生きるも死ぬも、お前と一緒だ!
二人が階段を駆け上がり地上との扉前に着く。
扉を少しだけ開けると廊下の奥から兵士が二人、ラインハルトとヴィクトリアに近付いて来る。
「ヴィッキー、どうする? 銃を使うとバレちゃうよ」
「心配するな。時間通りならもうすぐ……」
ヴィクトリアが手首に備え付けたコムニカの画面を見る。
時刻は八月十四日、午前七時半を回っていた。
そして要塞の警報が鳴り響く。
「ヴィッキー!?」
「大丈夫、私を信じろ」
要塞の警報が鳴り響くと兵士達が慌ただしく動き始めた。
ヴィクトリアが無線機を取り出してマイクにナイフを刺しながら弄り喋り出す。
「留置場から海賊と帝国の奴らが逃げ出した……。奴らは要塞の車両置場に向かっている……」
『了解した。留置場に応援は必要か?』
「こちらは大丈夫だ。直ぐに車両置場に向かう」
その姿にラインハルトは感心してしまう。
「なるほど、ライトさん達がわざと警報をならしてヴィッキーが偽情報を流す作戦だね」
「そういう事だ」
ヴィクトリアが頷くと自身のコムニカの画面をラインハルトに見せた。
「ライト達から入手した要塞の見取り図によると車両置場は要塞正面にある。ライト達が押収された船は反対側の地下の桟橋か、大桟橋にあるみたいだからな。どうしても注意を惹き付けておきたかったんだ」
「さすがヴィッキー。頭良い」
「ま、まぁこれくらい普通だ。だが存分に感謝してもいいし、感謝の気持ちに頭を撫でてもいいぞ」
アルムルーヴェ一族特有の上から目線の言い方をラインハルトは久しぶりに聞いた。
「わかったよ、存分に感謝する。本当にヴィッキーは甘えん坊の欲しがり屋さんだね」
手柄を立てたヴィクトリアの頭を撫でると、まるで猫が撫でられた様に嬉しそうな表情を浮かべる。
ラインハルトが撫でるのを止めたら、物欲しそうな表情でラインハルトを見る。
「おい、止めるな。まだ私は満足していない」
「ダメ。帰ったら好きなだけ甘えさせてあげるし、頭を撫でてあげるから今は我慢して」
「わかった……約束だからな」
「わかってるよ、可愛い想い人」
二人は廊下の扉を開けて進む。
警報のお陰で兵士達は車両置場に急行しているらしく、廊下には誰もいない。
だがいずれ嘘はバレる。
嘘が明るみになる前に二人は中庭に辿り着いて作戦の第二弾を発動しなければならない。
だが、あと一歩の所で兵士の一人が二人を発見した。
「いたぞ! こっちだ!!」
兵士が叫び、ライフルの照準にヴィクトリアを捉えた瞬間、ラインハルトが拳銃を撃つ。
弾丸は見事、兵士の肩に当たり倒れ込む。
「すまない、ラインハルト!」
「いいから急ごう!」
二人は中庭に飛び出した。
すると目の前には鉄騎が数台置かれている。
その内の一台は初期型の通称一号鉄騎だ。
フィリーネの部屋で見た写真の鉄騎と同じだと思っていたら、兵士達が銃撃を加えてくる。
二人は急いで鉄騎のハッチを開けて乗り込んだ。
「ラインハルト、何も一号はないだろ!? 隣には三号が居たんだぞ!」
「ごめん、近くに居たからつい! 文句は後で受付るから!」
ラインハルトが操縦士の席に座り、ヴィクトリアが車長の席に座り込む。
鉄騎の起動ボタンを押すと、ヴィクトリアの正面と両側面にあるモニターが映り出し、スピーカーから音声が流れだす。
『通常モードで起動しますか?』
「いや、緊急モードで起動。榴弾を遅発信管で装填」
『了解。緊急モードで起動。榴弾を遅発信管で装填。起動まで百八十秒』
「まったく……急げ駄馬!」
ヴィクトリアがモニター越しに文句を言っているとラインハルトが訊いてきた。
「ヴィッキー、やり方わかるの!?」
「一応な。母上に教えてもらったから大丈夫の筈だ」
「あ~フィリーネさんだったら納得した……」
鉄騎の操縦法は下級候補生でも習うのは最後の方なのにヴィクトリアが起動方法を知っていてラインハルトは驚いたが、フィリーネが教えたと訊き妙に納得した。
モニター越しに見ると兵士達が猛烈な銃撃を加えている。
