首謀者
出せる限りのスピードで車を走らせるヴィクトリア。
時折、車が右左に揺さぶられてラインハルトは思わず叫ぶ。
「ヴィッキー! 運転したことあるの!?」
「いや! 残念ながら今日が初めてだ!」
明らかに顔が笑いながら運転するヴィクトリアを見て、ラインハルトの顔が引き攣る。
「それよりラインハルト! 後ろの連中の相手をしろ。お前が代わりに運転してくれるなら私が相手をするが!?」
ラインハルトがドアミラーを見ると車のライトが近付いて来たのを確認した瞬間、ドアミラーは銃撃で破壊された。
「銃座の重機関銃は使えるのか!?」
「たぶん! 扱い方は帝国と変わらない筈だから」
ラインハルトが銃座に座り、重機関銃のチャージングハンドルを引き、銃口を車のフロントガラスに向け引き金を引く。
鉄の扉でさえ穴を空けてしまいそうな大口径の弾丸。そのがフロントガラスを撃ち抜き、ガラスに血が飛び散る。
そのまま車は動きが遅くなってガードレールに衝突した。
安心したのも束の間、二台の新手が現れる。
一台は重機関銃を連射しながら、もう一台がスピードを上げ真横から車をぶつけては離れを繰り返す。
「しつこい人間は嫌いだ!」
ヴィクトリアは助手席に在った手榴弾の安全装置を解除してタックルを仕掛けた際に投げ込んだ。
手榴弾は見事に爆発し車を破壊する。
残りの一台がスピードを上げ車の横後部にぶつけてきた。
車をスピンさせる気だ。
「ヴィッキー、機関銃は弾切れだ!」
「わかった! 何とかする!!」
車が再びスピードを上げ、タックルを仕掛けた瞬間にヴィクトリアはアクセルを全開にする。
するとタックルを仕掛け損なった車はバランスを崩して横転した。
追跡を振り切ると目の前に国防軍の通信基地が見えた。
「通信基地だ、ヴィッキー!」
ラインハルトの言葉にヴィクトリアも視線を向けると通信基地と言う割りには固定砲台が幾つも在り、さながら城か要塞だ。
車が通信基地に近付くと突如探照灯が二人を照らし、行くてを遮るように土柱が上がる。
「そこのお前達止まれ!! 車を止めて表にゆっくりと出ろ!」
固定砲台から見下ろす無数の銃口。
「ヴィッキー、やっぱり……」
「あぁ。国防軍の反乱だ」
二人は手を上げて車から出る。
すると通信基地とは名ばかりの要塞の入口が開き兵士達が二人を捕らえる。
要塞指揮官らしき軍人が無線機を背負う兵士に言った。
「連邦と戦艦カグヤに伝えろ。生残りを捕らえたと。その内の一人はアルムルーヴェの小娘だとな。それとご子息は無事に保護したと」
「了解!」
指揮官の言葉にラインハルトが問いただす。
「待ってくれ! ご子息って義父さんも関わってるのか!?」
ラインハルトが問いただすと、軍人は答えた。
「関わるも何も君のお父上が最高指揮官だ。大佐から聞いてないのか?」
「嘘だっ!! 義父さんが――っ!?」
取り乱すラインハルトの頭を兵士が銃床で殴って気絶させるとヴィクトリアが叫ぶ。
「貴様っ!」
ヴィクトリアの焔の瞳が紅く輝く。
叫ぶヴィクトリアの頬を要塞指揮官は平手打ちした。
「少し黙れ、淫蕩なアルムルーヴェが。大佐のご子息を誘惑した罪は思いぞ、ブリキの小娘」
「ラインハルトが気絶していて良かったな。もし起きていたら私にその言葉を浴びせた罪、ラインハルトが貴様に後悔させてやる所だ……」
「ふん。色仕掛けで大佐のご子息を惑わした小娘が何を――っ!?」
急に要塞指揮官の言葉が止まる。
ヴィクトリアの真っ赤に輝く焔の瞳を見て恐怖心が顔を出したのだ。
「二人は他の奴らと同じ様に留置場にいれておけ。連邦と特務大尉とやらが尋問したいらしいからな」
要塞指揮官が言うと、ラインハルトとヴィクトリアは兵士達に連れられて要塞の中に入っていった。
ラインハルトとヴィクトリアが要塞の中に入ると基地の中庭には帝国軍が払い下げた旧式の鉄騎が数十台も待機していた。
中には帝国軍の鉄騎とは違う鉄騎もある。
二人は地下に連れて行かれるとそのまま留置場に入れられ鉄格子にカードキー式の鍵を締め兵士達は立ち去った。
狭い牢屋の中は湿っぽくて暗い。
唯一、壁上にある小さな鉄格子から外の様子が確認出来る。
ヴィクトリアはラインハルトの傷を見ると、幸いにも出血しておらず気絶しているだけみたいだ。
自分の上着を脱いで、それを枕代りにラインハルトの頭を乗せる。
鉄格子が外れないものかと何度か試したが、女の子の腕力でどうこう出来る物じゃない。
いてもたっても居られず小さな鉄格子から外の様子を伺う。
