながら近付いて来る。
「連邦のバーミンガム級巡洋艦!? 我々は味方だぞ! まさか……」
ミカエラはラインハルトを見て察した。
経緯は分からないが、バーミンガム級巡洋艦は乗っ取られてしまい、ラインハルトを助けに来た奴らがいる。
「アルムルーヴェの小娘か!? お前を助けに戻って来たんだな、そうに違いない! わざわざ向こうから来てくれるとわな」
壁に掛けられた無電の受話器をミカエラが取りながら指示を出した。
「ミカエラ特務大尉だ。ケビィン大佐は任を解かれた為に今後は私が指揮を執る。バーミンガム級巡洋艦は敵の手に落ちた。要塞砲で船の足を止めろ。榴弾ではなく模擬弾を使うのを忘れるな。あの船にはアルムルーヴェの小娘が居る。奴を絶対に殺すな!」
ミカエラの指示の下、要塞砲が可動して照準を合わせる。
バーミンガム級巡洋艦は果敢に砲撃をしながら全速で要塞に近付く。
砲弾は要塞の城壁を爆砕し、要塞側も負けじと要塞砲を放つ。
模擬弾の為に装甲や船体に穴を開けるがせいぜいだが、それでも確実に速度は遅くなる。
今度は巡洋艦から噴進弾が放たれ、要塞の近接防御火器が迎撃していく。
爆発した爆風をかききり、煙りの中から巡洋艦が現れた。
「馬鹿な! 特攻する気か!?」
ミカエラが叫んだ瞬間、要塞に衝撃と轟音が響き渡った。
巡洋艦が大桟橋を破壊して要塞の城壁に刺さったのだ。
すると今度は銃撃音が部屋に届き始めた。
「馬鹿どもが、殺したら意味が無いだろ! 私が指揮を執ってくる。お前達はコイツを見張っていろ!」
ミカエラが衛兵二人に指示を出し、部屋を飛び出して行った。
要塞内部では苛烈な銃撃戦が始まっていた。
巡洋艦の潰れた艦首からはライト達が要塞に乗り込んだが、要塞守備隊は戸惑った。
ライト達が着ている服は国防軍の軍服なのだ。
敵味方が分からなくなり、中には味方同士で撃ち合う場所があるくらいだ。
「ヴィクトリア、お前の作戦通りだな! 奴ら混乱してるぜ!」
「無駄口を叩くな! いずれ敵も混乱が収まる。早くラインハルトを救出しないと!」
ヴィクトリアの横についたミヤビが叫んだ。
「わかってる! ヴィクトリアは早く行って、ここは私達が抑えるから!」
「わかった! 会合地点で落ち合おう。死ぬなよ、ミヤビ!」
ヴィクトリアが銃撃の渦中に消えていくなか、ライトと仲間が叫ぶ。
「俺達もいるぞ!」
ライトが頭を出して叫んだ瞬間、弾の嵐が降り注ぐ。
ヴィクトリアは鬼神の如く兵士達を凪ぎ倒していく。
持ち前のライフルの弾が無くなれば、倒した兵士から弾を奪い射撃を続けた。
トニーからの事前情報によればラインハルト要塞内部の中層フロアに居ると聞かされた。
突入したのが大桟橋がある下層フロアの為に階段を駆け上がる。
「ラインハルト! 何処に居るんだ!!」
虱潰しに声を上げる中、一人の兵士が廊下に通じる扉を開けて階段に現れた。
兵士はヴィクトリアの姿に気付き、ライフルを構えるが遅かった。
ヴィクトリアがライフルを払い除けて拳銃を顎下に突き付ける。
「お前、ラインハルトは何処に居る! 言えば命だけは助けてやる!」
「知らねぇよ、淫蕩なアルム――ぐぁっ!?」
ヴィクトリアが拳銃で兵士の脚の撃ち抜いた。
「お前、運が良いな。私は寛大だから見逃してやる。ラインハルトが居る時に、その言葉を私に浴びせたらお前は殺されているぞ。さぁ、あの者は何処に居る!」
ヴィクトリアの焔の瞳が紅く輝きながら兵士を睨みつける。
「わ、わかった! このフロアの上だ。廊下の突き当たりの部屋に居る!」
「感謝する……」
ヴィクトリアは拳銃の銃床で兵士の頭を殴り気絶させた。
兵士の言葉の通り、上のフロアに行き扉を開けた瞬間、廊下の奥から激しく銃撃されてしまい足止めを食らう。
ヴィクトリアはライフルを撃ちながら距離を詰めた。
向こうは衛兵二人に武器は拳銃。
ライフルを装備するヴィクトリアが火力で勝るが、途中で弾切れになってしまう。
残された武器は拳銃と手榴弾が数個。
向こうは部屋の扉を閉めて、ヴィクトリアと同じ様に柱の陰に隠れながら撃ってきている。
「余り運任せは好きでは無いが、仕方ない!」
そういうとヴィクトリアは手榴弾を一つ投げ込んだ。
それに気付き、衛兵の一人が投げ返そうした瞬間ヴィクトリアは撃ち抜く。
倒れたのに気付いた最後の衛兵が拾おうとした刹那、手榴弾は爆発した。
黒煙の中、ヴィクトリアはラインハルトの事だけを考え走りだす。
ただ無事でいて欲しい、また可愛いヴィクトリアとしまりの無い顔で言って欲しい。
そして破壊された扉をなんとかこじ開けて、遂に離ればなれになっていた星たちが再開を果たす。
そこにいた少年は顔をあげて少女を見る。
少女は今にも泣きそうな顔をして少年に言葉をかけた。
「遅くなってすまない、愛しのラインハルト」
そして愛しのラインハルトは少女に頑張って笑顔を見せ言う。
「必ず来てくれると信じていたよ……愛しのヴィクトリア」




