人類最終戦争
ヴィクトリア達が要塞内で脱出騒ぎを起こしていた少し前、帝都ユグドラシルでは各国の大使達が王宮にある中でも一際大きい謁見の間に集まっていた。
連邦や共和国にアレグリア王国など、述べ数諸外国を合わせれば五十カ国になる。
各国の大使の目的は先にガーデンリング回廊内で起きた帝国艦と連邦艦隊の不幸な偶発的事故についてだ。
もっとも不幸な偶発的事故と言っている国は連邦と共和国にアレグリア王国だけで、後の諸外国は内心は懐疑的だが三ヵ国に経済的また軍事的に弱味を握られている為に逆らえない。
だから形だけでも帝国が暴発しない様に諸外国な大使達は来たのだ。
そして深紅の玉座の主が現れた。
黄金の髪と双翼の翼を靡かせながら颯爽と歩く。
純白の軍衣を纏い、頭には小さな頭冠を被っている。
その姿に大使達は一斉に頭を下げた。
たとえ内心は下げたくなくても体が勝手に動いてしまう。
それ程までに皇帝ヒルデガルドは風格と威厳が満ちている。
皇帝ヒルデガルドが玉座に座り、開口一番に大使達に言った。
「各国の大使達諸君、朝早くからすまないな。そなた達は先にガーデンリング回廊内で起きた戦闘の事について話をしたいのだろ?」
「皇帝陛下、御待ち下さい! それは違います!」
スーツを来た白髪の男性が前に出た。
「ほぉ……どうやら連邦の大使とは考えの相違があるようだな。どう違うんだ? ハル大使」
ハル大使を見るヒルデガルドの瞳が紅く輝き出してきた。
「あれは不幸な偶発的事故に過ぎません。我が連邦艦隊がガーデンリング回廊で演習をしていた所にたまたま帝国艦が来てしまい、模擬戦闘用の噴進弾が帝国艦近くに着水。それを帝国艦が戦闘行為と間違え戦闘に発展したに過ぎません」
「ならば我ら帝国軍が間違え、我らの方から戦闘を始めたと?」
「そういう事になります、陛下。我々としても至急調査を……」
ハル大使が言葉を続けようとしたが、皇帝ヒルデガルドは何やら笑いを堪えている様に見えた。
「何が可笑しいのですか、陛下」
その言葉に皇帝ヒルデガルドは玉座の肘おきに肘をつき、手で傾けた頭を支えながら言い放つ。
「いや……もう少し私を楽しませる嘘が聞けると思ったのだ」
「嘘……私がですか?」
「すまないな、説明が足りなかったみたいだ……」
ハル大使を見るヒルデガルドの瞳が完全に紅く輝いてしまう。
「我ら帝国軍は間違いを犯さない。仮に戦闘の意志が有ったとしても我らは宣戦布告する。例え騙し討ちだとしても、枕は蹴って相手を起こしてやるのが道理だ。違うかね大使?」
皇帝ヒルデガルドの言葉に大使達がどよめき出した。
明らかに帝国は真実を知ってるいる。
だが証拠が無いのでわざと遠まわしに言っているのだ。
「陛下! それではまるで連邦艦隊が先に仕掛けてきた風な言い分です。誰にでも間違いはありますぞ」
「先に申しただろ。我ら帝国軍に間違いは無いと。貴国の軍隊ならあり得るが、我ら帝国軍をそなた達の乏しい物差しで計るな」
正しく『傲慢にして、強欲の黄金獅子』の言葉。
その言葉にハル大使が何か言おうとしたが、ハル大使の横にいた恰幅の良い男性が発言した。
「陛下、真偽を確める為に至急調査をした方が双方が納得するかと。ここは我がアレグリア王国が取り仕切りますので――」
「そなたも下手な嘘を言うのか、チャーチル大使。言っておくが我らアルムルーヴェは嘘が嫌いだ」
「しかしこのままでは戦争になります! どうか御再考をお願いします」
一歩も引き下がらない大使達に皇帝ヒルデガルドは深紅の玉座から立ち上り宣言した。
その言葉は大使達が思いもよらない言葉。
「宜しい、ならば戦争をしよう」
