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姉弟の思い想い

 ラインハルトの家は四季国の首都から離れた高原地帯にある。二人の降りた駅からはバスを乗継ぎ山を抜けて行く。

 山を抜けると広大な草原が広がり、小さな街がある。

 その街には小さいながら学校があり、街の収入は自然の恵みである温泉による観光と夜空に輝く星の観察だ。

 この温泉がちょっと変わっており、卵が腐った様な強烈な匂いを放つ。

 四季国の人間は有難がるが、四季国の人間ではないとちょっと匂いが苦手な人間が多い。

 駅から乗ったバスに揺られて数時間。

 辺りは夕日の光が大地を照らすが、相変わらず暑さは変わらない。

 二人の乗ったバスは街の郊外までしか行かない為に二人もそこで降りた。

 しかも郊外と言っても草原のど真ん中に降ろされる。あとは徒歩で向かうしか無いのだ。

 ラインハルトは四季国の暑さに慣れていたが、連れのヴィクトリアは暑さに堪えたみたいで、歩く速度がかなり遅くなっていた。


「ヴィッキー。荷物持つから貸して」


 ラインハルトが汗を拭うヴィクトリアに手を差し伸べた。

 その姿に、やはり猫科の動物である獅子も暑さが苦手なんだなと思った。


「これくらい大丈夫だ。自分の荷物くらい自分で持つ――ッ!?」


 ラインハルトの差し伸べた手を振り払おうとした瞬間、立ち眩みがしてしまったみたいで思わずラインハルトにもたれ掛かる。


「大丈夫じゃないよ。少し休もうか、冷えて無いけど水があるからさ」

「そうだな……。すまない、感謝する」


 そう言うとラインハルトは自分の荷物を地面に置いて、そこにヴィクトリアを座らせた。

 ヴィクトリアが自分の荷物の方に座るからと言っていたが、ラインハルトはヴィクトリアの荷物を半ば強制的取り上げて肩に掛けた。

 流石に草原の地べたに女の子を座らせるのはラインハルトも男として気が引けるのだ。

 そして水の入った硝子瓶をヴィクトリアに手渡した。

 硝子瓶の蓋を開けるなり、勢いよくヴィクトリアが飲むから、よっぽど喉が渇いていたのだろう。

 そしてヴィクトリアが水が半分だけ残っている硝子瓶をラインハルトに差し出した。


「お前も飲め。私だけ飲んで、お前が飲まないと気分が悪い」

「ありがとう。君の優しさに感謝を」

「うん」


 そう言うとラインハルトも喉の渇きを潤した。

 空を見上げると美しい星々の輝きが増し始めている。


「行こうか、ヴィッキー。もう直ぐだよ」

「そうだな。私の荷物を――」


 ラインハルトの肩に掛けた鞄を受け取ろうしたが、ラインハルトは勝手に自分の荷物も持って歩き始めてしまう。


「大丈夫だよ。僕が持つから」

「し、しかし……」

「こう見えて僕は力持ちだからね。お、とと」


 両肩に荷物を掛けてふらつくラインハルトを見てヴィクトリアは苦笑いする。


「余り無理をするなよ。今回はお前の言葉に甘えさせてもらう」

「大丈夫大丈夫。鍛えているからね」


 そう言いながら右左にふらつくラインハルトを見て、ヴィクトリアは親愛を籠めた言葉を少年の背中に投げ掛けた。


「バカ。相変わらず頼りになるのか成らないのか分からない男だな」


 そうして二人は夕日が沈み、満天の星空が輝く夜空の下を歩いた。


□□□□□□


 街の明かりが夜空を照らしていると、人工的な光が二人の真後ろを照らした。

 それが車のライトだと気付くのに然して時間は掛からなかった。二人が避けると車が通り過ぎるが、少し先で急停車する。

 赤い車のドアから人が出て来るなり二人に駆け寄る。


「ひょっとして……ラインハルト?」

「うそ……ルクリエ姉さん!?」


 ラインハルトにルクリエ姉さんと言われた女性はラインハルトと同じ様に長く綺麗な黒髪を後ろでに三編みで結び、思わずヴィクトリアが嫉妬してしまうくらい綺麗な顔立ちをしているのだ。

