星の海で
前方と後方から迫る連邦艦隊。
先発した護衛艦が撃沈されたとはいえ、まだ連邦艦隊が攻撃したという証拠がない。
腕に着けている通信機の画面を見ると時刻は二十時前だ。
「通信士、連邦艦隊に通信を試みてちょうだい」
「はい、艦長」
向こうの連邦だって正面から戦争をしたくないはずだと、いくら連邦が反帝国の中で一番の軍事力を持っていたとしても帝国には及ばないとフィリーネは考えていた。
だが直ぐにそんな考えが甘いと知らされる。
「艦長! 連邦艦隊から返信が……」
ペトラの暗い表情にフィリーネが激を飛ばす。
「通信士! 報告は正確に!」
「……報告します。速やかに停船せよ。繰り返す、速やかに停船せよ。さもなくば貴艦を撃沈する……と言ってます。艦長……」
「返信を。こちらは帝国軍シュネーヴィ艦長、フィリーネ・フォン・アルムルーヴェ上級大将。失礼ながらガーデンリング回廊は如何なる国家にも属さない公海だと本艦は認識している。何ゆえ貴艦の指示に従わなければならないのか返答を求む」
ペトラに指示を出すとフィリーネはミハエル副長にラインハルトとヴィクトリアを艦橋に連れて来る様に言った。
「艦長、連邦艦隊から返信。先程の言葉を繰り返し述べています……」
「問答無用か。最初から戦闘する気ってことね、連邦艦隊は」
連邦艦隊が本気で戦闘する気と分かった時、ミハエル副長がラインハルトとヴィクトリアを艦橋に連れて来た。
二人の不安な表情に追い打ちをかける様にフィリーネは事実を告げた。
「正面不明の艦隊は連邦艦隊だと分かったわ。それも停船命令を繰り返し、停船しないと撃沈すると脅しをかけてきてるの」
「あんまり状況が良くないみたいですね……フィリーネさん」
「ラインハルト君の察しの通りよ。敵は十五隻もいる。だから二人にはシュネーヴィから降りてもらう。幸いにも四季国の通信基地が近いから二人には連絡艇で海岸に上陸し、そこから西に行けば通信基地があるわ。そこから帝国軍に敵襲来を知らして欲しいの」
フィリーネの言葉にヴィクトリアが拒否する。
「そんなの嫌です! 母上、私もアルムルーヴェの人間。敵前逃亡なんて出来ません! 私も戦います!!」
その言葉を聞いた瞬間、フィリーネはヴィクトリアの頬を平手打ちした。
「半人前以下の候補生が生意気な事を言わないで! シュネーヴィに貴女の戦う居場所は無いの。いわば貴女は役立たずなのよ。その役立たずな貴女に私は任務を与えた。帝国の存亡に関わる重要な任務よ。それでも不服と言うのかしら? ヴィクトリア・フォン・アルムルーヴェ候補生!!」
フィリーネの凄みにヴィクトリアは圧倒されてしまう。
「申し訳ありませんでした、フィリーネ上級大将。私が間違っています……」
悲しそうな顔を浮かべるヴィクトリアの頭をフィリーネは何回も撫でた。
「心配要らないわ。帝国軍上級大将は簡単には死なないわよ。もしもの時は、あの人に伝えてくれる? 『夢を一緒に見れなくてごめんなさい。先に星の海で待っているわ』って……」
「そんなの嫌です!! 嫌です……嫌ですよ、母上……」
「立派な皇帝になりなさい、ヴィクトリア。ラインハルト君と幸せに、そして強く生きなさいね」
必死に泣くのを我慢するヴィクトリア。
大粒の星を長さまいと堪え、フィリーネから離れ様としない。
「ラインハルト君、可愛い愛娘もお願いします。あなた達に帝国の命運が懸かってる。出来る限りシュネーヴィが敵を引き付けて時間を稼ぐから」
「はい……。フィリーネさん、さよならは言いません。また帝都で会いましょう」
「えぇ。私もあなた達の愛の証を見るまでは死ぬ気なんてないからね」
そういうとフィリーネはヴィクトリアを引き離した。
そして自身の首にかけられているネペンダントをヴィクトリアの首にかける。
「いい、二人とも。このペンダントには宇宙船の保管場所が記された地図が書き込まれているわ。連邦の目的は恐らくコレよ。もしコレが敵に奪われそうになったら破壊しなさい、必ずよ」
「はい……母上」
名残り惜しむ様にフィリーネはヴィクトリアの頬に触れ、頭を優しく撫でる。
この気持ちを忘れない様に。
「さぁ、お行きなさい可愛い愛娘。貴女の戦場は此処では無いわ……」
フィリーネはラインハルトに目配せして、ラインハルトはヴィクトリアの腕を掴んで艦橋から出て行く。
二人が一瞬だけ振り返ると、フィリーネは笑顔で見送っていた。
二人を見送り終えるとフィリーネは振り返り、号令をかける。
「総員戦闘配置!」
その言葉の直後、シュネーヴィに戦闘準備を促す警報が鳴り響く。
「火器管制システム起動! 武器の無制限使用を許可! ミハエル副長、電磁砲の最終安全装置を解除します!」
「はい、艦長!」
フィリーネとミハエルは互いに鍵を端末に差し込む。
「カウントどうぞ!」
「三・二・一……解除!」
同時に鍵を回して電磁砲の最終安全装置が解除された。
シュネーヴィの両舷から長砲身の電磁砲が現れる。
さながらシュネーヴィの真の主砲は、この電磁砲と言われても違和感が無い程に威厳があった。
「テレーゼ、公海日誌レコーダーに記入。八月十三日、二十時二十五分。本艦は連邦艦隊と戦闘状態に突入」
「はい、艦長!」
続いて砲術長のアルミンと機関長のルシアンに指示を下す。
「ルシアン、電磁砲は電力を食うから機関出力は最大を維持して!」
「了解です、艦長!」
「アルミン、前方右から一番艦から七番艦と呼称。後方は同じく右から八番艦から十五番艦と呼称。電磁砲の発射権は貴方に任せます。噴進弾は二十番の内、前方に十二発。後方に八発撃ち込むから。主砲一番砲と二番砲は前方三番艦から六番艦を散布界を広げて指向。三番砲は後方の十番艦を指向して! 両端の艦は噴進弾で凪ぎ払う。但し第一撃は電磁砲で狙う。目標は先にあげた主砲目標。命中しなかった場合は主砲で撃沈する!」
「了解です!」
そしてペトラから敵艦隊が攻撃可能距離に入ったと知らせが。
「あなた達なら大丈夫! 私の仲間なら乗り切れられるわ! 戦闘開始ッ!!」
八月十三日。二十時三十七分 シュネーヴィと連邦艦隊、戦闘突入。




