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味方の味方は敵

 夏の夜空の下、二人はひたすら車道を歩いた。

 顔を見上げれば星たちの輝きが眩しく、良い雰囲気なのだが今回ばかりは違う。

 なぜなら連邦軍が血眼になって二人を捜索してるからだ。

 そして田舎の車道だからか、二人が歩く車道には車が一台も通らない。

 一台でも通ればヒッチハイクして通信基地の近くまで行きたいのだが。


「ラインハルト、相変わらずお前の故郷は何も無いな。車が一台も通らないぞ」

「そりゃどうも。僕の故郷は自然が売りなんでね」

「そう拗ねるな。私は好きだぞ、お前の故郷はな。帝国には帝国の、四季国には四季国の良さがあるからな。暑いのは嫌いだが」

「正直に言うと僕も暑いのは好きじゃないよ。でも暑い季節も捨てたもんじゃない。なにしろヴィッキーの可愛い浴衣姿を見れたからね」

「なっ!?」


 ラインハルトの言葉にヴィクトリアの頬が紅潮してしまう。


「だ、黙れバカ! 恥ずかしい事を言うな」

「君は嘘が嫌いだから正直に言ったんだよ。正直ついでに言うと、ヴィッキーの可愛い浴衣姿をまた見たい」


 ラインハルトから寄せられる熱い視線にヴィクトリアは赤くなった表情を隠す様に俯きなから呟いた。


「わかった……旅行の時にな……」

「そうなると楽しみが増えて、早く旅行に行きたいな」

「私も楽しみだし、早く行きたいと思ってる。せっかく母上にも許可を貰ったからな……」


 母上と口に出した瞬間、明らかにヴィクトリアの表情が曇ったのが分かった。

 フィリーネが無事なのか心配なのだろう。


「フィリーネさんやシュネーヴィの皆ならきっと大丈夫だよ」

「うん……」

「僕が今まで君に嘘をついた事は無いだろ? 今回もそうだよ。きっと可愛い愛娘と言って君に会いに来てくれる。だから信じて欲しい、僕の言葉を」

「わかった、お前を信じる。それに最初からラインハルトの事は信じてるから心配するな」


 ラインハルトの言葉にヴィクトリアの顔に光が戻っていく。


「嬉しい事を言ってくれるね。ヴィッキーの事が益々好きになるよ」

「わ、私も……お前の事が……」


 ラインハルトに伝えたい愛の言葉が恥ずかしくて口に出来ないでいると彼はヴィクトリアの頬に優しく触れながら言った。


「わかってる。ちゃんとわかってるから大丈夫だよ。ヴィッキーが恥ずかしがり屋なのも知ってるし、無理に言わなくても君の想いはちゃんと僕に届いてるから」

「ラインハルト……」


 その温かい言葉を掛けられ、ヴィクトリアは思わずラインハルトに抱き付いた。


「ヴィッキー!?」

「許せ……暫くこのままで居させて欲しい。お前を想う気持ちが高ぶってしまった……」

「わかったよ。それに僕もヴィッキーと同じ気持ちだよ……」


 しばらく互いに抱き合っていると、ラインハルトがゆっくりと、そしてぎこちなくヴィクトリアの肩を優しく掴み離れさせる。


「ラインハルト?」


 ヴィクトリアが不安そうな顔をする。

 もしかしたら何か間違った事をしてしまったのかと思ったのだ。

 だがラインハルトからの言葉を聞いて杞憂に終わる。


「ごめん、ヴィッキー。これ以上は僕の理性が無条件降伏しちゃうから……悪いけど離れよう」

「わ、わかった。許せ、ラインハルト。お前の想いに応えてやりたいが、流石に今はマズイからな……」

「僕の方こそごめん……」

「気にするな」


 二人の間に一転して気不味い雰囲気が流れてしまったが、それを打ち砕く出来事が起きた。

 遠くの方から二人に近付くライトの光。

 二人は車だと思って手を振ろうとした瞬間、明らかに普通の車と違う。

 砂漠色に塗装された大型四輪駆動車の屋根には重機関銃を装備し、射撃手の上半身が見えた。


「隠れろヴィッキー! あれは連邦だ!」

「え!?」


 ラインハルトはヴィクトリアの手を掴み、急いで茂みに隠れた。

 その大型四輪駆動車が二人の近くに止まる。

 車の中から数名の兵士達が降りてきてライトを照らしながら念入りに捜索し始めた。

 二人は茂みに隠れるとヴィクトリアが声を殺して訊いてきた。


「ラインハルト、なぜ連邦だとわかった?」

「車の色だよ。四季国の軍用車はみんな深緑に塗装されるけど、あれは砂漠色だよ。連邦軍の軍用車は砂漠色に塗装されるから」

「意外と物知りだな」


 ヴィクトリアの何気ない一言にラインハルトは苦笑いしてしまう。


「意外で悪かったね。だてに本ばかり読んでいないってわかってくれたかな」

「怒らなくてもいいだろ……褒めたのだから」

「知ってるよ。君があんまりにも褒めるのが下手だからちょっとからかったんだ」

「バカ」


 二人が馬鹿話をしている中、連邦の兵士達も再び車に乗り込み走り出す。

 車が見えなくなったのを確認すると二人は茂みから出て車の走り去った方角を見つめた。


「しかし連邦の奴ら堂々と領土侵犯をしてるな。まるで奴らの庭みたいに自由に……。四季国の国境警備の軍は寝てるのか」

「確かにね。四季国出身の僕としては擁護したいけど、明らかに国境警備がずさんだね」

「まったくだ。母上が怒るのも無理がない。これでは四季国と連邦が同盟国みたいだ」


