第二話「レッツゴーアルバイト」
忘れる前に一括投稿です。
オカルト研究会に入ってから何やら調子がおかしい。いや、元からおかしかったのだろう。たぶんこっちが「正しい世界」だ。
ひょっとこやおたふくのお面をかぶって小槌を持つ幼稚園児や、車道を船でドライブする七福神が見えるようになってしまった。
「タケウチさーん!!」
その筆頭がクミである。この前の桜の一件から、彼女の姿が半透明のまるでスライム人間に見える。本人曰く、普通の人には普通の人間に見えるように調整してもらっていたらしい。つまりその対象から外れた結果がこれだそうだ。
「じゃああれも?」
左折する七福神を指さす私。
「神様にあれとか失礼じゃないですか?」
クミ曰く普通の人にはキャンピングカーに見えているそう。意味がわからない。
「で!ですよ!」
クミがニコニコでアルバイトのチラシの山を持ってきた。
「オカルト研究会の活動費…足りなくってぇ…。」
「手伝えってことか…。」
私は頭を抱えた。
ちょうどいい。TVアニメ「みゅーてぃープリティ」10周年記念ブルーレイを買うお金も欲しかったところだったから。
「ということで、面接しに来たのかな?」
ここは小さなカフェ、「狛犬」。クミの知り合いが店長をやっていて、小さな頃からよく遊びに行っていたそうだ。
店長はニコニコしながら履歴書を眺め、こちらを見る。
「クミちゃんのお友達ねぇ…。」
真顔になった店長に私の瞳孔、すなわちカメラのレンズをジーッと見られ、私はすっかり肩がすくんでしまった。
「わかったわ。採用。」
どう見ても犬には見えない単眼の真っ白な看板犬がスリスリと私の足にすり寄ってきた。
初日は散々だった。クミは皿を割り、私は注文を聞き間違え、クミは更に皿を割っていた。
それでも店長はニコニコしている。逆に怒らせたらどうなるんだという怖さがあるほどに。
「本当に…私たち働いてて大丈夫なんですか…?赤字とか…。」
私は恐る恐る店長に聞いてみる。
「大丈夫大丈夫。『何とかできる』から。姉がやってるBARと違ってね。」
だからその笑顔が怖いんだって…。とは口が裂けても言えなかった。
ある日。
「Dia dhuit, an bhféadfainn cappuccino a fháil, le do thoil?」
身体中に文字が書いてある真っ黄色の怪物が来店してきた。
ホールには不幸なことに私一人だけ。そもそも何語なのかも分からない。
とりあえず…。
「Could you please choose from this menu?(こちらのメニューから選んでいただけますか?)」
メニューを差し出しながら、ギリギリわかる英語で応対したのだが…。
「Freagair sa teanga a labhraítear leat—sin an riail!」と怒声をあげながら身体中を真っ赤にして帰っていってしまった。これ私が悪いの?
その後も、顔面がパイプオルガンで出来てる怪物に「音楽を1杯。」と頼まれてチップチューンを披露して大喜びされたり、透明人間に食い逃げされそうになって色々あったけど店長はずっとニコニコしながらいるだけだった。
給料日。
「えっ!?こんなに貰っていいんですか!?」
クミは目をまんまるにしている。
渡された給与明細にはとんでもない額の給料が書いてあった。
「だってこの額だと時給と勤務時間がとんでもないことに…。」
私の脳内コンピューターは伊達じゃない。時給や勤務時間くらいパパッと計算…。全て合っている。頭が痛くなってきた。
「じゃあこれで活動費に充てられるね!!」
呑気に大喜びしているクミを横目に、今日は早く帰って寝た。
次の日。
無い。あんだけあった給料が1円も無くなっている。
これでは「みゅーてぃープリティ10周年記念ブルーレイ」が買えないではないか。
クミを問い詰めたら給料2人分を全額アラブから来た行商人から変な魔術カードに使ってしまったらしい。本人曰く「これは絶対に役に立つと行商人さんに言われたんだもん!」だってさ。
私のブルーレイボックスが〜、と私は頭を抱えた。




