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思わぬ裏切り

 艦隊の残骸が燃え盛る中、二隻の船が航行する。

 一隻は連邦のバーミンガム級巡洋艦と、もう一隻はシュネーヴィによく似た船だ。

 まるで姉妹の様に瓜二つの美しい船。

 二隻の船は探照灯で死者が眠る船達を照らしていく。

 シュネーヴィによく似た船の艦橋で黒髪の士官がレーダー画面を眺めながら言った。


「連邦艦隊め、船を沈めたら意味が無いだろうに……。何の為に我々が情報提供したと思っているんだ! 帝国の皇太女は生け捕りにしろと厳命したのに。これでは例の在り処が分からないではないか!」


 黒髪の士官が文句を言っていると横に立っている男性が諌めた。


「そう怒るな、特務大尉。例の物はシュネーヴィの残骸の中にあるかもしれない。ダイバーを潜らせれば分かる」

「ですが大佐。ここまで船体の損傷が酷いと、恐らく破損してる可能性も……」


 黒髪の士官が大佐と呼ぶ男性を見ていると、通信士から報告が入る。


「大佐、帝国の強行偵察駆逐艦が接近して来ます。それとガーデンリング回廊出口に向かって行く船を見つけました。恐らく敵艦から脱出した連絡挺かと」

「帝国の奴ら意外と動きが早いな。捜索は中止! 艦の針路をガーデンリング回廊の壁外に向けろ。連邦艦にも通信、脱出した連絡挺はそちらで捜索しろとな」


 そして二隻の船が闇夜に紛れて消えていく。



 シュネーヴィと連邦艦隊の激戦の数時間後、ヒルデガルド皇帝は未だ執務室で知らせを待っていた。

 艦隊司令部からシュネーヴィと護衛艦の定時連絡が途切れたと知らされたからだ。

 ヴィルヘルム上級大将は司令官不在の為に帝都防衛艦隊の指揮を執るためにキール軍港に急ぎ出向いた。

 そんな中、皇帝の執務室に一人の男性が現れる。

 その男性はエミリア元帥達と同じく双翼の翼を羽ばたかせ、ロマンスグレーの髪に冷たい翡翠色の瞳を宿している。


「皇帝陛下。強行偵察駆逐艦のリュッケから報告が入りました」

「あまり良い知らせでは無さそうだな、アーダルベルト・フォン・グライフ軍務長官」

「はい、残念ながら」


 アーダルベルトは躊躇いも躊躇もなく言う。

 しかしヒルデガルド皇帝はアーダルベルトのそういう所が好きだった。

 媚び諂うことなく同じ皇族のグライフ家で一時は帝位を争ったが、ヒルデガルドが優れていると言い帝位のレースから退いた。

 そしてヒルデガルドもまたアーダルベルトが優秀な人間という事で軍務長官の地位を与えている。


「ほぼ九割の確率でシュネーヴィは撃沈されました。また護衛の巡洋艦も撃沈を確認しており、付近には連邦艦隊と思われる残骸も確認しております」

「そうか……生存者は?」

「かなり激しい戦闘だった為、また強行偵察駆逐艦リュッケが如何に快速だったとしてもガーデンリング回廊を遡るのは些か時間が掛かりました。捜索はしておりますが、過度な期待は持たない方が宜しいかと」

