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これが私の想い人

 フィリーネから真実を聞かされたラインハルト。

 その後は艦橋要員達との食事を楽しんだ。

 その中でも驚いたのは、テーブルに出された料理の殆んどが四季国の料理だったのだ。


「ラインハルト君が四季国出身と聞いて、我がシュネーヴィの誇る料理長兼機関長のルシアン大尉が腕によりをかけて作ってくれたのよ。ルシアンの作る料理は数ある帝国艦隊の中でも一番美味しいから、きっと満足するわ」

「はい、すごく美味しいです。四季国出身の僕から見ても、この料理の味は中々お店でも無いですよ」


 ラインハルトの褒め言葉にフィリーネはルシアンに声を掛ける。


「聞いたかしら、ルシアン! ラインハルト君が貴方の料理を褒めてるわよ。これで帝国軍を辞めても四季国でお店が出来るから安心ね」

「やめて下さいよ、艦長。自分は艦長とシュネーヴィに人生を捧げると決めてるのですから」


 この料理長兼機関長ことルシアンは大柄な男性で、ラインハルトはまるで四季国に居る野生の熊を彷彿した。

 ルシアンの言葉にフィリーネはブドウ酒の入ったグラスに口をつけ、ルシアンに言う。


「あら嬉しい事を言ってくれるわね。でも残念だわ、私の人生を捧げる想い人はとっくの昔に決まってるから、残念ながらルシアンの想いには応えられないわ。その想いはシュネーヴィに捧げなさい」

「あはは。そうしときます、艦長。私は艦長の想い人と決闘なんてごめんですからな」


 そういいながらルシアンは大瓶のグラスを飲み干す。

 どうやらルシアンはかなりの酒豪らしい。


「あの、決闘ってなんなんですか?」


 ラインハルトの疑問の言葉にフィリーネが答えてくれた。


「帝国では想い人を賭けて決闘をする風習があるのよ。既に誰かの想い人だけど、諦めきれない時は相手に決闘を申込むの。想い人を賭けてね」

「なんだか、あまり穏やかじゃないやり方ですね……」

「そうね、でも帝国の伝統だから仕方ないのよ。想い人が大事なら、たとえ不利な勝負でも受けて立たないとね。ラインハルト君ならどうする?」


 ブドウ酒を飲みながらラインハルトを見るフィリーネの瞳。

 まるで試されている様な視線だ。


「その時は僕も受けて立ちます。誰かに自分の想い人が触られるのは愉快な話じゃ無いですからね」


 その言葉に満足したのか、フィリーネは再びブドウ酒を飲む。


「フフ、見掛けによらず意外と独占欲が強いのね。何処かの誰かさんみたいね、ヴィクトリア」


 今度はオラーンジェを飲むヴィクトリアに視線を向ける。


「母上、何故私を見るのです!? 私は違いますよ!?」

「誰も貴女の事を言って無いわ。それとも心当りがあるのかしら? 我が愛しき愛娘」

「心当りなどありませんよ……」


 ぎこちなく答えるヴィクトリアを笑いながら見るフィリーネ。

 どうやら娘を弄って楽しんでいる様だ。


「なにも自分の欲を卑下する事は無いわよ、ヴィクトリア。私たち一族は傲慢にして強欲の黄金獅子(アルムルーヴェ)と言われるように、生れた時から独占欲が人より()()()()()()強いのだから。幼い頃のヴィクトリアなんて、飼っている猫とよく喧嘩していたもの。猫の玩具(おもちゃ)をめぐってね」

