訪問者
あれからラインハルトが医務室に居る日は朝から騒がしかった。
眠ろうとしていたら第三班のフレイとカールが見舞いに来たのだ。
二人ともラインハルトが怪我をした本当の理由は知らず、ラインハルトが単に階段から落ちて頭を怪我したと聞かされているらしい。
フレイが食堂から差し入れで貰ってきたリンゴを剥いてくれた。
「みんな心配したよ、ラインハルト君が階段から盛代に落ちたって聞いたから」
「そうそう。あ、コレは俺からの差し入れ」
フレイが背中を向けた瞬間、カールが何やら数冊の本をラインハルトのベットの中に無理矢理捩じ込んだ。
ラインハルトが覗き込むと、そこには綺麗な女性が写った写真集らしき物がある。
しかも大半が水着を着たり着てない物。
「ちょっと!?」
「気にすんな戦友。寂しくなったらいつでも使え」
「つ、使わないから!」
フレイが振り返ると、二人は何事も無かった様に装う。
カールが情報士官や補給士官に向いている理由はコレだ。
常に最新の写真集を外部から仕入れ、それを余すことなく迷える男子候補生に分け与え広めるのだ。
二人が帰って一段落したと思った昼頃、カールからの差し入れ写真集を処分に困ってると新たな訪問者。
一瞬ヴィクトリアかと思い、急いで写真集を隠した。
何故だかヴィクトリアには写真集を見られては不味いと思って余計に取り乱してしまう。
「ラインハルト君、また来たよ~」
新たな訪問者はレベッカとモニカだ。
二人からの差し入れで、貴重な南方友好国の御菓子『カステイラ』を持参してきた。
モニカ曰く「後でアルムルーヴェ候補生と一緒に食べろ」と
「それにしても階段から落ちるなんて気が緩み過ぎだぞ。士官候補生なら気を引き締めろ、下手したら大怪我だからな」
「あはは……面目無いです」
モニカからの言葉にラインハルトは平謝りするしかなかった。
二人も本当の理由は知らないし、きっと知ったら二人は四六時中ラインハルトとヴィクトリアに付き添うだろう。
そんなラインハルトにレベッカが耳打ちした。
「大丈夫だよ、ラインハルト君。モニカなんて下級生の頃にやった模擬戦で、相手の模擬弾が額に命中して気絶したから。しかも暑いって言って、ヘルメットを脱いだ瞬間に」
レベッカに黒歴史を暴かれてしまい、モニカが怒り出す。
「余計な事を言うな! 暑かったんだから仕方無いだろ」
「だからって模擬戦中にヘルメット脱ぐ? 模擬弾だから気絶で済んだけど、実戦なら即死だよ。隊長が気絶した所為で私達の班は負けたんだからね」
「くっ!? いつまでも根に持つ奴だな……」
レベッカの話によると、毎年夏の休暇前に下級生の指揮能力を見る為に模擬戦をやるらしい。
下級生二人のどちらかが隊長、副隊長になり、模範生徒二人は部下役兼教官と一緒に査定することになっている。
「でね、ラインハルト君に頼みがあってね。アルムルーヴェ候補生に模擬戦の隊長を彼女に任せることを伝えて欲しいのよ。因みに副隊長は君だから」
「構わないですけど、直接本人に言った方が早いのでは?」
ラインハルトの言葉に二人は顔を見合わせ互いに苦笑いした。
「一対一だとちょっとね……。なにせアルムルーヴェ一族には色々と恐い噂があるから。『傲慢にして、強欲の黄金獅子』って言葉があるくらいだし……」
「あはは……何となく分かります」
レベッカとモニカの言いたい事は、一対一でアルムルーヴェ一族と対峙したくないから、普段から若獅子と接している調教師?に任せると言いたいのだ。
「模擬戦は帝都の外周部にある山で行われるから。私達からのアドバイスは美しく戦わず、耐えろ……かな」
「はぁ……耐えろですか」
「そう。我慢だよ、ラインハルト君! でも男の子の我慢のし過ぎは――痛い!?」
またレベッカが変な事を口走ろうとしたのだろか、空かさずモニカが頭を叩いた。
そのままレベッカの首根っこを掴んで医務室から放り出し、扉を閉める際にモニカもアドバイスを言う。
