試験運用戦艦
連絡艇がシュネーヴィに接舷し、ラインハルト達が甲板に立つとシュネーヴィの大きさに改めて驚かされる。
帝国軍は提督階級の場合、自分の指揮する艦の色を決められる特権が与えられている。
それは陸上兵器の鉄騎も同じだ。
そしてシュネーヴィは白雪姫の名に恥じない純白に塗られ、さながら白い王宮ともいえる。
ラインハルトがシュネーヴィの主砲に見とれていると、フィリーネが隣に立って説明してくれた。
「シュネーヴィの主砲は五十一cm三連装砲で、艦首に二基と艦尾に一基の計三基が装備されているのよ。両舷には格納式、電磁砲が艦首と艦尾に計四基備付けられてるわ」
「五十一cm砲に電磁砲も!?」
帝国軍の標準型戦艦でも四十六cm砲が最大で、おまけに電磁砲は他国でも研究されてはいるが、実用化には至ってないからだ。
「えぇ。シュネーヴィは最新型だけど、まだ試験運用戦艦なの。試験結果が良好なら、いずれは姉妹艦達も含めて帝国軍総旗艦になる船になるわ。もちろん砲撃戦も重要だけど、来るべき噴進弾攻撃にも対応出来るように近接防御火器に重点を置いて設計されてる船なの」
フィリーネのいう通りシュネーヴィの艦橋付近は近接防御火器がところ狭しと配置されている。
戦艦にありがちな副砲が少ない。
未だ噴進弾は連邦や共和国などの軍では運用しているが、実戦で使用した国は帝国軍しかいない。
それも代理戦争と言われた四季国との戦争。
電撃作戦で世界初、噴進弾と鉄騎を併用した戦争だ。
帝国はいずれは噴進弾や電磁砲が戦争を変えると考えている。
「良かったら艦橋も見て行く? ちょうど出航指揮を執らないといけないから」
「いいんですか!?」
「もちろんよ。ただ、艦内装備等は軍規密があるから口外しないように」
ラインハルトが無言で頷き了承した。
帝国軍の最新型なら装備はどれも新型装備にあたり、当然秘密がある。
何しろ帝国軍は宇宙船技術のおかげで十年先を行くのだから。
甲板から艦橋までは艦内階段を上がるのかとラインハルトは思っていたが、シュネーヴィにはなんと昇降機なる物が装備されており、ボタン一つで艦橋まで運んでくれる。
艦橋に入ると艦長席近くに立っていた男性にフィリーネが声を掛けた。
「ご苦労、ミハエル副長。艦の指揮を代わります。出航用意を。」
「はい、艦長」
ミハエル副長が艦長席を離れると「艦長が指揮を執る」と言い、艦内放送で出航用意を呼掛けた。
ミハエル副長が艦長席の斜め前に座り、フィリーネと一緒に来たドミニク航海長が左前の座席に座る。
副長達の前にも座席があり中央は操舵士アルミンの座席なり、操舵士の右二席は砲術長イゼルマと通信士ペトラで左二席は機関長ルシアンと主計士テレーゼの座席になるとフィリーネに教えられた。
「ラインハルト君、申し訳ないけど席の用意が出来ないから、ヴィクトリアと一緒に私の隣で立っててもらえるかしら」
「はい、お構いなく」
ヴィクトリアと一緒にラインハルトはフィリーネの横に立つ。
戦艦の艦橋に入れるのは人生初だから二人は胸を踊らせる。
しかも艦橋とは言っても窓等は無く、殆んどが画面から映し出される映像で外を見る。
そんな中、機関長から艦長に報告が入った。
「艦長、機関出力現在八割まで上昇。いつでも出航出来ます」
「了解。航海長、艦の針路をガーデンリング回廊入口に向けて、両舷前進速力三分の二」
艦長からの命令を航海長は操舵士に命令を下す。
「はい艦長。操舵士、針路ガーデンリング回廊入口に。両舷前進、速力三分の二」
「了解です航海長。針路ガーデンリング回廊入口。両舷前進、速力三分の二」
一連の動作が終わると、ゆっくりとシュネーヴィが動き始める。
艦橋要員の動きや号令にラインハルトは目を輝かせており、そんなラインハルト見てヴィクトリアは微笑ましくなる。
そして静かな波を切り裂きながら、白雪姫はガーデンリング回廊入口を目指す。
ガーデンリング回廊に入るには入口が各国に数十カ所ある。
それぞれの海岸国家に入口があり、無論帝国にも入口がある。ガーデンリング回廊から内ないし外に外れると民間船の強度だと船はたちまち荒波に飲まれる為にガーデンリング回廊は言わば民間船の安全航路なのだ。
入口を管理する海岸国家は入口使用料を船から貰う為、海岸国家にとっては重要な収益源にもなる。
回廊内は反時計回りに海流がながれており、流れに乗れば四季国から帝国まで僅か三日で辿り着くが、流れに反して進めば日にちが倍くらいかかり、それだけ燃料も使ってしまう。
故に大抵の民間船は流れに沿って沿岸国家を何ヵ所も寄りながら貿易をする。燃料を少なく儲ける為にだ。
もちろんシュネーヴィも例外なく回廊の流れに沿って帝国北部の海運都市、キールを目指す。
シュネーヴィがガーデンリング回廊入口に入ると艦の指揮を再びミハエル副長に譲り、フィリーネは二人を部屋まで案内した。
「ラインハルト君には士官用の部屋を一つ用意したから。狭いベットだけど、寝るには大丈夫よ」
「わざわざありがとうございます」
部屋の扉を開けると大人一人分寝るのがやっとのベットに、小さな椅子と机があり窓は無い。
ラインハルトとヴィクトリアが荷物を置こうと部屋に入ろうとするとフィリーネがヴィクトリアを呼び止める。
「待ちなさい、ヴィクトリア。何してるの?」
「何って、私もこの部屋では?」
「あなたは私の部屋よ。只でさえ狭いベットにあなたも寝たらラインハルト君に悪いでしょ。それとも一緒に寝る理由があるなら別だけど?」
フィリーネの言葉にヴィクトリアはぎこちなく部屋を出た。
まだフィリーネには二人が想い人同士だとヴィクトリアは言っていないからだ。
もちろんフィリーネはとっくに想い人同士なのは知っているが、わざと娘を弄って反応を楽しんでいるのだ。
「ではラインハルト君、夕食の時間になったらヴィクトリアを行かせるから。それまでは部屋で寛いで構わないわ。あとシュネーヴィには簡易的だけで湯殿があるから、夕食後に案内するわね」
笑顔でフィリーネは扉を閉め、ラインハルトは夕食の時間まで読みかけの本、ガーデンリング回廊調査隊の本を読み始める。
もちろん栞はカーチス船長のページのままだ。続きをヴィクトリアと一緒に読む約束をしていて、栞を勝手に動かすと怒られるから。
ラインハルトはアルムルーヴェの怒りなんて買いたくない為だ。




