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お前も私もシュヴァルーヴェ

 ミヤビとヴィクトリアが酒場に辿り着き中に入る。

 酒場の中には戒厳令だと言うのに昼間から酒を飲んでいる人が何人か居り、ミヤビがマスターに話し掛ける。


「ねぇ、ここにトニーっていう男がいない?」


 ミヤビの問いにマスターは右手の親指であっちだと合図した。

 その方向を見てみると、一番奥のテーブル席に一人の男が居る。

 テーブルには幾つものジョッキや酒のつまみが散乱して男はテーブルに足を置きながら寝ていた。


「あんたがトニー? 話はライトから聞いたと思うけど」

「あ? あぁ、ライトね。ライトの奴はどうしたんだ?」

「悪いけどライトは取り込み中なんだ。私が代理人よ」

「じゃ話は無いから帰りな」

「ちょっと!?」


 男が再び寝ようとした瞬間、ヴィクトリアは男が座る椅子の脚を蹴り飛ばした。


「武器商人が聞いて呆れるな。お前が手を貸せば間接的にでも帝国に恩が売れるぞ」

「そんなに大事なのかよ、そのラインハルトって男は?」

「あぁ。彼には何度も命を助けられた。だから今度は私が命をかけて助ける。それに私は皇帝の孫娘だ、お前達の要望を通し易いぞ。確約はしないがな」


 ヴィクトリアの言葉にトニーは立ち上がる。


「わかった。俺達の要望は商売に対する帝国の恩赦だ。まずは四季国の国防軍に強制的に囚われている仲間の解放だ。大半は言い掛かりをつけられて逮捕され、帝国領内の刑務所に容れられているからな」

「なんだ意外と易い要望だな。もっと過激な内容かと思ったぞ。四季国における武器の販売に一枚噛みたいとか」

「そんな要望、最初から帝国が許す訳がないだろ。いくら皇族に恩を売ってもな」


 そう言うと椅子を直してトニーは酒を飲み始めた。


「確かにな。確約は出来ないが解放の件はちゃんと皇帝に申し上げる」

「それで構わない。で、あんたらの要望は? まさか軍艦とか言うなよ」

「安心しろ、簡単な要望だ」


 ヴィクトリアはミヤビに合図を送ると、ミヤビは小さなメモをトニーに渡した。


「だいたいの物は夕方までに用意出来る。しかし最後の注文はちょっと値が張るぞ」

「構わない。金は私が出すから心配するな。アルムルーヴェは約束は必ず守る」

「なら商談成立だ。仲間に連絡して直ぐ手配する」




 ラインハルトが再び目を開けると椅子に座らされていた。

 だがそこに自由は無く、両手両足を手錠に繋がれている。

 脱出の時に撃たれた左太股と右腕には治療された跡がある。


「起きたか、ラインハルト。帝国の皇太女から何か預かっているな。それは何処にある?」


 その声にラインハルトは顔を上げると目の前には養父のケビィンが立っていた。


「義父さん……やっぱり義父さんが関わっていたんだね。間違いだと思いたかった……」

「私は四季国を真の自治独立為に動いているんだ。今の傀儡政権では四季国に未来は無いからな」

「私はって、いかにも独裁者が使う自己正当化の為に聞こえるよ……」


 その言葉にケビィンはラインハルトの頬を叩く。


「お前はブリキの小娘に騙されているんだ! 帝国の連中は俺達の事を機械の部品としか見ていないんだぞ!」

「騙されているのは義父さんだよ! 帝国の人達は今でも四季国から受けた恩は忘れていないんだよ? だから形だけは報国にして内政自治を認めてるんだ。義父さんの方こそ、連邦の奴らに騙されているよ」

「アイツらは人間じゃない! 帝国という巨大な機械を動かす部品なんだ。奴らは皇帝の為なら喜んで死ぬ連中だ!」

「それは違う!」

「いや違わない! アイツらはお前の親を殺し、私の弟を殺したんだぞ! そんな奴らの女にお前は騙されているんだ。早く預かった物が何処にあるか言え! 言わないと拷問させられるんだぞ」

「ヴィッキーが言っていた。帝国の人達は皇帝の為に戦わない、己の誇りの為に戦うんだと。それにそんな物は知らない! 例え知っていたとしても絶対に言わない!! 拷問されても僕は戦う、己の誇りの為に!」

「ラインハルト! お前って奴は……」


 押し問答が続くと部屋の扉が開いた。


「大佐、残念ながら時間です。ここからは私が引き受けます」


 ラインハルトと同じ漆黒の黒髪に黒いサングラスで瞳を隠している男性士官。


「ミカエラ特務大尉、まだ――」

「いえ。大佐、終わりです。内通者からの情報で帝国が明日、連邦に宣戦布告すると連絡が来ました。時間が惜しいので手早く済ませます」

「わかった……なるべく穏便に済ませろよ。例え義理でも私の息子なんだからな」

「わかっております、大佐」


 ケビィンが部屋から出るとミカエラはラインハルトの撃たれた脚を握る。


「ぐっ……」

「早く言え、皇太女から預かってある物があるだろ? それを言ったら楽になるんだぞ」

「し、知らない!」

「そうか、ならばお前と私の我慢比べだな。お楽しみはこれからだ!」


 ミカエラは腰のベルトに備え付けていた小型ナイフを引抜き、それをラインハルトの手の平に突き刺した。


「さぁ言え、預かった物を早く! じゃないともう片方の手も刺すぞ!」

「知らない! そんな物は知らないって言ってるだろ!」


 ラインハルトが頑なに拒む。

 そしてミカエラはラインハルトの片方の手も刺す。


「強情だな。ブリキの小娘なんかの色仕掛けに惑わされ、一族の恥さらしが……」

「一族……まさか……」


 ミカエラがラインハルトの肩を掴みながら、顔を近付けてサングラスを取る。

 その瞳はラインハルトと同じ瑠璃色の瞳。

 しかも蒼く輝いている。


「お前もシュヴァルーヴェだが、私もシュヴァルーヴェの末裔だ。もっとも私の一族はアルムルーヴェに対する恨みは忘れていない」

「そんな……」


 ラインハルトが驚愕しているとミカエラは頭を掻きながら叫ぶ。


「アイツらは卑しく穢い一族だ! そんな奴らを何故守る? 何故愛する? 奴らは私達の一族から全てを奪ったんだぞ。地位や名誉……あげく命までも。そんな奴らは生きるに値しない。同族のよしみで情けを掛けてやる。例の物は何処にある!」

「彼女を守る為なら喜んで命を危険に晒すし、愛に理由なんか要らないよ。例えお前達が求める物を知っていたとしても言わない……言ったらヴィッキーに嫌われる……アルムルーヴェは怒ると怖いからね」

「残念だ、ラインハルト・シュヴァルーヴェ!」


 そこからミカエラの拷問が始まった。

 焼いた鉄の棒を体中に押し付け、体中の皮膚を焼く。その次は水責めをした。

 果てはラインハルトの両足に小さな杭を刺して電気を流した。

 意識を失うとまた電気を流して意識を起こさせる。

 それを繰り返したがラインハルトの口から彼らが求める答えは出ず、痛みに堪える叫びが部屋に響き渡るのみだった。

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