「ラインハルト、右足のペダルが前進で左足のペダルが後進だ。左右のレバーで進行方向を決める。右なら右レバーを前に押しながら、左レバーを手前に引くんだぞ」
「わ、わかった」
「よし、では戦闘開始ッ!」
鉄騎が起動し、ヴィクトリアはまず機銃のトリガーを引く。
砲塔に備え付けられている機銃を掃射すると兵士達が驚いて逃げ惑う。
「ラインハルト、前進だ!」
ヴィクトリアの指示に鉄騎が前進すると思われたが、何故か鉄騎は勢い良くバックして要塞の壁にめり込む。
「バカ! 誰が後進と言った!? 前進だ!」
「ごめん、まだ慣れてないんだよ!」
ラインハルトの背中を蹴り急がせる。
鉄騎が履帯を勢い良く回転し、壁を破壊しながら抜け出した。
「右旋回しろ! 駐機してある鉄騎を破壊する!」
「わかった!」
鉄騎が大きく右旋回していると兵士達が野戦砲を持って来ていた。
それをヴィクトリアが逃がさず装填された榴弾を撃ち込む。
榴弾は野戦砲の脇に刺さり、兵士達が不発弾だと安心したのも束の間、遅発信管で爆発した。
「次、徹甲弾装填!」
モニター越しに叫びながら駐機してある鉄騎を照準に捉えた。
装填完了が画面に表示されな瞬間、トリガーを引く。
放たれた徹甲弾は見事、無人の鉄騎に命中し炎上する。
次々と鉄騎を破壊し炎上させていく。
「反転して中庭を出るぞ! 出来る限り奴らの注意を遠ざける!」
「了解!」
中庭出口の鉄の扉目掛けて徹甲弾で穴を開けて、榴弾の爆発で穴を広げる。
鉄騎の砲身を逆反転させ、そのまま扉を突き破る。
中庭から出ると正面には要塞入口が見え、右手には車両置場が見えた。
「榴弾装填! ラインハルト、右旋回! 邪魔な歩兵は機銃で凪ぎ払う!!」
ヴィクトリアはラインハルトに指示を出しながら右足でラインハルトの右肩を蹴った。
鉄騎が右に旋回しながら機銃掃射をかけ歩兵を凪ぎ払う。
そして車両置場に駐車してある大型四輪駆動車に榴弾を放つ。
榴弾が命中した車両の爆発に巻き込まれ、周りの車両も連鎖爆発していく。
「よし。ラインハルト、そろそろ――!?」
ヴィクトリアが何か言いかけた刹那、右モニターが赤く点滅し、二人の乗る鉄騎に何かが当たった。
モニターを見ると二人の乗る鉄騎よりも大型な鉄騎が接近して来る。
「まずいよ、ヴィッキー! 二号鉄騎だよ!」
「わかってる! 徹甲弾装填、前進しながら右に旋回!」
再びヴィクトリアがラインハルトの右肩を蹴りあげて促し、互いの砲身が捉える。
同時に徹甲弾が放たれ、ヴィクトリアの放った徹甲弾は装甲を貫けず跳弾し、敵の徹甲弾は地面に当たり跳弾した。
互いにすれ違い体勢を整えようと旋回した。
「二号の方が旋回が速い!? 間に合わないよ!」
「いいから黙って全速で旋回しろ!」
ヴィクトリアが正面モニターを見た刹那、既に敵の砲身はこちらを捉えていた。
その瞬間、敵の徹甲弾が放たれたと思ったら強い衝撃と閃光がヴィクトリアを襲う。
気付いたらヴィクトリアは水辺の中に立っていた。
自分は鉄騎の中にいた筈なのに、空を見上げれば満天の星空。
その星ぼしの輝きがまるで鏡の様に水面に反射する。
「ここは……私は鉄騎の中にいたはずだ」
辺りを見回しても誰も居ない世界。
ふと背後から懐かしい声が彼女の心を高鳴らせる。
「私の可愛い愛娘」
振り返るとそこにはヴィクトリアの母親のフィリーネが居る。
「母上……母上!」
ヴィクトリアは嬉しさの余りフィリーネに駆け寄るが、一向に二人の距離が縮まらない。
むしろ離れていく一方だ。
「母上! 行かないで下さい! 私を置いて……御願いだから置いて行かないで……」
ヴィクトリアはつまづいてしまい水辺に倒れ込みながら母上と叫んだ。
だがフィリーネは笑いなから白い光の中に消えていき、ヴィクトリア自身も白い光の中に消えていく。
「ヴィ……。ヴィッ……ヴィッキー! 起きるんだ!」
ラインハルトの声に目覚めるとヴィクトリアは辺りを見る。
そこは星の海ではなく、生きるか死ぬかの戦場だ。
