第八話「上位存在機構御一行様忘年会」
突然だが、皆様は「メタフィクション」という概念をご存知だろうか。この世界は誰かが作った物語であり、自分は登場人物に過ぎない…といった具合だ。
例えば私を例に挙げるとするなら「タケウチがビームを出せるようになった。」と「作者」が定めればビームを出せるようになるし、逆もまた然りである。
カフェ「狛犬」でバイトをしている私とクミは、業務カレンダーに「上位存在機構御一行様忘年会のため貸切」と書かれた日にシフトが入っていた。
上位存在ってなんだよ。とクミに悪態をつく私。怪異に妖怪に神様に宇宙人まで見てきたが、上位存在となると話が変わる。もはや陰謀論である。
「えーっとね、上位存在ってのはね…。」
メモをパラパラとめくるクミ。
上位存在。レイヤーを隔てた存在。
下位の物語世界へ介入可能な存在を便宜上まとめてそう呼んでいるだけ。そのため一口に上位存在といえどもさまざまな種族がいる。とクミは言うが…。
結局のところ何もまとまってないじゃないか。物語世界ってなんだ。レイヤーってなんだ。謎がまた増えたが。
「要するに私が漫画を描くでしょ?」
ほうほう。
「その漫画の登場人物から見た私のポジションが上位存在ってわけ。」
言いたいことは大体わかる。しかしそれを言ってしまえばどんな努力も無意味であり、私たちは決まったレールの上を進み続けていることになってしまうのではないだろうか。
「…とにかく!そういう人たちが来るからバイト頑張るよ!」
本当にいるのか?そもそもなぜ来れるんだ。レイヤーが違うんだろう?私は色々言いたいことがあったが、背中にホッカイロを大量に貼ったクミの勢いには勝てなかった。
カフェ「狛犬」。
「いらっしゃいませ。」
相変わらずホールは私一人である。クミの担当はキッチン。
『失礼しますよ』
ぞろぞろと変な頭の形をした人型の実体が来店してくる。こんなのが本当に上位存在なのか…?と思っていたが私は無意識に怪訝な顔をしていたようだ。
『「こんなのが本当に上位存在なのか…?」って思ってますね?』
『やめなさい。彼女怖がるでしょ?』
お席に案内させていただきます、とメニューを差し出し奥の広めの席に座ってもらう。
『コイツが間違えて居酒屋じゃなくてカフェ取っちゃったんですよ。』
と笑いながら指差すふとっちょの上位存在。
横のお調子者の上位存在はやっちまったと笑っている。
私は色んな疑問がくるくると脳裏をよぎり、不安になってしまった。
「店長。」
「はぁい。」
ニコニコしながら店長は答える。
「上位存在ってなんなんですか?私たちは書かれた台本を読んでるだけなんですか?あの人たちが作ったシナリオを演じてるだけなんですか?」
「本人たちに直接聞いたほうが早いわね〜…。」
これまたニコニコと呑気なことを言っている店長だ。上等だ。聞いてやろうじゃないか。
「すみません。」
『まだ呼んでないですけど…。もしかして注文ボタン押しちゃいました?』
『やっぱお前やったろ〜!』
『押してないですよ〜!!子どもじゃないんですから!』
上位存在たちが戯れている。まるで休日の学生のようだ。
「あなたたち上位存在について教えて欲しいんです。」
彼らの話によると。
我々は上位存在機構という組織の職員で、沢山の物語を管理している。物語内の問題には基本的に関与せず、物語を厳重に改変しないようにマニュアルが組まれていたり介入許可証があったりするとのことだ。
しかし、物語を超えた上位存在たちのいる次元で物語によるエネルギー枯渇や排出物過多の問題が起きていて、それを何とかするために介入せざるを得ないという話だ。
なお、今回介入したのはシンプルに平和な物語を見学したいという名目で介入許可証を発行してもらったらしい。やってることは忘年会なのだがいいのだろうか。
『つまり。アンタの物語はアンタが決めるの。』
上位存在の一人が薬指の指輪を光らせながら左手でタケウチを指差す。
『そうです。何があっても乗り越えるって意思があれば私たちは応援しますよ!見守ることしかできませんがね!』
眼鏡のようなものをかけた上位存在は心なしか微笑んでいるような気がした。
じゃあ、私が質問していることすらも想定内なんですか?と言うよりも前に一人の上位存在が口を開く。
『違うよ。たまたま俺に心を読む能力があるだけ。運命なんて誰にも決められないのさ。』
『だからそれやめなさいって。怖いから。』
「それも…『シナリオ』なんじゃないんですか…。励ますのも。私の考えも。」
私らしくない弱気な声で呟いた。私の合理性が揺らいでしまうのが怖いのだろう。
『さぁ?それは私たちにも分からないわ。言っとくけど私たちはあなたより少し階層が上の「お姉さん」なだけ。全知全能なわけじゃないもの。』
指輪をつけた上位存在のグニャグニャ動く頭の向こうには、少し、物思いにふけるような目線が見えるような気がした。
『だから知らないことは知らないよ、あ、あとコーヒーゼリーおかわりお願いします!』
そしてふとっちょの上位存在はコーヒーゼリーをよく食べる。これで5杯目だ。
『ご来店ありがとうございました、また是非来てください!』
私は不思議な頭の形をした上位存在機構の職員さんたちを見送ると、一抹の不安を「アンタの物語はアンタが決めるの。」という言葉でかき消して締め作業をするのだった。




