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狙われる理由

 ヴィクトリアの半ば強制的な命令?によりラインハルトの短い夏の休暇が決まってしまう。

 一段落しラインハルトが胸を撫で下ろした瞬間に再び追及が始まる。


「それと路地裏の一件や拳銃の件を説明しろ。言っとくが、私は嘘が嫌いだから本当の事を話した方がお前の身の為だぞ」


 不敵な笑みを浮かべながらヴィクトリアはラインハルトに迫る。

 もはや草食動物には逃げ道が無いみたいだ。鋭い眼光がラインハルトに向けられる。


「あはは……。参ったな、何から説明すれば…」

「ならば初めから説明すればいい。言っとくが、私はお茶を濁すやり方が嫌いだ」


 わざとらしく頭を掻いて濁したが、どうやら逆効果みたいだ。

 仕方なくラインハルトは最初から説明した。

 拳銃はベアトリクスから渡された物で、万が一ヴィクトリアに危険が迫った時に使えと。

 そして、ベアトリクスの言う危険は他の皇族を妄信的に信奉する貴族や、その貴族の息が掛かった連中だ。

 皇位継承権を持つ者が減れば、自分達が推す皇族が皇帝になれる可能性が高くなる。

 ましてアルムルーヴェ一族の皇位継承権を持つ皇太女と皇女は謂わば、皇帝の玉座に一番近い存在だから邪魔になると。

 そして祭りの時にヴィクトリアは命を狙われていた。

 一連の事を話すとヴィクトリアは深い溜息をついて肩を落とした。


「事情は分かった。しかし愉快な奴もいるな、仮に私を殺したくらいで皇帝の玉座が近付く訳が無いのにな」

「愉快? ヴィッキー、君は命を狙われているんだよ!? もっと何かないの?」


 ヴィクトリアの余りの落着きぶりにラインハルト逆に心配になる。

 なにせ愉快な奴と言っているのだから、普通は心配になるのが常識的反応だ。


「特にないな。別に命を狙われるくらい皇族なら当たり前だ。それは他の皇族、そいつらが妄信的に信奉する皇族も同じ条件になるしな。それに、我らアルムルーヴェに無謀にも挑んでくる皇族は私の知る限り居ない」

「まぁ確かに。君達に挑むなら命が幾らあっても足らないだろうからね……」

「そういう事だ。我らは無闇に喧嘩は売らないが、一方的に売られた喧嘩は買う。しかも倍返しでな」


 脚と腕を組みながら説明するヴィクトリアを見ていると妙に納得してしまう。

 彼ら一族を表す『傲慢にして、強欲の黄金獅子(アルムルーヴェ)』という言葉()が彼ら一族を守ってきたのだろう。

 それは意識しようがしまいが関係ないのだ。

 アルムルーヴェの祖先が築き上げて来た善行悪行の行い全てが、今の彼女達を守っている。

 云わば先祖が子孫に託した言葉の鎧なのだ。


「何だか相手が可哀相に思えて来たよ……」

「おい失礼だな。要は死にたくなければ喧嘩は売るなと私は言っているんだ。言っとくが我らアルムルーヴェは武器なき者は殺さない。恨まれるのは一向に構わないが、武器なき者を殺して功を誇るのは恥ずべき行いだからな」