ヴィクトリアの正面モニターには鉄騎の砲身が向いているままだ。
運良く砲弾が跳弾したらしいが、正面モニターの画像が砂嵐混じりに映る。
「ラインハルト、まだ動けるか!?」
「勿論だよ、相棒!」
「よし! 前進して背後に回り込み最後の一撃を加えるぞ!」
「あぁ!」
全速で履帯を回して前進する。
敵の鉄騎も気付いたらしく、後ろを取らせまいと後進していく。
相手の動きを少しでも遅らせる為にヴィクトリアは敵の履帯目掛けて徹甲弾を放ち、後はやけくそに機銃を当てていった。
放たれた徹甲弾は履帯に命中し、履帯が切れて地面に落ちていくが、敵は諦めずに行動限界まで後進する。
ラインハルトとヴィクトリアは同じ言葉を心の中で叫んだ。
『はやくはやくはやく、はやく動け!』
敵が行動限界まで来ると、今度は砲身の旋回速度速さを活かしてくる。
敵が二人の側面を捉えた刹那、ヴィクトリアが叫ぶ。
「主機関全開!」
その言葉に二人の鉄騎は唸りを上げて加速し、敵砲弾を避けた。
二人の鉄騎は履帯が切れて弾け飛びながら敵の後方に回り込み、照準に捉えた。。
「私は……私達はこんな所で負けない!!」
トリガーを引き徹甲弾が放たれ、砲弾は見事に貫通し鉄騎が炎上した。
そして二人が乗った鉄騎も機能停止して砲身が虚しく地面に向け垂れ下がる。
丁度その時、ライトから通信が入り大桟橋で拾い上げると連絡入った。
二人は鉄騎から脱出して、ヴィクトリアが鉄騎に敬礼した。
「さらばだ、我が愛馬。お前のお陰で生き残れたぞ」
ラインハルトも敬礼し、二人は急いで地下の桟橋に向かう。
敵も追撃も熾烈を極めて二人を追い込む。
大桟橋にあるコンテナの影に隠れようとした瞬間、ラインハルトが足を撃たれてしまう。
ヴィクトリアの肩を掴み、何とかコンテナに隠れられたが、ライト達の船も銃撃されてしまう。
そのライトの船は見たことの無い形状をしていた。
船体の両舷には翼の様な物があり、翼には船のスクリューみたいな物が付いている。
「ラインハルト!?」
「大丈夫、ちょっとかすっただけだから……」
「しかし……」
ラインハルトのズボンが瞬く間に赤く染まっていく。
「ヴィッキー、僕が囮になるから君だけても逃げるんだ……」
「嫌だ! お前を置いて行けるか!」
「ダメだよ、フィリーネさんから託された任務をやり遂げて、ペンダントの中身を奪われる訳にはいかないんだ!」
「絶対に嫌だ!」
互いに譲らないラインハルトとヴィクトリア。
ライトが船から降りて掩護に向かうが、銃撃が激しく近付けない。
そんな時、側面からライトを狙う兵士。
「ライト!」
ミヤビが叫んだが気付くのが遅れた。
敵が引き金を引こうとした瞬間、一発の銃声が鳴り響く。
ラインハルトが放った銃弾が敵に命中して間一髪ライトは助かった。
ラインハルトはヴィクトリアの頬を両手で包み込む様に触れる。
「お願いだよ、ヴィッキー。たまにはかっこ良く決めさせてよ。君は生きるんだ……」
「嫌だと言ったら嫌だ! 生きるも死ぬも、お前と一緒だ!」
「嬉しい事を言ってくれるね……。可愛いヴィクトリア」
ラインハルトはヴィクトリアに優しく口づけを交わす。
「もし僕が生きていたらこの続きをしようね、可愛いヴィクトリア」
「あぁ……絶対だぞ。お前は約束を破らない男だと信じてるし、私は出来ない約束はしないからな。必ずお前を迎えに行く、必ずな!」
「待ってるよ。その時はヴィクトリアの気が済むまで付き合うから。さぁ、行って……可愛いヴィクトリア」
ヴィクトリアは立ち上り拳銃を撃ちながら走り、それをラインハルトが援護する。
ライトやミヤビ達も応戦して敵が怯んだ一瞬の隙にヴィクトリアが乗り込んだ。
そしてライト達を乗せた船は全速で大桟橋から離れていく。
それを逃すまいと兵士がロケット砲を構えるが、ラインハルトが身を呈して防いだが、ラインハルトは肩を撃たれてしまい橋から海に転げ落ちた。
「ラインハルト!?」
ヴィクトリアの叫びは虚しく海に響き渡り、星たちは離ればなれになってしまう。