 互いに身内だと分かるとルクリエがラインハルトを抱き締めた。


「痛いよ、ルクリエ姉さん……」

「まったく言ってくれれば駅まで迎えに行ったのに! 母さん達が待ち草臥れてるわ。見ない間に大きくなって……」

「ルクリエ姉さん、それじゃ義母さんみたいだよ」


 ラインハルトを解放するとルクリエの視線がヴィクトリアに移る。


「この子が手紙で言ってた女の子?」

「そうだよ。名前は――」


 ラインハルトが紹介しようとしたがヴィクトリアが制止した。

 どうやら自分の口から言いたいらしい。

 ヴィクトリアは麦わら帽子を取って挨拶する。


「御初に御目にかかります。私の名前はヴィクトリア・フォン・アルムルーヴェと申します。以後お見知り置きを、御姉様」


 ヴィクトリアの品位と品格が備わった立ち振舞いに思わずルクリエは頭を下げる


「これこれはどうも御丁寧に。ラインハルトの姉のルクリエ・シュバルツと言います。……アルムルーヴェ!?」


 頭を下げて挨拶するルクリエだが、思わずアルムルーヴェという言葉に反応し、ラインハルトを見る。

 ラインハルトは無言で頷き、帝国の皇族だと知らした。

 いくら四季国の田舎街でもアルムルーヴェの名前くらいは知っている。

 何せ表向きはヴィクトリアの祖母が四季国に戦争を仕掛けて来たのだから。

 思わずルクリエはラインハルトの腕を引っ張った。


「ちょっとラインハルト! 帝国の皇族が来るなんて聞いてないわよ!!」

「あれ? 言ってなかったっけ? ヴィッキーが来たいって言うから連れて来たんだけど」

「ヴィッキー!? そういう関係なの!?」


 ラインハルトの肩を揺さぶりながら混乱するルクリエ。

 ラインハルトは愛称は本人も了承しているし、ルクリエが想像している様な関係では無いと説明して落ち着かせた。


「取り敢えずアルムルーヴェ()、私の車で良ければ我が家まで御送りしますので。ささ、どうぞどうぞ」

「感謝します、ルクリエ御姉様。では、お願い出来ますか?」

「勿論です」


 ヴィクトリアを後部座席に座らせ、ラインハルトと一緒に荷物をトランクに入れながらルクリエはヴィクトリアの言う御姉様の余韻に浸っていた。


「ルクリエ御姉様か……いい響きね。あの子が言うと、不思議と嫌な感じがしないわね。アルムルーヴェ()()()に……」

「ルクリエ姉さん……」


 ルクリエも四季国の人間だから帝国に……アルムルーヴェには思う所がある。

 帝国の所為で可愛い弟の人生は壊された。

 たとえ義理の姉さんでも可愛い弟なのだ。

 言わばアルムルーヴェは憎き相手であるが、別に彼女が殺した訳ではないのはルクリエも頭では十分に分かっていた。

 頭では分かっているが、心が納得していないのだ。


「ヴィッキーは義父さんが思っている様な人間じゃないよ」

「わかってるわよ。父さんが任務で留守なのが幸いね。お母さんとお婆ちゃんは理解があるからいいけど……」


 そう言うとルクリエは静かにトランクを閉めると、運転席に座り込む。

 ラインハルトも助手席に座ろうとしたが、ルクリエにヴィクトリアと一緒に座りなさいと言われ後部座席に座った。

 走り出す車の窓に写る自分の顔を見ながらラインハルトはルクリエの言っていた通り、義父さんが居ないと知り安堵した。

 ラインハルトの養父は叔父に当り、言わば本当の父親の兄なのだ。

 そして四季国の国防軍に所属する軍人でもあり、可愛い弟夫婦を殺した帝国を……アルムルーヴェを心底憎んでいる。

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