「やめて下さい、母上!」


 顔を赤らめて立ち上がるヴィクトリア。

 その光景に皆が笑い、余りの恥ずかしさに席に着くなり、誤魔化す様に飲み物を飲む。

 フィリーネは空になったグラスにブドウ酒を注ぎながら二人を見る。


「さてと、話を戻す様だけどラインハルト君の決意を聞けて私は満足したわ。良かったわね、ヴィクトリア。ラインハルト君みたいな想い人が出来て」

「はい、ラインハルトは……っ!?」


 フィリーネが放った一撃はヴィクトリアの装甲を簡単に貫いた。

 嵌められたと気づき、ヴィクトリアの頬が瞬く間に紅潮していく。

 その光景が余りに面白かったのか、フィリーネが笑い出す。


「馬鹿ね、母を欺こうなんて一万光年早いわよ」

「母上、気づいてらしたのですか!?」

「二人のイヤリングを見れば分かるわよ。で、いつになったら素敵な想い人を私に紹介してくれるのかしら? 我が愛しき愛娘」


 笑うのを止め、真剣な表情でヴィクトリアを見る。

 それは軍人としてのフィリーネではなく、一人の娘を想う母しての暖かな視線だ。

 ヴィクトリアは深呼吸して立ち上がる。

 視線を逸らさず真っ直ぐとフィリーネの瞳を見つめた。

 相手が誰であろうと、決して物怖じしない所はアルムルーヴェの良い所だ。


「紹介します、母上。ラインハルトは誓いの言葉(愛の証が欲しい)を交わした、私の想い人です」


 ヴィクトリアの想いの言葉に、思わず艦橋要員達から歓声があがり、フィリーネはグラスをスプーンで優しく叩く。


「静かに。娘の晴れ舞台を茶化すなら、シュネーヴィの主砲で海に撃ち出すわよ」


 フィリーネの言葉に嘘偽りは無いのはシュネーヴィの乗組員なら誰しもが知っているから皆が口を閉じる。


「誓いの言葉を交わしたって話は本当なの?」

「はい」


 即答するヴィクトリアに思わずフィリーネは目頭を手で押さえてしまい、艦橋要員達は歓声を上げてしまう。


「帰ったら、あの人(私の想い人)を叱らないといけないわね。その方が人生が楽しくなるだろうとか言って、私の大事な愛娘に古い意味を教えるんだから」


 そをな時、シュネーヴィ料理長兼機関長のルシアン大尉がフィリーネに声を掛ける。


「艦長、差し出がましい様ですが乾杯しましょう。艦長の娘さんの幸せを祝して」

「そうね、喜ばしい事に変わりは無いから。我が愛しき愛娘に想い人が出来た事を祝して、プロージット!」


 フィリーネの掛け声に呼応して皆がグラスを掲げる。

 その後は男性艦橋要員達に祝い酒と称して無理矢理ラインハルトは飲まされた。

 ヴィクトリアが困惑しているとフィリーネが「あれは歓迎の挨拶だから。それに男達の親交を邪魔するのは、良き想い人になれないわよ」と言い、ヴィクトリアを呼んでペトラやテレーゼなど女性陣だけで話の花を咲かせた。

 ペトラやテレーゼに色々と聞かれてヴィクトリアの照れた表情を見てフィリーネは嬉しく思ったと同時にちょっと寂しくなった。

 幼い頃から母上、母上と言ってついて来た愛娘が、いつの間にか人を愛する大人に成長した事は嬉しく思った。

 また同時にいずれは愛娘が自分の手から離れてしまうのは母として寂しく思ったのだ。


「あの人の言葉で言うなら、『やはり君も立派な親馬鹿だな』か……。人の事は言えないわね、私も」


 ヴィクトリアを見ながら独り言を呟き、ブドウ酒を飲む。

 そんなフィリーネにヴィクトリアが心配そうな表情を浮かべて訊いてきた。


「母上、大丈夫ですか? 先程から浮かない顔をしてますが」

「大丈夫よ、ヴィクトリア。ちょっと昔を懐かしんで感傷に浸っていただけだから。とっても良い子ね、ラインハルト君って。私も気に入ったわ」


 フィリーネがラインハルトを誉めるとヴィクトリアは顔を赤らめて頷く。

 そのヴィクトリアの表情にフィリーネは嬉しくなった。

 自分の愛娘は、世界で一番可愛い愛娘を想ってくれる良き想い人と出会えた事に。

 その可愛い愛娘の想い人に、酔っ払いながらこれでもかと酒を飲まそうとするルシアン達に艦長として、また可愛い愛娘を想う一人の母として激を飛ばしたのは言うまでもない。


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