麗しい少女の帝都案内
ヴィクトリアの案内で始まった帝都案内。
帝都に何が在るかも知らないラインハルトにヴィクトリアは呆れつつ、まずは帝都一番の名所に連れて行った。
その場所は帝都一番の豪華な建物かと思われるくらいに立派な建物だ。
白い宮殿の周りは鉄格子の壁が在り、等間隔に帝国の国旗が掲げられている。
ラインハルトが不思議に思ったのは、何故かライフルを持った帝国軍兵士がこれまた等間隔で立っているし、兵士達はヴィクトリアを見るなり敬礼している。
しかも豆粒ぐらい遠い所に立っている兵士もだ。
「凄いなぁ。大きい噴水庭園も見えるけど、誰かの家なの?」
鉄格子越しから感嘆しているラインハルトにヴィクトリアは味気なく言う。
「あぁ、私の家だ」
「へぇそうなんだ……えぇ――!?」
ラインハルトの驚きの声にヴィクトリアは耳を思わず塞いでしまう。
「声が大きいな。言っとくが、これは四大皇族みんなの家だからな。我らアルムルーヴェだけの家と思うなよ」
「それを聞いて安心したよ。君達だけで住んでいたら、本当の意味でのキャットハウスに――!?」
思わず失言しそうになり、ラインハルトは口を急いで塞いだがどうやら間に合わなかったみたいで、目の前の若獅子の顔が引き攣る。
「すまない、いまキャットハウスとかいう極めて不愉快な言葉が聞こえたが?」
「ごめんなさい! 締まりの無い僕のしまりの無い口が言いました!」
下手に言い訳してもラインハルトは敵わないと分かっているので急いで頭を下げた。
「うむ、素直で宜しい。特別に許してやる」
「はぁはぁー! 有り難き幸せ」
「バカ」
素直に謝ったのが功を奏したのか上機嫌になるヴィクトリア。
端から見ていると、まるで浮気がバレた哀れな男が必死に彼女に許してくれと懇願している様に見えてしまう。
そんな中ラインハルトが噴水庭園を指差す。
「もしかして、あの噴水庭園が例の場所?」
「あぁ、例の場所だ。思い出しただけでも腹が立つがな」
例の場所とは幼いヴィクトリアが噴水を覗き込んでいる所に、後ろから近寄って来たベアトリクスが噴水に突き飛ばして、幼い少女にトラウマを植え付けた場所だ。
「だが今となっては良い思い出だ。お前のお陰で泳げる様になって、その……感謝している」
恥ずかしそうに言うヴィクトリアにラインハルトは笑顔で応えた。
「どう致しまして。お陰で僕も真夜中のプールで、可愛らしい女の子と二人きり過ごせたからね。おまけにその可愛らしい女の子の水着も見れたから、一生分の好運を使い果たしかもしれないかな」
ラインハルトの相変わらず真実味の欠ける言い方と表情にヴィクトリアもアルムルーヴェらしく上から目線の言葉で返す。
「当たり前だ。私は帝国一麗しい少女だからな」
『傲慢にして、強欲の黄金獅子』らしく言ったが、ラインハルトからの返しで思わず頬を赤らめてしまう。
「そうだね。僕が出会った女の子の中では、確かに君は一番可愛らしいからね」
「っ!?」
締まりの無い顔と真実味に欠ける言い方で、どう捉えていいか困惑してしまうが、素直に負惜しみの一言を締まりの無い男に言い放つ。
「バカ」
その後はお昼も近くなって来た為に、帝都中央広場にある飲食店に向かった。
飲食店に向かう道中、ヴィクトリアを見る度にすれ違う子供達が敬礼している姿にラインハルトは思わず和んでしまう。
子供達に敬礼されて困惑してしまうヴィクトリアだが、恐らくアルムルーヴェの義理堅い性格の為か、律儀に返礼を返しているのだ。
本人は知らないだろうが、ヴィクトリアは案外子供に好かれやすいのかも知れない。
そんな事を飲食店のテラス席に座りながら、ラインハルトは思い出し笑いをしていたら、目の前に座るヴィクトリアに怪訝な顔をされる。
「何がそんなに可笑しいんだ?」
「別に。案外、君は子供に好かれやすいんだなと思っただけだよ。きっと将来は良い母親になるよ。きっとね」
ラインハルトはテーブルに在る注文したオラーンジェを飲みながら言うと若獅子は照れた顔を隠す様に自らが注文した同じオラーンジェを飲みながらアルムルーヴェらしく返した。
「良い母親になる前に、良い皇帝になるがな」
「そうだったね。君は良い皇帝と良い母親両方に成りたい欲張り屋さんだったね。正しく君ら一族を体現する言葉。傲慢にして強欲のアルムルーヴェらしいよ」
「黙れバカ」
ラインハルトはヴィクトリアに罵られながら、彼女のオラーンジェが無くなりそうになると、店員さんに追加を頼んだ。
「酷いな、ヴィッキー。僕は褒めたのに」
「黙れと言ったら黙れ。お前の真実味に欠ける話し方は褒められている気分にならないからな」
そう言うとヴィクトリアは追加で持って来たオラーンジェを飲み、そしてラインハルトの奢りのパフェに満足気に口に運ぶ。
ラインハルトはヴィクトリアの味覚は相変わらず可愛らしい仔猫ちゃん時代のままだと思った。
この飲食店は若い子に人気らしく、来店客はみんな二人よりも少しばかり大人だ。
しかもこの飲食店は紅茶とケーキが有名らしく、大概のお客はそのメニューを頼む。
そんな中でのオラーンジェはちょっと子供っぽいと思ったのか、ヴィクトリアがメニュー表を見ながら睨めっこしているとラインハルトが気を利かして自分の分のオラーンジェも頼んだのだ。
それにケーキと例のパフェもだ。
注文した際に女性の店員さんが微かに笑いながら伝票を置いて行った。
きっと見た目に反して子供っぽいと笑ったのだろうが、ラインハルトの目の前に座る少女が帝国の王女殿下と知ればそんな気は失せるだろうが、ヴィクトリアはそんな事は望まないとラインハルトは分かっていた。
口には出さず黙って出されたケーキを食べようとしたら目の前から羨望の眼差しが放たれる。
ラインハルトが食べようとしたケーキを焔の瞳を輝かせながらヴィクトリアが見ていた。
「えっと……良かったら食べる?」
「いいのか!?」
まるでご飯を待つ猫の様の様な眼差しを向けられたらラインハルトは断れなかった。
「いいよ。なんだったら全部食べてもいいからね」
「感謝する。私だけ食べるのは悪いから、お前もパフェを食べるか?」
ヴィクトリアが半分ぐらい食べたパフェを差し出してきた。
「貰おうかな。君に全部食べさせたら流石に太るから協力するよ」
「黙れバカ。だいたい同じ物を同じ量分食べたら、お前も太るぞ」
「じゃあ君にも協力してもらわないとね。食べ過ぎて太るのは余り愉快な話じゃないからね」
「そうするがよい」
そうして二人はケーキを半分に分けて取り合った。ラインハルトはパフェを食べる量を少しだけにしといた。
何故なら全部食べようとスプーンを進ませる度にヴィクトリアの表情がなんとも言えない表情になり、まるで本当に全部食べるのか?という視線を向けるのだ。
その重圧感に堪えられずラインハルトはパフェを持ち主に返した。




