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時を越えた再会

 ラインハルトが荷物を運び込むとヴィクトリアが玄関で立ち止まっている。

 視線の先を見ると玄関に並べられている靴を見ていた。


「ヴィッキー、靴を脱いで家にあがるんだ。四季国は基本的に外と内を別ける習慣なんだよ」

「そうなのか? 変わった習慣だな……」


 靴を脱いで、恐る恐るつま先を床に着ける。

 着いた瞬間に床の冷たさに驚き、体が一瞬びくってした時は見ていて面白かった。

 まるで猫を背後から気付かれない様に驚かした時に似ている。

 床の冷たさを味わう様に歩くヴィクトリア。

 その光景を後ろから見守るラインハルトにルクリエが居間から声を掛けた。


「ラインハルト! ヴィクトリアの荷物は客間に運んでおいて。私達は先に湯浴みをするから、居間に待たせといて」

「わかったよ」


 ラインハルトは先にヴィクトリアを居間に案内した。

 王宮と違い、普通の家は珍しいのだろう。

 低い天井や廊下に小さい部屋を興味津々に見ている。

 居間にはテーブルがあり、椅子が無い。しかも床も普通の床と違い、四季国伝統の畳が敷き詰めてある。


「ラインハルト、この緑の床は?」

「え? あぁ畳だよ。わらといぐさっていう奴で編んだ敷物なんだ」

「タタミ? 変な絨毯だな」

「確かにね。でも大丈夫だよ、畳の上なら湿気が足裏に纏わりつかないから」

「そ、そうなのか……」


 これまた恐る恐るつま先を畳に着けるヴィクトリア。しかし直ぐに慣れたのか、畳の上を歩き回る。


「本当だ!? お前にしては本当の事を言っているな」

「酷いな~ヴィッキー。僕はいつも本当の事しか言わないよ? 君は嘘が嫌いだからね」

「黙れバカ。お前の口から出る言葉は真実味に欠ける」


 二人がいつものやり取りをしていると、居間に飾られた紋章旗にヴィクトリアの視線が釘付けになる。

 その紋章旗は帝国四大皇族と同じ深紅の旗に金色の糸では無く、ラインハルトの髪色と同じ漆黒の刺繍が施された漆黒の獅子。

 獅子の瞳は瑠璃色だ。


「やっぱり……。ラインハルト! これって!?」


 ヴィクトリアが振り返るとラインハルトの背後に老婆が立っていた。

 髪色は漆黒ではあるが、所々に白髪が混じっている。耳には黒く輝く黒曜石のイヤリングをしており形がヴィクトリアと同じ形をしていた。

 そして瞳の色は綺麗な瑠璃色をしている。


「ゾフィー婆ちゃん!?」

「ほほ、ラインハルト久しぶりだね。見ない間に立派な少年になったね。それに可愛いらしい黄金獅子の女の子まで」

「ゾフィー婆ちゃん、分かるの?」

「勿論だとも。まさか死ぬ前にアルムルーヴェに会えるなんて夢にも思わなかったよ」


 ゾフィーとラインハルトの声に反応してルクリエとアメリアも居間に駆け寄って来た。

 ゾフィーは懐かしむ様にヴィクトリアを見ながら語り出す。


「あぁ、古き友よ。約束を覚えているかい――」


 その言葉を綴る様にヴィクトリアも語り出した。

 まるで二人だけの世界の中みたいに。


「――覚えているさ我が愛しき人よ、一度も忘れた事は無い。この庭園での約束を果たすべくお前の帰りをずっと待っていた。お前と駆け抜けた数多の戦場や沢山の国々での思い出は、我が人生の最大の宝なり――」

「――私もだ、愛しき人よ。お前と過ごした時は私の宝でもある。願わくば、汝の傍らで夢を一緒に見続けたかった――」

「――私もだ。去らばだ愛しき人よ。例え傍らに居なくても、心は常にお前を想っている……」


 その光景を二人以外は黙って聴いてるしか無かった。

 二人の語り合いが終わるとゾフィーは笑顔でヴィクトリアを迎えた。


「ちゃんと親から子に、そして孫に伝わっていて良かったよ。可愛いらしいアルムルーヴェの若獅子よ」

「私も会えて光栄です、シュヴァルーヴェ。母上から覚えさせられましたから。もし再会を果たしたら()()伝えなさいと。ありがとう、シュヴァルーヴェ。お前は我が人生最大の宝だと。そして……お前を愛していると」


 互いに抱き合いながらヴィクトリアの言葉を聞いた瞬間、ゾフィーの瑠璃色の瞳から涙が流れ落ちる。


「それを聞いたら先祖は喜ぶだろうね。ありがとう、可愛いらしいアルムルーヴェの若獅子よ。先祖を代表してありがとうと、母君と御婆様に伝えておくれ」

「はい、必ず。我らアルムルーヴェの名にかけて」


 事態が全く飲み込めなていないラインハルトがヴィクトリアに聞いてきた。


「ヴィッキー、これって?」

「シュヴァルーヴェと約束の庭園での会話なんだ。母上からお前の特徴と名前を書いたら、シュヴァルーヴェ一族の末裔かもしれないと知らせが来たんだ。さっきの会話は二人しか分からない合い言葉みたいなものだ」

「そうなんだ……。シュヴァルーヴェ一族なのうち!?」


 ラインハルトが自分自身を指差して驚愕していると、ヴィクトリアは呆れた表情で言葉を掛けた。


「そう言う事だ。お前、バカだバカだと思っていたが阿呆でもあったのか? 知らなかったぞ」

「あはは、僕の新しい一面が発見されたね」

「黙れバカ。喋れば喋るほど恥を上塗りしているからな」

「はい……ごめんなさい」


 ヴィクトリアに窘められるラインハルトを見てゾフィーは笑いながら、居間に一つだけ用意された椅子に腰掛ける。

 アメリアは湯浴みの支度が済んだからと、ルクリエにヴィクトリアを風呂場に案内させた。


「ラインハルト。こっちにおいで」


 ゾフィーがラインハルトを呼び寄せ、ラインハルトに()()物を手渡した。

 それは黒曜石のイヤリングだ。


「いいかい、ラインハルト。これは先祖代々から受け継いできた物だから大事にお持ち。帝国の古い習わしで、大事な想い人に片割れをやるんだよ。例えどんなに離れていても心は常に愛しく想っていると言う意味だよ」

「そんな大事な物受け取れないよ。それに義父さんが受け取るべきじゃないの?」

「あいつはダメだよ。正統なシュヴァルーヴェの後継者には成れない。この死に損ないの婆やの願いを聞いておくれ」


 黒曜石のイヤリングをラインハルトの手の平に置きながら、ゾフィーはその手を強く握った。


「わかった……。婆ちゃんの頼みだから断れないよ」

「ありがとう、可愛い漆黒の若獅子よ。あの可愛いらしい黄金の若獅子と幸せにな」

「婆ちゃん!?」


 思わず頬を赤くしてラインハルトは後退りしてしまう。

 そんなラインハルトを見ながらゾフィーは笑みをこぼす。


「他の人間は騙せても婆やの目は騙せないよ、漆黒の若獅子。お前さんが、あの可愛いらしい若獅子に惚れとるくらい分かる」

「あはは……。あ、義母さんの手伝いをしてくるよ!」


 苦笑いしながらラインハルトは台所にいるアメリアの元に逃げて行ってしまう。

 そんな姿を見て、ゾフィーは紋章旗を見ながら溜息をつく。


「やれやれ、揃いも揃って不器用な若獅子達だね。あの時の二人が叶えられなかった願い……いや、想いがやっと成就することを願うよ」


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