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反攻前の休息

 一通りの準備が終わるが、ラインハルトはちゃんと確認するといい準備に余念が無い。

 後ろで想い人が真剣に取り組む姿を見ていたらヴィクトリアは咽が渇いてきてしまった。

 慣れない暑さもあってか喉の渇きが一層増してしまう。

 だがヴィクトリアはこの暑さに堪えるのも将来に向けての訓練だと思った。

 気が早いが、将来二人の間に愛の証が産まれればラインハルトの家に行き、向こうの家族にも会わせてあげたいからだ。

 ラインハルトは二人か三人くらい愛の証が欲しいと言っていたから頑張って愛し合わなければいけないが。

 そんな楽しい未来予想図を考えているとヴィクトリアの目の前に水筒が差し出される。


「ヴィッキー、喉が渇いたでしょ? 僕のを飲んでいいからね。君のはとっておきな」

「感謝する……」


 相変わらず気のきく想い人に感心してしまう。

 こんなに気がきく男だと、本人の意思に関係なくちょっと心配になってしまう。

 他の女性がちょっかいを出さないかと心配になるのだ。

 当のラインハルトはヴィクトリアしか見ていないが、アルムルーヴェの強欲という名の独占欲が顔を出す。


「ちょっとずつ飲むんだよ。一気に飲むと胃痙攣を起こすからね」

「わかった」


 ラインハルトの言いつけを忠実に守り、少しだけ飲んで水筒に蓋をする。

 するとラインハルトが山小屋から出ようとしていた。


「待て! 何処にいくんだ?」

「ちょっと偵察を兼ねて食べ物を探しね。運がよければ果物があるかも知れないし」

「私を置いて行くのか!?」


 その言葉を聞くとラインハルトは笑いながらヴィクトリア前にしゃがみ込む。


「大丈夫。君を置いて何処にも行かないよ。ちょっと近くを見てくるだけだから。少しの間だけ待ってて」

「わかった。直ぐに戻って来いよ……」

「わかってる。何かあったらコムニカ(通信機)で連絡して、近距離なら中継機無しで通じる筈だから」


 そしてラインハルトが山小屋から出る間際――。


「ラインハルト……」

「なに?」

「気をつけて行ってこい」

「うん、行ってきます」


 夫婦みたいな会話を済ませ、ヴィクトリアは笑顔で想い人を送り出した。

 ヴィクトリアはあれから山小屋にある小さな暖炉の前で足を抱えながら座って想い人の帰りを待っていた。

 本当ならびしょ濡れで帰って来る筈だから暖炉に薪でも焚べて部屋を暖かくして出迎えてやりたい気持ちなのだが、襲撃者が煙の匂いに気づいた場合、ヴィクトリア一人では対処出来ないし作戦が失敗すると言われたから大人しくしているのだ。

 そして遂にラインハルトが帰ってきた。

 案の定びしょ濡れでだ。


「ただいま、ヴィッキー」

「おかえり! お前びしょ濡れじゃないか」

「まだ外は大雨だからね。幸いにもまだ敵はいないし、ちょっとした木の実もあったから」


 ヴィクトリアが急いで駆け寄るとラインハルトは赤い小さな木の実を見せてくれた。


「イチゴの仲間でグミイチゴって言うんだ。食べられるから」

「そうか。なぁ、ラインハルト。暖炉に薪を焚べて火を着けてはダメか? 風邪をひくからお前を暖めてやりたいし、どのみち作戦開始に火は必要だからな」

「それもそうだね。いいよ、やろう。僕もびしょ濡れで寒気がしてたから」


 そういうとヴィクトリアは暖炉に薪を焚べて火を着けようとしたが肝心の火を着ける道具が無い。

 するとラインハルトが胸ポケットからマッチを取り出して火を着けた。


「ラインハルト、準備がいいな。マッチなんて野戦訓練の持ち物リストにはなかったぞ」

「亡くなった爺ちゃんが言ってたんだ。備えあれば憂い無しってね。それに防水マッチは猟兵師団の心構え、野戦の基本装備に入っているから」

「猟兵師団に感謝だな。お陰で暖がとれる」


 そういうとヴィクトリアは暖炉の前に椅子を置いた。


「ラインハルト、服を脱げ。拡げて椅子にかければ服が早く乾く」

「う、うん。何だか恥ずかしな……」

「何を今さら恥ずかしがる。私は服一枚着ていない状態のお前を見たんだぞ。だから恥ずかしがるな」

「それはお互い同じだろ。君って時々豪胆だよね……」


 渋々と服を脱ぎ始めるラインハルト。

 脱いだ服をヴィクトリアに渡して彼女は椅子に拡げて掛ける。

 ズボンまでは脱ぐのは免れたが、流石に上半身が裸だと夏でも寒い。

 そそくさとラインハルトは暖炉の前に座り込み暖を取った。

 雨に打たれ過ぎてくしゃみを連発していると、後ろからヴィクトリアが抱き締めてくれた。


「ヴィッキー?」

「黙っていろ。私が暖めてやる。こんなに冷たくなるまで外にいて、お前はバカだ」

「バカは酷いなぁ。でもヴィッキーの温もりが伝わって暖かいよ」

「そうか。ならば大人しくしているのだな。お前の温もりを感じて、私も気分が良いから」


 暖炉に焚べた薪が燃え盛り、炎の揺らぐ姿を二人はずっと見つめていた。

 暫く暖炉の炎を眺めていると、急にヴィクトリアはラインハルトの顔と身体を自分の方に向かせて口づけをしてきた。


「ダメだよ……ヴィッキー」

「良いじゃないか、私はお前と愛し合いたい気分なんだ。幸いにも山小屋の窓には光が漏れない様に目隠しをしてあるぞ……。お前は私と愛し合いたくないのか?」


 そういいながらヴィクトリアはラインハルトを押し倒す。

 そして自身の上着を脱ぎ、シャツのボタンを外していく。

 いつぞやのホテルの時の様に艶かしく綺麗なヴィクトリア。

 だがラインハルトはヴィクトリアの紅潮した頬に触りながら言った。


「そりゃ僕だって男だから君と愛し合いたいけど今はダメだ。全部片をつけたらね」

「……わかった」


 想いが高ぶっているのか、ヴィクトリアは頬に触れているラインハルトの手を握りながら頷く。

 少しでもヴィクトリアの想いに応える為に頭を優しく撫でてあげた。

 ラインハルトに背中を向けて、シャツのボタンを直しながらヴィクトリアは謝ってきた。


「すまない、ラインハルト。ついお前に対する想いが高ぶってしまい抑えきれなかった……。こんな状況でどうかしてるな……私の事が嫌いになったか?」


 背中を向けながらでもヴィクトリアの不安が入り交じった気持ちが伝わって来る。

 そんなヴィクトリアにラインハルトは後ろから優しく抱きしめた。


「嫌いになんてならないよ。ヴィッキーの想いは嬉しいし、君の想いに僕も想い人として応えたい。それに君と愛し合いたいと思ってる」

「本当か?」

「もちろん。いま証拠を見せるよ」


 ヴィクトリアの顔を振り向かせ口づけをする。


「信じてくれた?」

「うん……信じる。出来れば続きをやって欲しい……」

「それはダメ、事が片付いたらね。それとそろそろ作戦を始めるから」

「わかった。ラインハルトのケチ……」


 不満そうに言いながらヴィクトリアは頷いた。

 ラインハルトもケチと言われ複雑な気持ちになってしまうが、襲撃者達と対峙しないといけない為に心を鬼にする。

 そうしないと愛するヴィクトリアを守れないからだ。


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