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接触

 勇者達が静かに眠る森を後にした二人は、中央広場に戻ってきた。

 ゾンネ(太陽)が西の地平線に沈もうとして、街中の外灯が灯し出す。

 そして昼間の中央広場の様子が変わり、何やら出店が数多く出店している。

 ラインハルトが「行ってみる?」とヴィクトリアを誘うが、何故かヴィクトリアはあまり乗り気では無かった。


「へぇ、お祭りかな?」

「たぶんな。その……再来月の慰霊祭の前に、戦勝記念日があるからな……」

「戦勝記念日?」


 ラインハルトの疑問にヴィクトリアは言い難いのか、言葉を詰まらせながら言う。


「その……あれだ、来月の七月は十年前、四季国との戦いに勝った日なんだ」

「あ、そっか……」


 十年前の四季国と帝国の戦争。

 結果は歴史的電撃作戦を慣行した帝国の一方的な勝利に終わった。

 首都を無血占領し、犠牲は少なかったと言われるが、その少ない犠牲の中にはラインハルトの両親も含まれている。

 ヴィクトリアはラインハルトの顔を恐る恐る伺った。

 云わばラインハルトの人生を壊しておきながら、それを祝っている様に見えてしまうだろう。


「その……許して欲しい、ラインハルト。お前の両親を亡くした出来事を祝うなんて、普通に考えても愉快な話じゃないのは私でも分かる。それに怒って当然だ」


 申し訳無さそうな表情を浮かべて謝るヴィクトリア。

 出店では無邪気に遊ぶ子供達、仲の良い男女が楽しんでいる姿。

 そんなところを見ていれば不愉快な気分になって当然だとヴィクトリアは思ったのだ。


「確かに余り愉快な光景では無いね。でもヴィッキーが謝る必要は無いんだよ。悪いのは戦争で、戦争が両親を殺したんだから。それに連邦の口車に騙された四季国も悪いんだから。まだ幼かった君には何の罪も無いから、だから大丈夫。僕らも普通にお祭りを楽しもうよ? ヴィッキー」


 ヴィクトリアに手を差し出すラインハルト。

 その表情はいつもの締まりの無い顔と違い、何処かぎこちなく取り繕っている表情だ。

 そしてヴィクトリアも気付かない振りをして彼の手を取る。


「分かった。お前が言うなら私は何も言わずに祭りを楽しもう。射的で勝負するか? 負けたら何か奢るんだ」

「いいねぇ。でも射的なら僕が勝っちゃうよ?」


 士官学校の射撃の成績はラインハルトがトップを独走して、ヴィクトリアはずっと二番手なのだ。


「バカ、私を甘く見るな。いつまでもお前の背中を見てられるか、我らアルムルーヴェに二言は無い!」


 自信満々に応えるヴィクトリアにラインハルトも受けて立った。

 射的の出店に赴き店主にお金を払う。

 当たり前なのだが、射的のライフルは実戦で使うライフルよりもずっと軽く出来ている。

 空気銃の為にゴムの弾を銃口の先端に押し込んで、後はポンプアクションの要領で空気を送り込んで溜める。

 的はヴィクトリアの指定で三段に景品が並ぶ中の中段真ん中にある獅子の人形だ。


「獅子の人形かぁ。君に弾を当てるみたいで気が引けるな」

「バカ。あれは人形であって私では無いからな。だが間違っても日頃の恨みを人形にぶつけるなよ」

「え~矛盾……」


 先攻のヴィクトリアが射的台のテーブルに少し屈むように腕を置く。後ろから見ていているとラインハルトはヴィクトリアに校門で会った時に感じた疑問の一つに気付いた。

 平時における士官学校の女性候補生はスカートを履いているのだが、規則によりスカートは膝が隠れないくらいと決まっているのだが、明らかにヴィクトリアのスカート丈が短い。

