死神さんとマルク君
死神さんはジョニーさんの胸で泣き止むことなく、人目も憚らずにわんわんと泣いている。
緊張の糸が切れたんだろうね。
見知らぬ世界に、突然本来の自分ではないアバターで放り出されたら、そりゃ十代の女の子だと虚勢を張りたくもなるよね。
ちょっと可哀想なことしちゃったよ。
「ジョニーさん。それから皆さんも聞いてください。僕の御先祖様も異邦人です。『ゲーム』という現実ではない空間から、この世界に飛ばされて来たと伝わってます」
そのまま微妙な空気が部屋を支配する中、突然語りだしたのはマルク君だった。
「御先祖様は異世界の知識や経験から商売を始めて、今のイースター商会を築きました。その御先祖様の遺言なんです。後に続く異邦人を見つけたら、助けになってやれと」
死神さんはマルク君の家の船に助けられてから、商会の手伝いをしながらマルク君の家に世話になっていたみたい。
本人には言わなかったらしいが、御先祖様の話と通じる部分があり、死神さんが異邦人だとすぐに見抜いていたんだって。
異邦人の苦労話は御先祖様の実話として伝わってるマルク君の家族は、深い事情も聞かずに死神さんに仕事の手伝いを頼み、居にくくならないように配慮しながら家に置いていたようだ。
「父が言ってたんですよ。ヒルダさんは無理をして、虚勢を張ってるんだろうって。流石に泣くとは思いませんでしたし、僕自身は半信半疑だったんですけどね。でもヒルダさんが大切な人に会えて、本当に良かったです」
でもマルク君。凄いね。
自ら自分の家の秘密や事情を明かすことで、自分はオレ達の秘密を守ると約束したようなものだ。
こういう細かな気遣いは、本当なかなか出来るもんじゃない。
「実は御先祖様は、生きてる間に仲間を探したみたいですけど、会えなかったそうなんです。後年仲間の息子を見つけた際には、生きてる間に会えなくて本当に悲しんだと伝わってますから。御先祖様もきっと喜んでくれてると思うと、僕も嬉しいです」
オレはエル達が居たし、ジョニーさんにも比較的早く会えた。
だけどもし一人だったらと思うと、ぞっとするね。
この広い世界で居るか居ないか分からない、仲間を探すなんてオレには無理だろうな。
「死神ヒルダの中身が子供だったなんてね」
「ジュリアも知ってたのか」
「有名人だからね。知らなかった司令が不思議だよ」
エルやジュリアはもう不愉快そうな表情をしてなかった。
思えば可哀想な子だからね。
知らなかったのが不思議だって言われてもね?
掲示板は一時期悪口を書かれてから見なくなったし、プレイヤーと関わる気なんてなかったから噂も聞き流していたくらいだしさ。
「それにしてもジョニーさん。リアルでもモテモテだったんですね?」
「こいつはそんなんじゃねえよ」
「……ちょっと待って。リアルでも?」
何かと謎の多いジョニーさんが、リアルで顔見知りの女の子に好かれてる姿を見て、益々謎が深まったけど。
オレの言葉に泣いていた死神さんの泣き声が止んだ。
「そりゃ勇者様なんだからモテるよね。ジョニーは」
「ジョニー。……私が苦労してる時に貴方、女の子とイチャイチャしてたの?」
どうやらオレはまた死神さんの地雷を踏んだみたいで、ジョニーさんが困った顔をしたけど、そこでニヤニヤと笑顔のジュリアがわざわざ燃料を投入するような事言っちゃうし。
「ちょっと待て! 誤解だ! 恵美。誤解だ!」
「アタシは死神よ。死神ヒルダ。恵美なんて名前じゃない。ジョニー。勝負よ!」
「ジョニーさん。ヒルダさん。勝負は外でお願いしますね」
今泣いた何とかが、もう元気になったよ。
死神さんは怒りの表情でジョニーさんに勝負だと詰め寄ってる。
マルク君も今度は助ける気ないみたい。
ん? 今度はブランカがトイレか。
よしよし。連れて行ってやろう。
君子危うきに近寄らずってね。
夫婦喧嘩犬も食わないの方が適切かもしれないけど。




