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二人の絆

 夏祭りの当日の夕方。

 花火大会も一緒に開催される為、ラインハルトの田舎街は賑わっていた。

 夏祭り会場は街の方では場所が無い為に、ラインハルトの家近くの広場で毎年やっている。

 もっとも広場と言っても、何も無い草原になるのだが。

 幸いなのは四季国の花火大会は珍しいみたいで、色々な国から観光客が来てくれる。

 中には帝国からの観光客もいる為にヴィクトリアが変に気を使わずに済む。

 本人も気にしているのか、ルクリエやアメリアに髪を染めようか相談していたが、ラインハルトが『綺麗な髪なんだから勿体無いよ』といい止めさせた。

 本人もそう言われて嬉しかったのか笑顔で頷いた。

 そしてラインハルトも支度をして外で待っていると、遂に待ち人来る。


「ま、待たせたな……」


 振り返ると浴衣姿のヴィクトリアが恥ずかしそうに立っている。

 藍色の生地に咲く無数の紫陽花(あじさい)の花達。

 淡いピンク色や赤色の紫陽花柄の浴衣に赤い帯でアクセントをつける。

 耳にはいつものアイスブルー色のイヤリングを身に付け、黄金の髪はアップに纏めている。


「に、似に合うか? おかしく無いか?」

「おかしく無いし、凄く似合うよ。ヴィッキーにピッタリだ」


 ラインハルトのありのままの言葉にヴィクトリアは笑顔で駆け寄った。


「そうか、なら良かった」


 そしてヴィクトリアもラインハルトの耳に黒曜石のイヤリングを付けているのに気付いた。


「それって……」

「婆ちゃんから受け継いだんだよ。似合うかな? イヤリングなんて普段はしないから」

「普通だな。イヤリングにお前の顔が負けてるがな」

「ありのままの感想をどうもありがとう……」


 アルムルーヴェらしく上から目線の感想にラインハルトは項垂れる。

 そこは『お前にしては似合うな』ぐらい言って欲しがったが、どうやら高望みらしいのでラインハルトは諦めた。

 気を取り直して二人は祭りの会場に向かった。

 周りを見れば子連れの親子や想い人同士の男女の姿。

 そんな中、一人の子供がラインハルトの目の前で転んでしまった。

 今にも泣き出しそうな子供。

 ラインハルトは急いで子供も立たせてあげて、土埃を払ってあげる。


「もう大丈夫だよ。怪我は無い?」

「うん……。ありがとう、おにいちゃん」


 子供は必死に泣くのを我慢しながら母親の元に駆け寄った。

 母親はラインハルトに頭を下げてお礼をする姿を見ると、ラインハルトは手を振りながら挨拶を返す。

 その光景を見ながらヴィクトリアが聞いてきた。


「お前、子供が好きなのか?」

「好きか嫌いかと言ったら好きだね。僕にはルクリエ姉さんがいるけど、世話になる前は兄弟はいなかったから寂しかったんだ。もし誰かと縁があって結婚したら、二人か三人くらい……出来ればたくさん子供が欲しいかな」