 しかも角度によっては下着が見えて仕舞いかねない。

 ただでさえヴィクトリアは人目を惹く容姿をしているから、彼女の背後には男性が瞬間を狙っている。

 それを知ってか知らぬのかヴィクトリアは無邪気に的を狙っているし、背後にいる獣達も狙っている。

 仕方なくラインハルトは彼女の背後に回り込み、見えない様にガードした。しかも然り気無く腰に忍ばせた拳銃を見せつけて。

 お陰で獣が居なくなったが、お楽しみのシーンを見逃してしまった。

 気付いた時にはヴィクトリアは終わっていて、ラインハルトの番になっていた。


「ラインハルト。間違っても人形に当てるなよ。特に顔にな」

「それだと勝負にならないんだけど……」


 獅子の人形は自分ではないと言いながら、あれは自分の分身みたく言われて困ってしまう。

 取るべき道はただ一つと思い引き金を引く。

 発射されたゴム弾は獅子の人形の真横に置かれている猫の人形に当たる。しかも頭に当たった瞬間に横からの視線が痛い。


「あ、猫は君達獅子とは違うからね! 大丈夫大丈夫」

「ほぉう。私の記憶が正しければ猫も獅子も同じ猫科の生き物だが? 私の記憶違いか?」

「はい、同じ猫科の生き物です。ヴィッキーにあげるから許してよ。ほら、よく見たら可愛らしい仔猫ちゃんだよ、君にそっくり――あっ!?」


 ラインハルトは獅子の狩場に入ってしまったみたいだ。

 鋭い視線を送る若獅子。

 しかも可愛らしい仔猫ちゃんと言うとヴィクトリアは大概機嫌が悪くなるが今回は違った。


「仕方ないから貰ってやる。こいつもお前みたいな飼い主では不憫だからな」


 そう言いながらヴィクトリアは、その可愛らしい仔猫ちゃんを抱き締めた。

 どうやら気に入ってもらえたみたいで、ラインハルトは命拾いした。

 そしてヴィクトリアが再び獅子の人形を狙うと同時にラインハルトは嫌な視線を感じた。

 まるで誰かに狙われている様な感じで、息が詰まる。

 辺りを見回してもお祭りを楽しむ人しか見えず、それらしき影は無い。

 おまけに子供達が爆竹で遊び、気が散ってしまう。

 そんな事は露知らずヴィクトリアは見事に獅子の人形を当てて喜んでいた。


「見たかラインハルト!? 見事撃ち抜いたぞ! これが我らアルムルーヴェの――!?」


 その瞬間、爆竹の音に紛れて何かが合わせて撃ったのにラインハルトは気付くと、喜んでいるヴィクトリアの手を引っ張った。


「ヴィッキー!」

「えっ!?」


 手を引っ張られたヴィクトリアはそのままラインハルトの胸に飛び込んだ。

 間をおかず、彼女の居た所に銃弾がすり抜け、幾つかの景品が吹き飛んだ。

 奇しくもヴィクトリアが撃ち抜いた獅子の人形は頭が吹き飛ぶ。


「ラインハルト!?」


 ラインハルトがヴィクトリアを見ると、彼女は焔の瞳を何回も瞬きして顔を赤らめていた。


「ヴィッキー走るよ!」


 そのままラインハルトはヴィクトリアの手を強く握り締めると人混みの中に走り出した。


「ラインハルト!? わ、私の景品は!?」

「そんなのほっといて! 後で好きなだけ買ってあげるから!!」

「わ、分かった!」


 妙に聞き分けがいいヴィクトリア。それが何だか調子を狂わせられるが、今は全力で人混みに飛び込んだ。

 何者かは分からないが、人混みの中にいれば簡単に手は出せないと踏んだんだ。

 片手をラインハルトに握り締められながらヴィクトリアは全力で走った。

 もちろんラインハルトから貰った可愛らしい仔猫ちゃんの人形を離さないように、もう片方の手で強く抱き締めながら二人は人混みの中に消えて行く。

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