家族の味
ラインハルトの両親の墓参りも無事に終わり、二人は家に帰ると家の前に数人の人集りが見えた。
その人集り顔ぶれを見てラインハルトは近所の人達だと分かった。
何やらルクリエと話しているが、みんな険しい表情をしながらルクリエに詰め寄っている。
ルクリエが二人を見るなり手を振り挨拶した。
そして近所の人達を散らす様な素振りをして追い払う。
みんな引き下がって家に帰って行くが、明らかに渋々といった感じだ。
「二人共、お帰りなさい。カイさんとエヴァさんに私の事も言っといてくれた?」
「うん。相変わらずルクリエ姉さんは独身を謳歌してるって」
「こいつ生意気だぞ」
ラインハルトの額を軽く小突く。
「姉さん。さっき皆が集まっていたけど、どうしたの?」
ラインハルトの質問にルクリエは二人を見て溜息を付きながら頭を掻いた。
正確にはヴィクトリアを見てだ。
「ま~隠してもいずれ分かるか……。さっきのはうちに抗議を言いに来た連中だよ」
「抗議!? それって……」
その意味にラインハルトは気付いたが口には出さなかったが、本人から名乗り出た。
「恐らく私だろう。大方、帝国人を家に泊まらすなと言われたんだろ?」
「まぁね……」
実際はもっと突っ込んだ事を言われたが、それはルクリエの胸に留めておいた。
「世話になったな、ルクリエ。今日の夜には発つから心配する――!?」
悲しそうな表情を浮かべるヴィクトリアの肩をラインハルトは掴む。
「帰る? 悪いけど明日の花火大会を見てから一緒に帰るよ。さっきも言ったけど君は悪くないんだからね」
「し、しかし! これ以上の迷惑は――」
「そんなの関係ないよ! いつから君達一族はそんなに空気が読める一族になったんだい? 『傲慢にして強欲の黄金獅子』が聞いて呆れるよ! いつもの様に堂々としていればいい!」
ラインハルトの気持ちにヴィクトリアは静かに頷いた。
その焔の瞳には薄っすらと輝くものが見えた気がしたが、ラインハルトは見なかった事にする。
そんな二人にルクリエが声をかけた。
「ラインハルトの言う通りだよ。好きなだけ泊まっていきな。お母さんもお婆ちゃんも喜ぶからね。特にお婆ちゃんなんて久しぶりに生き生きしてるよ。可愛いらしい若獅子は何処に行ったって家中を捜すくらいに。去年、お爺ちゃんを亡くしてから元気がなかったもん」
「はい……皆の思いに感謝を」
それからルクリエはヴィクトリアを連れて家の中に入って行った。
ルクリエからは夕食の支度が出来たら呼びに行くから言われ、部屋で大人しく待っているとドアを誰かがノックした。
「ラインハルト、待たせたな。準備が出来たぞ」
ドアの向こうからはヴィクトリアの声が聞こえ、ラインハルトはドアを開けると目の前の光景に暫く時間が止まってしまう。
だがそれもそのはずだ。
目の前に居るのはエプロン姿の王女殿下。いや、ヴィクトリアなのだから。
「ジロジロ見るな!」
「ごめんごめん。王女殿下のエプロン姿は中々見れないからついつい。どうしたの?」
「泊めて貰った礼に私が夕食の手伝いをしたんだ。何もしないで世話になるのは流石に気が引けるからな」
「ふふ、君らしいね」
アルムルーヴェの義理堅い血筋がそうさせるのだろう。
居間に行くとそこにはラインハルトの好きな食べ物である、ハンバーグがテーブルの餓えに置かれていた
「今日はハンバーグか。久しぶりだな、アメリア義母さんのハンバーグ」
「違う。それは私が作ったんだ」
「……え?」
ラインハルトの横から訂正するヴィクトリア。
ラインハルトの視線はハンバーグとヴィクトリアの双方を行ったり来たりを繰り返す。
「えっと……アルムルーヴェの冗談かなにか?」
「お前失礼だな。私だって料理くらい作れるぞ」
「あはは、ごめんごめん。君って王女だからさ、普段は用意される側だし……」
帝国の王女なら普通は専属の料理人なりが作るのが普通だとラインハルトは思ったのだ。
「もちろん料理は初めてだ。ルクリエやアメリアに教えて貰ったから大丈夫だ……たぶん」
出切れば最後のたぶんは聞きたくなかった。
でもヴィクトリアなりに頑張って作ったのだから美味しいはずとラインハルトは考えた。
「でも美味しそうだよ。ありがとう、ヴィッキー。僕の好きな食べ物を作ってくれて」
「お礼だお礼。別にお前がハンバーグが好きだからって作った訳では無いからな。偶々だ」
「分かってるよ、偶々でも嬉しいよ」
そういうとラインハルトは自分の指定席に座り込むと、ヴィクトリアは横に座るなりハッピーを膝上に乗せて呟いた。
「相変わらず帝国一の鈍さだな……」
「ん?」
膝上に乗せていたハッピーを抱き上げ、ヴィクトリアは顔を付き合わせながら言う。
「何でもない! ハッピーに言ったんだ」
それに反応する様にハッピーはニャーと鳴いてヴィクトリアをフォローする。
ゾフィーやアメリア、ルクリエも席に座り、ヴィクトリア渾身のハンバーグを食べ始めた瞬間、三人に稲妻が走る。
ゾフィーやアメリアは無言を決め込んでしまった為にルクリエが二人を代表して感想を述べる。
「どこか懐かしい味だね。ま、まぁ初めはこんなもんかな。大丈夫大丈夫、練習すれば今よりも良くなるよ」
ルクリエの正直過ぎる感想で察したのか、ヴィクトリアも一口食べると稲妻が走る。
見た目は美味しく出来てるのに、明らかにハンバーグの味じゃないのだ。
「すまない……これは不味いな」
作った本人も思わず認めてしまった。
しかし、その横でラインハルトは平然と食べている。
すかさずヴィクトリアは箸を持つラインハルトの手を止めさせた。
「無理をするな。無理して食べる必要は――」
「なんで? 普通に美味しいよ。母さんの味と同じでびっくりしたよ」
「?」
ラインハルトのその言葉にルクリエは思い出した。
「懐かしい味で思い出したよ。エヴァさんの味だよ、これ!」
エヴァさんの味と言われ、アメリアとゾフィーは何回も頷く。
事情が飲み込めていないヴィクトリアにルクリエが耳打ちした。
「ラインハルトのお母さん……エヴァさんも料理が得意な方じゃ無かったのよ。ま、本人が美味しいって言ってるからいいんじゃない?」
そう言われてヴィクトリアは隣で美味しいと言いながら食べるラインハルトを見つめて一言呟いた。
「そこは母さんよりも美味しいと言え、バカ」




