三人目の正体
「いや~、トイレも綺麗だったな。……どうしたんだ?」
ロボをトイレに連れて行って戻ると、応接間は静かになってた。
ジョニーさんと死神さんの話終わったのかね?
「アンタが噂の、引きこもりプレイヤーだったとはね」
「そうですけど。何か?」
どうやら話は終わったんじゃなく、こっちに飛び火したのね。
それにしても初対面なのに失礼な人だ。
「いや。もっと歪んだ性格の奴かと思ってたんでね」
「お前さ。その口の聞き方でどんだけ人生損したか、まだ分かってねえのか?」
「余計なお世話だよ!」
人を引きこもりだとか性格が歪んでるとか、思ってても言うべきじゃないだろうに。
ジョニーさんの知り合いじゃなきゃ、さっさとこの場から出て行きたいくらいだ。
「何か話してたの?」
「彼女の船を、海中から引き揚げて欲しいそうです」
あまりに失礼な人に返す言葉がなく黙ってると、ジョニーさんが再び口を挟み口論を再開する。
オレは居ない間の話をエル達に聞くけど、まさか頼み事をしようとしていたとは思わなかった。
エル達もろくな頼まれ方をしなかったのだろう。
表情が険しく明らかに不愉快そうだ。
「いくら出せば、引き揚げてくれるんだい?」
「すいません。他当たって下さい。私は貴女のこと知りませんし、こんな人が大勢居る場所で、ペラペラと人の秘密を話す人と関わり合いたくありません」
この人、見た目は二十代半ばだけど中身は学生か?
オレは長いものには巻かれるタイプだし、困ってるなら助けたいとは思うけど、こんな中身の人に戦闘タイプの宇宙船なんて渡せる訳ないじゃないか。
「……ぐすん」
「あー、アレックス。悪い。こいつのことは謝るよ。勘弁してくれ。こいつはオレと同じ孤児院を出たばっかのガキでな」
「ほら。お前も泣くくらいなら、そんな口の聞き方するんじゃねえっつうの」
あれ? 気の強そうな死神さん、あっさり泣いちゃった。
なんで? まるでオレが悪いみたいな感じになるの?
ジョニーさんはオレに申し訳無さげに謝りながらも、死神さんを慰めてる。
見た目で年齢分からないから、VRゲームってプレイヤーと絡むの面倒だったんだよね。本当。
「だって、私の船。やっと買ったのに。ジョニーと一緒に遊ぶ為にやっと買ったのに……」
あかん。見た目と中身がまるで違う。
無理にキャラ作ってたんだね。
周りを見るとマルク君は、何処まで事情を知ってるか知らないけどポーカーフェイスだ。
エル達は素直に驚いていて、お嬢様達と村のみんなはポカーンとしてる。
「なあ。頼まれてくれねえか? 責任はオレが持つからよ」
「ジョニーさんがそこまで言うんでしたら、構いませんけど。どんな船か知りませんが危険ですよ。いろいろと」
「ああ。分かってる。マルク。すまんが今聞いた話は忘れてくれねえか? こっちも少し事情があってな」
「はい。忘れます。しかし驚きましたよ。ヒルダさんが泣くなんて」
ジョニーさんって本当、どんなリアルを送ってたのか気になる。
マナー違反になるし、人の過去なんて聞く気はないけどさ。
なんとなく、また面倒な人が増えた気がするのは、気のせいだろうか。
オレのほのぼの異世界ライフが、また一歩遠ざかったかもしれない。