「それを聞いて僕も安心したよ、ヴィッキー。君達アルムルーヴェに常識的な考えがあってね」

「黙れバカ。お前、我らアルムルーヴェを卑怯者と一緒にするな!」


 確かにヴィクトリアの言う通り、卑怯者と一緒にされるのは余り愉快な話じゃない。

 彼女の言葉を借りるなら、『我らアルムルーヴェは誇り高い一族だからな』と誇り高々と言うに違いないとラインハルトは確信していた。


「ごめんね、ヴィッキー。僕は褒めてるんだよ。武器なき者を殺さないという君達の誇り高さをね」

「お前もようやくアルムルーヴェが分かってきたな。我らはアルムルーヴェは誇り高い一族だからな」

「ふふ……。ふははっ」


 思わずラインハルトは笑ってしまった。

 心で想像していた通りの表情と言葉でヴィクトリアが言ったのだから。

 しかも想像通りに誇り高々と。


「笑うなバカ! 何がそんなに可笑しいのだ」

「ごめんごめん。別に可笑しくなんかないよ。立派だと思うよ、君達の誇りの高さは」

「そ、そうなのか? ならば特別に許してやる。我らアルムルーヴェは寛大だからな」


 一族の事が誉められたのが嬉しかったのか、ヴィクトリアから寛大なる許しを得たラインハルト。

 そして無邪気に笑うヴィクトリアに釣られてラインハルトも笑い、ラインハルトはある二つの決心を固めた。

 それはヴィクトリアの傍らに常に居て、彼女と同じ景色、同じ時間、同じ気持ちを共有したいという願い。

 最後は、この命が続く限り彼女を守りたいという願い。

 ヴィクトリアはどう思うか分からないが、ラインハルトの気持ちは決まった。

 そんな決心を決めた矢先、病室の扉が勢いよく開いた。

 そして泣き叫びながらヴィクトリアを押し退けてラインハルトに抱き付いた。


「ラインハルト君! わたし死ぬ程心配したよ~心配し過ぎて夜が眠れないくらいに~!」


 ラインハルトに抱き付いて来たのはレベッカだった。しかも何やら柔らかい感触がラインハルトの二の腕から伝わるを察すると、ヴィクトリアの鋭い眼光がラインハルトを襲う。


「お言葉は有り難いですけど離れて下さい! 近過ぎますよ」

「え~エナジー補給させてよ。あ、なんだったら朝食を私が食べさせてあげようか?なんだったら添い寝も――痛っ!?」


 もはや暴走列車の如く迫りくるレベッカの頭を背後から鉄拳制裁する者が現れた。


「お馬鹿! 困ってるから止めなさい! それに朝から堂々と私の可愛い候補生を誑かさないでよね」


 レベッカに鉄拳制裁を食らわしたのはアレクシア教官だ。しかもモニカも一緒に居る。

 モニカはヴィクトリアに話し掛け、体に傷が無いか確かめていた。

 なんだか可愛い妹を心配する姉の様な光景に微笑ましい。


「痛たた……ちょっとした冗談ですよ。模範生徒として当然の事ですよ」

「模範生徒の役目に添い寝や朝食を食べさせてあげる様な役目はありません! あなたの趣味に私の可愛い候補生を巻き込まないでよね」


 開き直りを見せるレベッカに再び鉄拳制裁を食らわそうとアレクシア教官は拳を見せた。

 流石に二発も食らいたくないとレベッカは思ったのか、『指揮能力を見る模擬戦が休暇前にあるから!』とだけ言い残し、モニカの腕を引っ張って早々に退散した。

 余りの逃げ足の速さに思わずアレクシア教官が舌打ちをする程だ。

 そしてアレクシア教官は二人を見るなり聞いてきた。


「邪魔者は居なくなった事だし、事情を聞かせてくれるかしら? 二人共」


 アレクシア教官の言葉に二人は無言で頷き、一連の事情を話した。

 事情を話してる時、アレクシア教官はただ無言で頷くだけだった。

 肯定も否定もせず、二人の話に耳を傾ける。

 そして話が終わると、アレクシア教官が切り出した。


「事情は分かったわ。校長からも話を聞いたからね。アルムルーヴェ候補生、事情が事情だから今日中に手紙で親御さんに一応報告しなさいね」

「はい……分かりました」


 その後アレクシア教官からは拳銃所持の件は、ベアトリクスから事を荒立てない様にと話がきたみたいで不問にされた。

 例の刺客はヨハン教官が裏で調査するとの事、憲兵出身だから得意分野だと彼自身から申し出たらしい。

 そして一連の話が済むと、アレクシア教官はラインハルトの頬を平手打ちした。

 その突然の出来事にヴィクトリアは驚いた。


「シュヴァルツ候補生。なぜ平手打ちされたか分かりますか?」

「僕が独断専行した所為で、彼女を危険な目に遭わせたからですか……」

「半分は合っています。もう半分は――」


 そう言うとアレクシア教官は二人を強く抱き締めた。


「もう半分は、もっと大人を頼りなさい。相手が逃げたから良かったものの、下手したら二人共殺されていたのよ。私たち教官は候補生を守る為なら喜んで楯になるのよ。そんなに頼りないかしら?」


 アレクシア教官の優しい言葉に、二人はただ謝った。

 それからアレクシア教官はラインハルトに頭の怪我があるから水中訓練は禁じますと言い残し医務室を出て行った。

 ヴィクトリアも両親に手紙を書かなくちゃと言い医務室を出る際、ベットに寝ているラインハルトに言葉を掛けた。


「ラインハルト。お前の勇気に感謝を。お陰で私は助かった」


 そのヴィクトリアの感謝の言葉にラインハルトは、いつもの様に締まりの無い表情で喋る。


「どう致しまして。僕も憲兵隊に感謝しなくちゃね。彼らのお陰で助かったし、おまけに可愛い女の子に膝枕までしてもらえたんだから」

「バカ。相変わらず真実味に欠ける話し方だな」


 それだけを言い残し、少しだけ頬を赤らめたヴィクトリアは医務室の扉を閉めた。

 ラインハルトは医務室の天井を見ながら溜息をついた。

 夏の休暇に故郷に帰るのはいいが、ヴィクトリアを連れて行くとなると、養父母や姉さんに何て説明したらいいか分からなかった。

 なにせ彼女は帝国の皇女殿下なのだから。

 取り敢えずラインハルトも手紙を書くことにした。色々考えてもしょうがないから、端的に女の子も一緒に行くと。

 きっと帝国の王女殿下と分かったら、ラインハルトの田舎街のことだ。街を挙げておもてなしをするに違いない。

 だから女の子だけと書いて手紙をしたためた。

 これが後に騒乱を巻き起こすと知らずに、ただラインハルトはヴィクトリアと一緒に故郷に帰るの楽しみにした。

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