「少しは落ち着きな金髪のお嬢ちゃん」
何処からか声がした。
「誰だ!?」
ヴィクトリアが声がした方を見ると向かいの牢屋から一人の男性が影から現れる。
「怪しいもんじゃねぇよ。俺達もお前ら二人も仲間なんだから仲良くしようぜ」
「俺達?」
ヴィクトリアが呟くと周りの鉄格子から何人も手を振っている男女。
「悪いが、オジさんの相手をしてる暇は無い」
「オジさんって言うな! 俺はまだ三十だ」
「悪く思うな、私から見ればお前はオジさんだ。たまには鏡を見る事をオススメするぞ」
「おまっ!?」
ヴィクトリアの言葉に周りの囚人達から笑いが巻き起こる。
「それに帝国軍に敵襲来を早く知らせないといけないからな」
「お前ら帝国軍か? 知らせるってこの鉄格子からどうやって脱出するんだ。鍵はカードキーでしか開かないし、カードキーを持っている門番でも色仕掛けする気か?」
男がヴィクトリアを見るなり鼻で笑う。
「お前、仲間からバカだと言われないか? そんな単純な門番ならとっくにお前らの仲間の女が試してるだろ。それに私に触れていい男はラインハルト・シュヴァルツただ一人だけだ」
「ラインハルトって、そこで寝てるガキか?」
ラインハルトを指をさしながら言う。
「そうだ。それにガキじゃない。ラインハルトは誇り高き男で其処ら辺にいる男なんかよりも頼りになると私は信じてるし、彼の為なら喜んで命をかける」
「随分とガキに入れ込んでるみたいだな。でも幾らお前の入れ込んでるラインハルトでも脱出は不可能だ。大人しく寝てろ」
「嫌だ」
即答するヴィクトリアに男は鉄格子を掴みながら言う。
「嫌って……ガキがどうこう出来る物じゃないの。お分かり? 金髪のお嬢ちゃん」
「母上から『状況を打開したいなら自分から動け、他人を当てにするな』と教えられた。だから私は少しの望みも捨てず諦めない。たとえ愚かだと言われてもな」
その言葉に感銘するように他の牢屋から女の声がした。
「あんたの負けだよ、ライト。その子の方がガッツがあって私は好きだね」
「うっせーよ、ミヤビ! ガッツがあっても牢屋からは出れないんだよ!」
「ケツの穴が小さい男はモテないわよ? あ、あんたは女だったわね」
ミヤビの言葉に周りの囚人達が大笑いした。
必死に黙れと身振り手振りするライト。
「お前ら黙れっての! で、どうやって脱出するんだ? 金髪のお嬢ちゃん」
「まだ考えてる。それに金髪のお嬢ちゃんと呼ぶな。私の名前はヴィクトリア・フォン・アルムルーヴェだ」
「アルムルーヴェって、帝国の四大皇族か?」
ヴィクトリアが頷くとライトやミヤビ、周りの囚人達がどよめき出す。
「四季国の連中は気でも狂ったのか。帝国の皇族をこんな目に遭わせたら帝国軍の奴ら怒り狂って四季国を潰すぞ」
「ちょっと違う。我らは怒り狂ったりしない。やられたらやり返すだけだ。四季国を地図から消す」
「消すって?」
ライトの質問にヴィクトリアは即答する。
「言葉の通りだ。地図から四季国を抹消する。完全にな」
「俺より帝国軍の方がバカだろ!?」
ライトの叫びに囚人達は頷く。
地図から消すは文字通り、四季国を完膚無きまでに叩きのめして地図から存在を消すのだ。
「私も帝国軍もバカではない。これが普通だ」
「普通じゃねぇよ。お前ら加減ってものを知らないだろ……」
一同が飽きれかえっているとラインハルトが目覚めた。
「ヴィッキー……何処にいるの?」
その言葉を聞いてヴィクトリアは一目散にラインハルトの元に駆け寄った。
「私はここにいるぞ! 大丈夫か!?」
ラインハルトの頭を起こして自身の膝の上に乗せ、ラインハルトの顔を心配そう覗き込む。
「やぁ……可愛い想い人。どうして君の膝に僕の頭が乗ってるの?」
「わからないのか? 頭を殴られて気絶していたんだ……」
「ごめん……記憶がちょっと曖昧なんだ。ヴィッキーと一緒に基地に着いた事は覚えているんだけど、その先が……」
殴られたせいで脳震盪を起こして一時的な記憶障害を誘発してしまったらしく、ラインハルトが思い出そうとすると殴られた所に痛みが走る。
「無理をするな。お前は少し休め。私が傍に付いていてやるから安心しろ」
「ごめん役立たずで……。ちょっと休めば大丈夫だから」
「わかってる。それにお前は役立たずなんかじゃない。ちゃんと私の役に立ってる。だから休め」
「うん……」
ラインハルトが瞳を閉じると、ヴィクトリアはラインハルトが安心出来る様に頭を優しく撫でた。




