第四話「夜伽 ―尾―」
「こっくりさんこっくりさん、おいでください。」
なぜ私は高校生にもなってクミと一緒にこっくりさんなどやってるのだろうか。
十円玉を動かしたいのならばモーターでも何でもつければいい。何の意味も感じない。
「今ちょっと動いたんじゃない!?」
興奮するクミに対し私の微細な振動だと返す。だいたい紙に十円玉を乗っけて来るなんて意味不明だろう。募金箱に入れたほうがまだ有意義だ。
「今日はこっくりさん呼び出すまで帰さないからね!!」
クミがやりたいと言うから仕方なくついてきたが、こんな窓もない部室で延々とこっくりさんをやらされる羽目になるとは思ってもなかった。独房のほうがまだマシ。
「ともかくいったんコーヒーでも飲まないか?ずっと指置いてるのは疲れるんだが。」
私はカバンからアルミのタンブラーを取り出し、ここに注いでいてくれとクミに渡した。
クミは三つのマグカップの中からピンクのカップを選び取ると、ゆっくりコーヒーを淹れる。
私たちはコーヒーに夢中で触ってもないのに十円玉が動いていることにその時は気づかなかった。
すっかりこっくりさんのことを忘れ2人で談笑してる私とクミ。そうこうしてると…。
ガタガタガタガタガタ。
十円玉が急に震え始めた。
「ねえ!これって…!!」
「まさか。」
呼び出すだけ呼び出して放置されたこっくりさんが激怒したのだろうか。しかし相手は十円玉と紙。私の体内溶鉱炉で一発である。あっという間に溶けてしまった。
「…ら…。…えら…。」
何やらボソボソと声が聞こえる。
「お前らー!!!!!!!」
「わー!!!!!!」
叫ぶ声よりもクミの声の方が大きくてそっちにびっくりしてしまった。叫ばれたときに叫び返すんじゃないよ。
叫ぶ声の方向を見ると狐の獣人と真っ黒な忍者が立っている。
未知なる実体に出会った場合。まず取るべき行動は距離を取りいつでも攻撃できる状況にすること。
クミの首根っこを掴んでこちらに引き寄せ、直したてほやほやの左腕でレールガンを構える。
「高校生にもなってわらわで遊ぶなー!!十円玉や紙を…どうしたのじゃ…!?ともかく!どっかやるなー!!」
獣人が困惑しながら怒っている。この場合敵性実体と判断するのが正しいか…?それとも対話可能か…?
「どうか落ち着いてください。そして…。」
黒い忍者が獣人をかばうように前に立つ。
「相手は飛び道具…。腕に吹矢のようなものを持っています。ご警戒を。」
忍者が刀に手をかけた途端、私の取っていたはずの間合いはとうに詰められ、目の前にはキラリと輝く刀身が迫っていた。
「クミ、あの忍者は危険だ。逃げるぞ。」
「えーっ!?」
クミを抱えてまたもや深夜の学校の廊下を走る。これで何回目だろうか。
首を180°回転させ後ろを見る。忍者は廊下に溶け込んで視認しづらい。
まずは落ち着いて催涙スプレー。難なくかわされる。やっぱダメか。クマにも効くってのに怪異相手じゃ効かないのか…。
手裏剣が飛んでくる。電磁パルスバリアで守るも相変わらずバッテリーが切れそうだ。電磁パルスバリアはバッテリー消費が激しいからあまり使いたくないのだが…。
今日は変換アダプターを持ってきたから安心。だが使っている場合ではない。
「ダメじゃん!」
クミがツッコミを入れる。そんなこと言ったって仕方ないでしょうが!
粘着ネットを発射。素早い奴にはこれ…のハズなのだが軌道を読めるのか躱されてしまった。天井や壁を走る奴に当てろってのがそもそも無理な話かもしれない。
レールガンも当たらない。ミサイルは校内じゃ使えない。学校をぶっ壊したら流石に問題になる。オカルト研究会が潰されちゃクミも悲しむだろう。
「なんと面妖な身体を。しかしこれまでのようで。」
忍者はタケウチの首元に刃を当てる。もはやこれまでか。いや、神様仏様クミ様何とかしてくれ!!稀代の大天才がこんな死に方なんて嫌だ!!
「もういいではないか、夜伽。お主の任務はわらわの護衛。殺害を命じた覚えはない筈。」
狐の獣人がもふもふとした尻尾を振り、笑いながら顔を扇であおぐ。
「左様にございますか。」
夜伽と呼ばれた忍者は刀を下ろし、狐の獣人のそばに瞬時に駆け寄る。二人して共に廊下の向こうへ消えていくのだった。
「アレは何だったんだ…?」
刀の冷たさが残る喉元の感覚を後にして、少し安堵する。もうこっくりさんはしない。と心に決めたのだった。
ーーーーー
「任務成功。矢文を飛ばすのが習わしとなっております故構いませぬね?」
夜伽、こと私は怪異連合関東支部から本部へと矢文を書く。
「無論。お主はよくやってくれたの。報酬は弾ませてもらう。」
今回の顧客、狐狗狸女史は尾を振りながら柔和な表情をしている。
任務は狐狗狸女史の関東支部への護衛。本部から関東支部へ移動する際にたまたま面妖な絡繰人間らに呼び出されてしまったようである。
「あの絡繰人間…。面妖としか言いようがない…。仕組まれた暗器の数もとんでもない。奴は何者だ…?」
予想外の出来事であったものの、制圧可能な対象であったことには感謝しかない。いくら絡繰人間といえど、ただの人間。忍術を極め「長」から力を賜っている私には到底及ばない。が。
「もう一人は…。うっ…!」
頭に激痛が走る。「長」から貰った痛み止めの漢方を飲み、夜伽は拠点へと戻るのだった。
ーーーーー
「こっくりさんこっくりさん、おいでください。」
小学生は今日も十円玉と紙で遊んでいる。
「は」「い」
「動いた〜!」
「田中ちゃんに好きな子っていますか?」
「し」「ら」「ぬ」
小学生はワーキャー騒いでいる。
「本当にこれでよかったのですか?」
透明化した夜伽が狐狗狸女史に尋ねる。
「なに。出雲より武蔵の方が人の気配が多くての。夢は神社を建ててもらって『まいほおむらいふ』じゃ!」
「いつになるのでしょうかね。」
普段は笑わない夜伽が珍しく呆れて笑っていた。




