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二人だけの逃避行

 息の続く限りラインハルトとヴィクトリアは走る。

 一心不乱に逃げてる為に最早自分達がどっちに向かって進んでいるのか分からなかった。


「ラインハルト、さっきの銃撃で誰か気付いたんじゃないのか!?」


 走りながらヴィクトリアが訊いてきたが、ラインハルトは否定した。


「それは残念だけど望み薄だと思う。撃っていた時に銃声がしなかったから、恐らく消音器を付けてるよ」

「……歯痒いな」

「それに消音器を付けていても微かに音は出るけど、この雨の中じゃ……」


 頭上を見上げると大粒の雨が二人に打ち付ける。

 雨の音に雷鳴まで鳴っており、天まで二人を見放した気分にならせる。


「取りあえず何処かに隠れて考えよう。闇雲に逃げても罠に嵌まって殺されるだけだ」

「わかった」


 ラインハルトの考えにヴィクトリアは素直に従った。

 襲撃者に襲われた路地裏の時もそうだが、こういう時のラインハルトは頼りになる男だと分かっているからだ。

 時間を忘れるくらい集中して逃げていると、目の前に小さな小屋が見えた。

 恐らく狩猟に使う山小屋だろう

 二人は無言で頷くと山小屋に逃げ込む。


「取りあえず少しは遠くに逃げれたかな。地図も見ないで逃げたから場所が分からないけど……」

「そうだな。おいラインハルト、腕から血が……」

「え?」


 ラインハルトは自分の左腕を見ると血が流れて落ちている。

 どうやらさっきの銃撃で弾がかすめたらしい。

 興奮していた所為で痛みすら感じず、今になって気付いた。

 ヴィクトリアがポケットから手巾を取り出してキツく結んだ。


「痛っ!? ヴィッキー、優しくしてよ」

「文句を言うな。これでも優しくしてるし、かすり傷だ」

「そうだけど……。ごめん、僕の血で手巾が汚れちゃったね」


 キツく結んだ手巾はラインハルトの血で赤く染まっていく。


「気にするな。お前が庇ってくれなければ、いま頃私は星の海に行っていたかも知れないんだからな。守ってくれて感謝する……あの時のお前は素直にかっこ良かったぞ」

「ありがとう。でも戦友なんだから当然だよ。ところで星の海って何の事なの?」

「ああ、星の海は宇宙に輝く星たちの事だ。帝国では神は信じないが、亡くなった者の魂は星の海に行くと信じているんだ。宇宙(そら)に輝く星の一つ一つは誰かの大切な人だとな」

「なんかロマンチックな話だね」


 星の海に感心しながらラインハルトは地図を取り出し、地面に広げようと思わず左腕も使ってしまい痛みが走る。


「無理をするな。私がやるから」


 そういうとヴィクトリアはラインハルトから地図を取り上げて代わりに地面に広げた。

 地図を広げるとラインハルトは地図の上にコンパスを置く。


「第二ポイントに居たのが二十二時くらいで、今は二十二時三十分過ぎ……。足元が悪く、そんなに速度は出てない筈だから……」

「ラインハルト、何をブツブツ言っているんだ?」

「ちょっと静かにして。いまおおよその計算をしてるから」

「わ、わかった。すまない……」


 珍しくラインハルトに怒られてしまい、しゅんとしてしまう。

 いつものラインハルトならヴィクトリアを甘やかして大概の事は怒らないが、今回は二人の命が掛かっているからか、ヴィクトリアを傷つけない様に静かに怒った。

 だがヴィクトリアはラインハルトに怒られて慣れていないからか、ちょっとショックを受けてしまう。


「大体だけど第二ポイントから半径五キロの範囲の何処かだと思う……ざっとだけど。暗い森の中だと目印も無いし、天気が悪いから星を使って正確な位置が把握できないけど」

「ラインハルト、よく半径五キロの範囲とわかったな?」

「猟兵師団の心構えに載ってたんだ。人の走る速度から位置を掴むやり方とか」

「そうか……」


 地図を見せながら説明するが、ヴィクトリアは浮かない顔をしている。

 ラインハルトは自分が怒ったからヴィクトリアが元気が無いのだと察した。


「さっきはごめん、ヴィッキー。どうしたら許してくれるんだい?」

「頭を撫でてくれたら許す……」

「わかったよ」


 ラインハルトはヴィクトリアの頭を優しく何回も撫でてあげた。

 すると沈んでいた表情が徐々に明るく変化してきた。


「じゃ状況を整理するよ。襲撃者は恐らく路地裏の一件の奴だ。あの時は単独だったけど今回は少なくても三人はいる」

「三人もか?」

「そうだよ。さっきの銃撃時、三方向から微かに銃の発射炎が見えたから。そして奴らは確実にヴィッキーの命を狙いにきてる……」


 いつにも増してラインハルトが真剣な表情で喋る姿にヴィクトリアも息を呑む。

 こんな状況でなければ、想い人の真剣な表情に一種のトキメキを感じてしまうが、今回ばかりは状況が悪い。


「誰かに助けを求めたいけど、森の中の何処に居るかわからないし、武器はサバイバルナイフだけときた……」

「確かにナイフだけでは心許ないな」

「だから余りやりたくないけど、僕に考えがあるんだ」

「考え?」


 ヴィクトリアはラインハルトを見るなり彼は真剣な表情でヴィクトリアに言った。


「君は僕が命をかけて守る。だから僕に命を預けて欲しい」


 その殺し文句に思わずヴィクトリアの胸が熱くなる。

 普段はしまりの無い顔をして頼りない想い人だが、いま目の前に居る想い人はこんなにかっこ良かったんだと思ってしまう程に。

 こんな状況でなければ思いっきり抱き付いているところだ。


「わかった。お前と私は相棒だ。だからこの命はお前に預ける。それに私もお前のことを命にかけて守るからな」

「頼りにしてるよ、相棒」

「任せろ。絶体絶命なんてふざけた未来は私が必ず覆す。アルムルーヴェの名誉と誇りにかけて必ずな」


 それから二人はラインハルトが立案した作戦を実行するために準備に取り掛かった。


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