 暑さのせいかヴィクトリアが状況に苛立ち始めるとラインハルトが宥めた。


「熱くなっちゃダメだよ、ヴィッキー。教官達に負けた時を思い出して」

「わかってる。わざわざ嫌な記憶を呼び覚ますな。お前と二人で協力すればいいのだろ」

「そうだよ。ヴィッキーは頼れる相棒なんだから頼りにしてるよ」


 ラインハルトの何気ない言葉にヴィクトリアは頬を赤く染めてせがむ。


「ラインハルト……さっきの言葉をもう一度言ってくれないか?」

「えっと……一応理由を聞いていい?」

「いいから! いちいち細かい男だな……」


 ヴィクトリアの要望にラインハルトは暫く考えて条件を提示した。


「じゃもう一度言ったらヴィッキーは僕のお願いを何でも聞いてくれる?」

「うん……お前の言うことを何でも聞くぞ」

「本当に? すっごいお願いをするよ? 後で後悔しても知らないからね」

「本当だ。我らアルムルーヴェに二言は無い」


 その言葉にラインハルトが頷くと先程の言葉を多少アレンジしてヴィクトリアに聞かせてあげた。


「ヴィッキーは()()()()()()()頼れる相棒なんだから頼りにしてるよ。えっと……満足した?」

「うん。大満足」


 ヴィクトリアが笑顔で答えた。

 その笑顔が可愛くて思わずラインハルトは抱き締めたくなるが、それをやったら今度こそ理性が無条件降伏してしまいかねないと思い手をつねる。

 それから二人が歩き続けると何やら数台の車が道路を塞いでいるのが見えた。

 連邦の車と同じように大きい四輪駆動車。

 しかしよく見ると塗装が砂漠色ではなく深緑に塗られている。

 深緑は四季国の国防軍だ。

 二人は助かったと思い走って行く。


「おーい!」


 ラインハルトが声を張りながら手を振って近付く。

 すると三人いる国防軍の兵士の一人が気がついたのか手を振り返した。


「助かったよ、ヴィッキー。味方だ」

「あぁ」


 二人が車の所に辿り着くとラインハルトが兵士に事情を説明した。

 その兵士は通信基地に連絡すると言い、車内無線で連絡を取り始める。

 その兵士が無線連絡してる車をヴィクトリアが何気なく見ると異変に気付く。

 ドアに銃痕の跡が数ヵ所あり、座席にも血の跡がある。


「敵だ、ラインハルト!」

「え!?」


 正体に気付かれたからか、ラインハルトを取り押さえ様とした兵士にヴィクトリアは拳銃を抜き発砲した。


「動くな! 動けば命は無いと思え! その者から離れろ。言っとくがその者に手をかけたら貴様らを殺す」


 ヴィクトリアの警告に三人の兵士達は大人しく手を上げて従った。


「ラインハルト、こいつらを手錠で車のドアノブに繋げ」

「わかった」


 ラインハルトが兵士達のベルトから手錠を取り、一人一人繋げていく。


「お前ら連邦軍だろ。国防軍の兵士達はどうした?」


 ヴィクトリアの質問に三人は黙りを決め込んでいるとヴィクトリアは一人の兵士の足を撃つ。


「ぐあっ!? お前……」

「騒ぐな。動脈は避けている。だが言わないなら次は膝を撃って一生車椅子生活になるぞ? それでも言わないなら最後は動脈に撃つ」


 ヴィクトリアの尋問に兵士が口を開いた。


「何も知らないだな、ブリキの小娘……俺達は国防軍だ!」

「え!?」


 兵士の口から出た真実。

 だがヴィクトリアは拳銃を額に向ける。


「嘘をつくな! 国防軍は帝国軍の同盟軍だぞ!」

「嘘じゃない! 嘘と思うならそこの黒髪の小僧に認識標を見てもらえ」


 兵士の言葉を聞き、ヴィクトリアはラインハルトに目配せした。

 ラインハルトが胸に提げている認識標を確めていると兵士がラインハルトに話し掛けた。


「見たところ黒髪のあんたは四季国の人間と見えるが、なぜ四季国の人間がブリキの小娘に手を貸す? あいつらブリキは俺達を人間とは見ないぞ」

「黙っていて下さい……」

「そうか……淫蕩なアルムルーヴェの手駒になった売国――ぶっ!?」


 その瞬間、ラインハルトは自身の腰から拳銃を引抜き、銃床で兵士の鼻を殴る。


「警告します。こんど彼女にその言葉を言ったら僕は貴方を殺します。わかったら頷いて」


 ラインハルトの瑠璃色の瞳が蒼く輝く。

 兵士は鼻が折れたみたいで鼻から血を流しながら頷いた。

 そして認識標を確めてヴィクトリアの方を見た。


「間違いないよ、ヴィッキー。彼らは国防軍の兵士だ」

「あり得ない……国防軍が反乱を起こすなんて。こいつらだけの反乱の可能性は?」

「わからない。国防軍全体なら、自分達の国で野戦訓練なんてやらせない筈だし……」

「確かにな……」


 二人が考え込んでいると森の中から銃撃された。

 銃声を聞きつけて仲間が戻って来た。

 ラインハルトが応戦していると、ヴィクトリアは車に乗り込みラインハルトに叫ぶ。


「乗れ、ラインハルト!」


 ラインハルトが車に乗り込むとヴィクトリアはアクセルを全開で踏む。

 車は白煙を上げながら走りだす。

 走り去る車に目掛けて銃撃する国防軍だったが、車は西の彼方に消えて行く。


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