「た、たくさんか!? わかった、頑張る……」

「?」


 最後の方は祭りの音楽で聞き取れなかった。聞き直そうとしたらヴィクトリアが()()出店を指を差して尋ねる。


「あの白いふわふわした物はなんだ? みんな食べてる奴は」

「あ~綿菓子だね。四季国のお菓子で、よく祭りに出てくるんだ。食べる?」

「うん、食べる」

「了解。ちょっと待っててね」


 綿菓子を買いに行こうとしたら、誰かがラインハルトの手を優しく引っ張る。

 振り返るとヴィクトリアが手を引っ張っていた。


「どうしたの?」

「いや……今日は凄い人集りだろ。私は土地勘が無いんだから、はぐれたらどうするんだ」

「そっか……じゃあ一緒に行く?」

「当たり前だろ、お前はバカか」


 頬を僅かに染めながら抗議するヴィクトリア。

 彼女は気づいているか分からないが、さっきからラインハルトの握られた手は思わず手汗が出ていて、その事にヴィクトリアが気づかないか心配していた。


「そうかもね。何しろ僕は帝国一や銀河一鈍いっていう称号を君から貰ったからね」

「黙れバカ。あれは言葉のあやだ! だから本気にするな」

「うん、知ってるよ。君は人に悪口を言う人間じゃないからね。きっと君たち一族の誇りが許さないはずだから」

「当たり前だ。我らは誇り高き一族だぞ」


 それから二人は綿菓子の出店の列に並んだ。

 ヴィクトリアはずっとラインハルトの浴衣の袖を摘まんでおり、それにラインハルトも気づいていたが特に何も言わなかった。

 ひとときの幸せを終わらせたく無かったのだ。

 綿菓子を受け取るヴィクトリアの表情が何とも可笑しくてラインハルトは笑いを堪えてしまう。

 綿菓子を見る焔の瞳が、おっきく見開くのだ。

 そして彼女の人生で初めて食べた綿菓子の感想は……。


「見た目に反して意外と歯応えが無いな」

「……まぁ綿菓子だからね。綿の様にふわふわしてるのが由来だから」

「帝国には無い味で美味しい」

「気に入ってもらえて良かったよ」


 それから二人は出店廻りを始めた。

 そして祭りに行くと必ずやる、二人の恒例行事の射的で勝負が始まる。

 獅子のぬいぐるみを誰が早く撃ち落とすかだったが、またもやヴィクトリアからの圧力にラインハルトは負けてしまう。

『獅子のぬいぐるみを私と思って日頃の恨みを晴らそうと頭に当てるな』とか、勝負にすらならない決まりを言われる。

 案の定、獅子のぬいぐるみをヴィクトリアは見事に撃ち落とした。

 ぬいぐるみを渡されて嬉しそうに笑顔を見せるヴィクトリア。

 大事にカゴ巾着にしまい込むと会場のアナウンスで、もうすぐ花火大会が始まると流れる。


「何処で花火を見るんだ? 近くの広場は凄い人集りだぞ」

「心配要らないよ。向日葵(ひまわり)畑の所で見るから。あそこはちょっと離れてるけど人が少なくて穴場なんだ」

「そうなのか?」

「あはは……たまには信じて欲しいよ、ヴィッキー。嘘じゃないから」

「わかった。お前を信じているから心配はしていない」


 ラインハルトはその言葉を聞けただけでも祭りに来た甲斐がある。

 向日葵畑に二人は人混みを掻き分けながら進んだ。

 慣れない下駄を履いているヴィクトリアの歩幅に合わせる様にゆっくりと歩く。

 途中、人並みに飲み込まれそうになるとラインハルトは浴衣の袖をヴィクトリアに差し出す。


「良かったら掴む? はぐれたらマズイから」

「うん……感謝する」


 そういうとヴィクトリアは静かにラインハルトの袖を掴んで歩き始める。

 そして二人は向日葵畑に辿り着いた。

 ラインハルトの言っていた通りに、人影は疎らで絶好の場所だ。


「人が少ないのは本当だな。ここなら気にせず見れる」

「ここはシュヴァルツ家の穴場スポットなんだ。小さい頃はよく婆ちゃんや爺ちゃんを連れて皆で見に来ていたからね」

「お前達家族の思い出の場所か……」


 ヴィクトリアが向日葵畑を見回した瞬間、頭上に大きな花が咲いた。

 綺麗な翡翠色の大玉や淡い紫色の大玉が空に打ち上げられ咲き誇る。


「綺麗だな……まるで超新星爆発みたいだ」

「ぷっ、あはは」

「おい、何故笑う!?」


 ヴィクトリア特有のありのままの感想にラインハルトが笑い出してしまう。

 馬鹿にされたと思い、ヴィクトリアは顔を赤らめながら抗議をする。


「ごめんごめん。超新星爆発って表現が君らしいなって」

「黙れバカ。別にいいだろ、ありのままに言って何が悪い」

「怒らないでよ、ヴィッキー。僕は君の表現は好きだよ? 確かに超新星爆発みたいだね。きっと僕らの先祖が宇宙を彷徨っていた時は、こんな光景をいっぱい見たんだと思うから」


 宇宙を背にして咲き誇る花火を見ながら言うラインハルト。

 そんなラインハルトの表情を見ながらヴィクトリアも同じ景色見ながら答えた。


「そうかもな。我らは宇宙が恋しくなるのかもな。こうして宇宙を見ていると不思議と心が落ち着く」

「僕もだよ。きっと僕らの本当の家は宇宙なのかもしれないね」


 それから二人は夢中で花火を見た。

 連続して打ち上げられる花火や、特大の大玉による巨大花火などに心を踊らせる。

 楽しそうに花火を見るラインハルトを見て、ヴィクトリアは決心を決める。

 本当は既に答えは出ていたのだが、今が伝える好機と思いラインハルトの名前を呼ぶ。

 ヴィクトリアに呼ばれ、ラインハルトの瑠璃色の瞳がこちらを向く。

 そして()()()()を口に出す。


「ラインハルト。私もお前の――」


 その瞬間に超特大の大玉が爆発し、ヴィクトリアの言葉がかき消されてしまいラインハルトの耳に届かない。


「ごめん! 聞こえなかった!」


 ラインハルトが大声で聞き返し、ヴィクトリアも顔を赤らめながら何度も叫んだ。

 だが天の悪戯か、次々と大玉が爆発しことごとく聞き取れない。

 どうやら花火大会も終幕が近いらしい。

 相変わらず締まりの無い顔で聞き返すラインハルト。

 そんなラインハルトに業を煮やしたのか、ヴィクトリアは思わず両手でラインハルトの頬を挟み顔を近づける。

 そして今度こそ、渾身の想いを込めてヴィクトリアは想いを叫んだ。


「ラインハルト! 私もお前の愛の証が欲しい!」


 ヴィクトリアの叫ぶ前に最後の大玉が爆発したので、今度こそはラインハルトの耳に入った。

 その言葉に呆然としているラインハルトにヴィクトリアは更に詰め寄った。


「お前は私の愛の証が欲しくないのか? それとも欲しいのか? 素直に答えるがよい、ラインハルト・シュヴァルツ!」


 その最後通告の様な言葉にラインハルトは笑顔で頷いた。


「もちろん欲しいよ、ヴィッキー……()()()()()()。僕は君の愛の証が欲しい」

「うん、素直で宜しい。これで私たちは想い人同士だな」


 その言葉に満足したのか、その時のヴィクトリアの笑顔は今まで一番可愛らしく、そしてラインハルトは愛しく思わずにはいられなかった。


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