第六話「夜伽 ―腕―」
今回は猿の手の輸送任務だ。夜伽にとって輸送任務など容易い。
猿の手。猿の手の木乃伊であり、物事を歪んだ形で叶える不可思議物品である。
従者など沢山いるのだからわざわざ私に輸送させなくてもいいのに…。
くよくよ考えながら本部から関東支部へ行く道である花崎高校2階の廊下を渡る。
人間界を通ることに危険性があるから私に輸送させたのか?それとも私が人間界を歩くことに意味があるのか?
そもそも「長」は私に何をさせたいのだろうか。
うーむ。わからぬ。
武力衝突が起きるほどこの猿の手は重要なものなのだろうか。願望を叶える不可思議物品ならば沢山ある。異国の地には「聖杯」と呼ばれるものや「こすもぷりずむ」と呼ばれるものも存在する。
要するに、だ。歪んだ形で叶える出来損ないの願望器である猿の手程度で忍法の使い手、暗殺者である私を駆り出すなど「もったいない」のではないか?
コツ、コツ、コツ。
何奴。と思い振り向くとあの時の面妖な絡繰人間が半透明の粘性人間を連れてぎらぎらとした目でこちらを見ていた。
「よう、また会ったな。」
ーーーーー
「今日のオカルト研究会の活動はこれ!」
クミが勢いよくホワイトボードをひっくり返し、転びそうになっている。
「ケース28、廊下に現れる口裂け女…か。」
どんだけうちの学校の廊下には怪異が押し寄せているんだ。というか口裂け女は普通路地裏に出てくるものだろう。
「花崎高校オカルト研究会百八十不思議は廊下だけで60以上あるからね〜。」
笑いながらメモをパラパラと見せてくるクミ。メモを見ると、特に2階の廊下に集中しているのが気になる。何か相関があるのではないか?そういえばこっくりさんが消えたのも2階の廊下だったような…。
「とにかく!今日は2階の廊下の口裂け女を調査しにいきましょ〜!そうと決まったら今晩も学校に集合だ〜!」
なんでこんなにクミは明るいんだ…?と思ったがそろそろ夏。気温が高くなりテンションも上がっているのだろう。
スライム人間は温度によって性格が変わる。ってのはどうやら本当みたいだ。
深夜。
伝承からすると口裂け女は近距離型の敵性実体。武力制圧を視野に入れ、距離を取り遠距離攻撃をする使い慣れたデフォルトボディで行こうか。
クミを背負ってエアロジャンプでやすやすと校門を飛び越える。
深夜の学校でわちゃわちゃするのはもはや慣れてしまった。今更真っ暗な廊下など…。
「ギャー!!」
「どうした!」
クミが叫ぶ。まさか口裂け女を発見したのか…?
「ヘビ!ヘビ!!」
なあんだ、理科室のヘビのホルマリン漬けじゃないか。そんなの昼の学校にもあるだろう。
と、廊下を進んでいると見慣れた黒い忍者の影が見える。
「何奴。」
夜伽がこちらを睨む。軽量ボディを取りに帰っている余裕はない。
「よう、また会ったな。」
ハッタリをかましつつ、どうクミを逃がしながら防衛戦に持ち込むかを考えていた。
目くらましを兼ねた改良型催涙ガスで視界をくらませているうちに、クミをドローンに乗せる。
私の勝利条件は…。クミの安全と己のボディを鹵獲されずに退散すること。相手をぶちのめすことではない。
ガスが晴れる前に相手の脇腹に拳…と見せかけてマニガトリングを展開、ゼロ距離射撃をする。
「貴様も人間の領域を超えたかッ!」
夜伽は変わり身の術で避けるがマニガトリング自体は本命ではない。必殺技の「盟神太刀」をぶち込めれば私は制圧できる。相手は人型実体。腱の位置を的確に捉えて徳を変換した「正しさ」エネルギーで加熱した刃で焼き切る。
「食らえ!『盟神太…。」
「盟神太刀」の「正しさ」エネルギーが止まった。「私より相手の方が正しい」と「盟神太刀」は判断したのだろう。これだから不安定な兵装に頼るのは嫌だったんだ。
カタッ
「これ何?」
クミが夜伽の持っていた箱に触る。
「クミ!不用意に触るな!」
「貴様らァッ!これが狙いかァッ!!」
夜伽は激昂し、クミの元へ走る。
中から零れ落ちたのは猿の手のミイラ。願いをいびつな形で叶える願望機か。
もしかして「相手の目的は怪異の運搬」…?それも仮説にすぎないがまずはクミから猿の手を離さなければ。まずい。あんなオカルト好きに願望機なんて持たせたら…!
「なんでもいいからタケウチちゃんを助けて!!」
ーーーーー
オカルト。貴方は信じるだろうか。
私は信じない。この世で科学で解明できないことなどないからだ。というか解明できるものを科学と呼び、科学は日々成長を続けているのだ…。おっと、メモリの様子が悪い、クリーンアップをしなければ…。
深紅のポニーテールが風で揺れる中、私は考えていた。