余りの衝撃に大使達は頭が真っ白になった。
そんな中、チャーチル大使の横にいた女性が前に出た。
「陛下、御再考を。連邦と戦っても双方得るものがありません」
「すまない。言葉が足らなかったみたいだな、メイ共和国大使。私はそなた達三ヵ国に言ったのだ」
「陛下!? それでは世界大戦になります!」
皇帝ヒルデガルドは三ヵ国に宣戦布告したのだ。
そしてメイ共和国大使が言う世界大戦に皇帝ヒルデガルドは言い放つ。
「そうなるな。だがこの戦争を私は人類最終戦争になり、この戦争に帝国が勝てば人類は二度と戦争はしないと確信している」
「恒久平和ですか……そんな夢物語は叶わない夢ですよ」
「言っただろう。そなた達の乏しい物差しで計るなと。仮に私の代で実現出来なくても、次の皇帝が……また次の皇帝が必ず実現させるだろう」
例え自分が到達出来なくても、自分の想いを紡ぐ皇帝が必ず実現させるとヒルデガルドは信じているのだ。
「あす八月十五日九時、帝国は三ヵ国並びに追随する諸外国に対し宣戦布告する。そなた達の外交特権並びに大使館は明日八時五十九分五十九秒もって効力が消滅する。無事な帰国を願う、以上だ」
双翼の翼を靡かせ、皇帝ヒルデガルドは謁見の間から立ち去った。
皇帝が居なくなると同時に大使達はただ項垂れて中には床に座り込む者も居た。
明日には世界大戦という名の人類最終戦争が始まってしまう。
ラインハルトを救出すると決めたヴィクトリア達はチシマの街中に潜伏していた。
ライトの友人と落ち合う予定のとある酒場に行きたいのだが、戒厳令を発令されてしまい至るところに国防軍が居て動けないでいる。
「おい、ライト! いつまで路地裏に隠れてるつもりだ。早くしないとラインハルトが……」
痺れを切らしていつもの癖が出始めているヴィクトリア。
いつもなら隣にいるラインハルトが嗜めるのだが、国防軍に囚われている為に暴発しかけているのだ。
「少しは我慢しろっ! お前、我慢が出来ない性格だろ。よく坊主の奴、こんな女と付き合えるな……可愛げねぇし心が広すぎだろ」
「ラインハルトをそこらの男と一緒にするな。あの男はありのままの私でいいと言ってくれるし、いつも可愛いと言ってくれるぞ」
「見てくれだけだろ!」
「なにを貴様!」
一触即発になる寸前にミヤビが割って入る。
「そこまで! 二人が互いにお熱なのはわかったから。早くしないと兵士達に見つかるよ。特にヴィクトリア、あんたの黄金の髪は目立つからね」
ミヤビがヴィクトリアの髪を見る。
薄暗い路地裏でもきらびやかに輝く黄金の髪だ。
ミヤビの視線に気付いたヴィクトリアは、さっと両手で髪を隠す。
「この髪はお気に入りなんだ。ラインハルトもこの髪は好きだと言ってくれるし、いじる気は無いからな」
「わかってるわよ。そうは言っても、こんだけ兵士が多いとね……」
ミヤビが路地裏から伺うが、大通りには多くの兵士が家や店を虱潰しに捜索している。
ふとミヤビはライトを見て悪そうな表情を見せた。
その表情にライトが悪寒を感じとると、ミヤビはライトを突き飛ばし叫んだ。
「あー! 変なオジさんがいる! 何か海賊みたいな格好よ!!」
「お前!?」
ミヤビの叫びに反応して兵士達が一斉にライトを見て走り出す。
「そこのお前止まれ!」
兵士達の叫びに反応してライトは走って逃げて行き、それを兵士達が追いかけて行った。
「今のうちだよ、ヴィクトリア」
「あぁ、ライトは大丈夫なのか!?」
「心配無いよ、逃げるのはアイツ得意だからね!」
ライトのお陰で兵士達が居なくなった隙に、ミヤビとヴィクトリアは酒場に向かって走って行く。