「そなたの指摘は相変わらず的確だな」


 アーダルベルトの言葉にヒルデガルド皇帝は深くもたれ掛かる。


「心中御察しします、陛下。御息女と御孫様を一度に失ってしまい。また今回の一件で各国の大使達が陛下に面会を求めております」

「わかった。大使達には明朝面会し、軍には警戒警報を発令する。何か胸騒ぎがするからな。それと直ぐに四季国の首相に至急通信を」

「わかりました。警戒警報の件はバルツァー参謀総長に伝えておきます」


 グライフ軍務長官が執務室から出ようとするとヒルデガルド皇帝が呼び止めた。


「我が娘の件でエミリアはどうしている? あの二人は士官学校の同期だった筈……」

「自室に籠っておられます。御呼びしますか?」

「いやいい、暫く一人にしてやれ。警戒警報の命令はそなたの名で発令しろ」

「わかりました」


 グライフ軍務長官が執務室を出たのを確認して、ヒルデガルド皇帝は執務室から見える夜空を眺めた。


「あの者もアルムルーヴェらしく、せめて軍人として死なせてやりたかったな……」


 その言葉を口にしながらヒルデガルド皇帝はまだ決まった未来ではないとし、淡い期待を願った。

 出来れば二人とも生きていて欲しいと。



 ラインハルトとヴィクトリアが星空の下、西に在るとされる通信基地に急いだ。

 フィリーネからの情報に依ると通信基地の近くには二人の想い出の街、チシマがある。

 そんな事を考えていると二人の近くに一隻の小型船が近づいて来た。


「ヴィッキー、隠れて!」


 ラインハルトが小声で叫び、二人は岩影に隠れた。小型船は探照灯で岩場を照らしながら航行して行く。


「連邦か?」

「たぶん。連絡挺で脱出したのを知ってるみたいだ……」

「奴らめ、帝国の庭で好き勝手に……」


 探照灯で照らしながら念入りに捜索する小型船。

 浜辺に乗り捨てた連絡挺を発見したから海岸を捜索しているのだろう。

 岩場を捜索し終えると小型船は速度を上げて離れて行った。


「よっぽどペンダントの中身が欲しいみたいだね」

「そのようだな。ラインハルト、この辺の地理は分かるか? 四季国の地名等は一応勉強しているが、私よりもお前が詳しいだろ」

「一応。チシマの東に四季国の通信基地があるから、ここからだと急げば日付けが変わる位には着くと思う。邪魔が入らなければの話だけど……」


 ラインハルトが危惧しているのは連邦軍が血眼になってペンダントを探している事だ。

 海岸線を歩けば近道だが、さっきみたいに連邦の小型船に邪魔されると時間ばかりが過ぎていく。

 ラインハルトが危惧している事はヴィクトリアも感じていたらしい。

 ラインハルトは地面に地図を広げて非常用リュックからポンチョを出す。

 それを頭に被せてライトの光が漏れない様にしてヴィクトリアと顔を突き合わせる。


「確かに何回も邪魔されるといずれ見つかるな……」

「そうなんだ。だから少し内陸に入って行くと車道があるから、そこを歩こうと思うんだ。それなら海からの捜索は回避できるし、運が良ければ四季国の国防軍に会えるかも。彼らは味方だからね」

「その方が安全だな。あまり運任せは好きではないが仕方ない。国防軍に出会えれば、お前の父上に連絡をしてもらい助けてもらおう。私は嫌いだろうが、流石に息子の頼みは聞いてくれるだろうからな」


 ヴィクトリアはラインハルトの義父に初めて出会った時を思い出した。

 心の奥底から憎んでいる瞳をしていたから忘れられないのだ。


「いつか義父さんもヴィッキーの事を認めてくれるよ。僕も努力するし、また義父さんがヴィッキーに手をあげるなら僕が必ず君を守る」

「お前の想いに感謝を。私も認めてもらえる様に努力する」

「頑張ろうね。ところでヴィッキー、何で四季国の地名を勉強してるの? 士官学校じゃ四季国の地名なんかテストに出ないけど」


 二人はポンチョから顔を外に出した瞬間、ラインハルトからの不意の質問にヴィクトリアは頬を少し染めて呟いた。


「いいではないか……私だってお前との将来の為に勉強してるんだ。迷惑だったか?」


 その言葉にラインハルトも思わず顔が赤くなってしまう。

 なぜならラインハルトとヴィクトリアは互いに『あなたの愛の証が欲しい』と誓いの言葉を交わしたからだ。

 

「迷惑なんかじゃないよ。凄く嬉しい。良かったら今度から僕が教えようか?」

「うん……そうしてくれると助かる。何だったら私もラインハルトに帝国の地名を教えるぞ? 特にアルムルーヴェ王国をな」

「是非お願いするよ。君たち黄金獅子と云われる一族、アルムルーヴェ王国は僕も興味があるからね」


 二人は笑顔で約束を交わすと荷物をリュックに詰め込んで二人は車道に向けて歩き出した。


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