来援
朝日を背にしてシュネーヴィは全速で二人のいる浜辺に急行する。
ある程度近付くとシュネーヴィは船体を真横にして更に主砲弾を撃ち続けた。
次第に散布界を広げ、草原や森の中に砲弾を叩き込む。
ラインハルトとヴィクトリアを襲って来た襲撃者達は砲撃の凄まじさに撤退を始めた。
シュネーヴィの砲撃の後は、まるで地形が変わったかの様に大穴が無数にあり、森の木々は粉々に砕け散っていた。
シュネーヴィの実力の片鱗に二人は唖然としてると数隻の連絡艇が浜辺に上陸する。
二人は帝国軍の軍服を見るなり安堵して、全身の力が抜けてしまう。
「ヴィッキー、僕との約束は守れたね。君は絶体絶命の未来を覆したんだよ」
「ああ。お前も私との約束を守ってくれたぞ」
二人は互いの顔を見るなり強く抱き締め合いながら口づけを交わす。
「ラインハルト……」
「ごめん。君が無事なことに嬉しくて……」
「いや……私もお前が無事で嬉しい。なぁラインハルト。さっき言いかけていた言葉って……」
最初の砲撃前、ヴィクトリアの愛の言葉に応えようとしたラインハルトの言葉が彼女は聞きたかった。
「ああ、それは――」
ラインハルトに抱かれながら頬を赤く染めて愛の言葉を待つヴィクトリア。
ラインハルトがヴィクトリアに伝え様とした瞬間、後ろから二人に言葉をかける人物。
「お熱い愛の語らいを邪魔しちゃってごめんなさいね、二人とも無事だった?」
「は、母上!?」
二人が振り向くとフィリーネが笑いながら立っていて、思わず抱き締め合っていた二人は急いで離れる。
「別に構わないから続きをどうぞ。なんだったら二人の為に部屋を用意するから好きなだけ愛し合ってかまわないわよ?」
「やめて下さい、母上!」
顔を真っ赤にしながらヴィクトリアがフィリーネに抗議した。
「馬鹿ね、冗談よ。それよりも二人とも怪我は無い?」
「私は大丈夫ですが、ラインハルトは腕を負傷してます」
「わかったわ。シュネーヴィに着いたらテレーゼに治療させる様に連絡しとく」
そういうとフィリーネはラインハルトとヴィクトリアを抱き締めた。
「二人とも本当に無事で良かったわ! ラインハルト君、可愛い愛娘を守ってくれてありがとう!」
「いえ……想い人の為に無我夢中でやっただけですよ。僕の方こそヴィッキーに守ってもらってばかりでしたから」
「そんな事ないわよ。貴方の行いは賞賛に値するわ。可愛い愛娘が甘えてばっかりで迷惑かけてないかしら?」
ラインハルトが構って欲しくて甘えてばかりと言おうとしたら、横のヴィクトリアに足を踏まれてしまう。
「だ、大丈夫ですよ。甘えてくる時の表情が可愛いかったから、ついつい甘やかしちゃいました……」
「黙れバカ! 母上の前で恥ずかしいだろ……」
「でも可愛いかったのは本当だから」
頬を赤く染めて抗議するヴィクトリアだった。だがラインハルトから可愛いかったと言われてしまい恥ずかしかったのか、フィリーネの胸に顔を埋めてしまう。
「あらあら本当に甘えん坊なんだから。ラインハルト君に甘えてばかりだと嫌われるわよ?」
「いいじゃないですか、母上……。ラインハルトはありのままの私を受け入れてくれますし、彼は私のものなんですから……」
「本当に貴女は生粋のアルムルーヴェね。私よりも独占欲が強いんだから。ラインハルト君は大丈夫なの?」
ヴィクトリアを抱き締めながらフィリーネはラインハルトの顔を伺う。
するとラインハルトは頭を掻きながら答えた。
「僕なら大丈夫です。ヴィッキーが甘えん坊なのは知ってますし、そこが可愛い所の一つですから。それにヴィッキーの想い人になってわかったんですけど……僕も負けず劣らず独占欲が割りと強い方みたいで……」
「あら、そうなのヴィクトリア?」
フィリーネの言葉にヴィクトリアは顔を埋めながら頷く。
「……はい。愛し合ってる時のラインハルトは独占欲が強いです……母上」
「あらあら。見掛けによらずに大胆な男の子なのね、ラインハルト君って」
ヴィクトリアに暴露されてしまい、ラインハルトは思わず「それは内緒にしてよ!」と叫んでしまう。
「いいじゃないか、ラインハルト。母上は口が固いぞ」
「いや……そういう問題じゃないよ、ヴィッキー。僕、恥ずかしくて海に飛び込みたい気分だよ……」
項垂れるラインハルトの肩をフィリーネは笑いながら叩いた。
「まぁ二人とも相性が良いみたいだから良いんじゃないのかしら。話は変わるけど、事後処理もあるから二人は先にシュネーヴィに戻っていなさい。あなた達は私が責任を持ってキールまで送るから」
フィリーネの提案に二人は笑顔で頷き連絡艇に乗り込む。
度重なる死地を乗り越えて二人は疲れているが、またシュネーヴィのみんなに会えるのが楽しみでならないのだ。
あれからシュネーヴィの陸戦隊がヨハン教官の捜索をしたが、結局ヨハン教官の生存はおろか遺体すら回収出来なかった。
連邦軍の遺体を回収している時に四季国の国防軍も到着した。
フィリーネは国防軍の指揮官を呼び出すなり、国境警備が甘過ぎる点や訓練地域の安全確保がなってないと怒鳴りつける。
国防軍の指揮官は平謝りを繰り返すのみで、数日前から上層部の命令で訓練地域の安全確保部隊を移動しろと言われたと。
ヨハン教官から聞いた話をヴィクトリアからフィリーネは聞かされたが結局、なぜ連邦軍がヴィクトリアを殺害しようと動いたのかは分からずじまいに終わる。
もし反逆者がヴィクトリアを殺害するなら連邦軍なんていう搦め手等使わず、傭兵を雇えばいい。
仮に傭兵なら雇い主に辿り着く事は無いし、連邦軍を使って失敗したら戦争になる。
それとも連邦軍は戦争すら覚悟の上で反逆者の意図に乗っかったのかとフィリーネは思考を廻らせるが幾ら考えても答えは出なかった。
そして考えても今は答えは出ないと思い、フィリーネもシュネーヴィに帰投した。