「いいか、アルムルーヴェ候補生にはアドバイスは言うな。あくまで副隊長の立場として、お前の言葉で言うんだ。分かったな?」
「はい……分かりました」
「よし、話はそれだけだ。しっか休め、休むのも任務の内だからな」
珍しくモニカが笑い掛けながら扉を閉めた。
二人の真意を考えていたらラインハルトは眠りに入ってしまった。
朝から絶え間なく見舞いに来たので全然休めなかったからだろう。
日が傾き初め、夕日がラインハルトの顔を照らし目が薄っすらと醒めると誰かが隣に座って居た。
淡く輝いている夕日に負けないくらい美しい黄金の髪色を持つ少女だ。
「やぁ、ヴィッキー。来てたんだ……」
「すまん、起こしてしまったか? 様子を見に来ただけだから、私は直ぐに帰る」
椅子から立ち上がろうとしたヴィクトリアにラインハルトは体を起こしながら声を掛けた。
「大丈夫だよ。それに可愛い女の子の見舞いはいつでも歓迎だ」
「バカ。お前は相変わらず真実味に欠ける話し方だな」
呆れた表情を浮かべながらヴィクトリアは再び椅子に座った。
「ヴィッキー。良かったらカステイラ食べる? レベッカさんの話だと、南方の国の貴重な御菓子らしいんだ」
背中を枕に預けながら、ラインハルトはベット脇にあるテーブルに置いてあるカステイラを指差した。
「食べる。お前だけじゃ食べきれないだろうからな。私が協力してやる」
「確かに僕一人で食べるのは無理だからね。でもあんまり食べ過ぎると太っちゃうから気をつけてね」
「黙れバカ」
それからはヴィクトリアがお茶を貰って来ると言い、食堂からお茶を持って来た。
医務室の先生にもラインハルトはお裾分けをしたが、どうやらヴィクトリアは自分の食べる量が減ると思ったのか物欲しそうな表情に。
仕方なくラインハルトは自分の分は少な目にして、ヴィクトリアに大目にカステイラを切り分けた。
そしてヴィクトリアがカステイラを口に運んだ瞬間。
「美味しい……。カステイラという奴は初めて食べたが、中々に美味しい」
「本当だね。でも意外だな、皇族でも食べた事が無いなんて」
ラインハルトの疑問は当然だった。
帝国の皇族なら大半の物は食してると思ったからだ。
「お前、皇族を何だと思っているんだ。皇族だからと言って贅の限りは尽くせないんだぞ。フェーニクスじゃあるまいし」
「それを聞いて安心したよ。君たち皇族が常識を知っていてくれてね」
「黙れバカ。せっかくの余韻が台無しだ」
余韻という言葉を聞いて、ラインハルトがヴィクトリアのお皿を見ると既にカステイラを食べ終わっている。
しかもヴィクトリアの視線がラインハルトのお皿に残っている三切れのカステイラに向けられている。
「あの……良かったら食べる?」
「いいのか!?」
「いいよ。僕はお腹一杯たから」
「感謝する」
余程カステイラが美味しかったのだろう。
嬉しそうに食べるヴィクトリアを見るだけでお腹が一杯になる。
流石に本人も悪いと思ったのか、三切れあるカステイラの内、二切れだけ貰い残りの一切れはラインハルトに残すのが何とも可愛らしい。
その後はヴィクトリアが水中訓練で美事に成績上位に入れた事を話した。
短期間で泳げた事も凄いが、成績上位に入れた事や、アルムルーヴェ一族の身体能力と順応性の高さには驚かされるばかりだ。
かの一族が戦場で名を馳せたのも頷ける。
それから模擬戦の事を伝えた。
ヴィクトリアが隊長だと伝えると彼女の瞳が燃える様に感じた。
アルムルーヴェ一族生来の闘争本能が疼くのだろう。
「私が隊長か……しかしお前が副隊長なのが心配だな」
「足手纏いにならない様に気をつけるよ。ヴィッキーの指揮下で最初の戦死者になるのは。余り愉快な話じゃないからね」
「そうしてくれると助かる。私としても最初の戦死者がお前だと幸先が悪いからな」
少年少女はいつもの様に会話を楽しみ、この時間を楽しんだ。




