第一話「桜の木の下で」
初投稿なので、大目に見てもらえると助かります。
オカルト。貴方は信じるだろうか。
私は信じない。この世で科学で解明できないことなどないからだ。というか解明できるものを科学と呼び、科学は日々成長を続けているのだ…。おっと、肘の滑りが悪い、オイルを差さなければ…。
深紅のポニーテールが風で揺れる中、私は考えていた。
「タケウチさん!都市伝説って興味ありますか?」
コイツはクラスメイトのマサル。
たまーに話すくらいなんだが、あちらから話しかけてくるのは珍しい。
「都市伝説?バカバカしい。そもそも都市伝説などまやかしでありオカルトなんて存在しないんだ、わかるか?」
「いや、それがこの学校にもあるんですって!」
力説するマサルの前で、私ことタケウチはふーんと頬杖をつく。
「そこまで話したいのなら聞いてやらんでもないが」
「夜中にべちゃりべちゃりと音が鳴ったり、真っ黒な忍者が怪物と廊下を歩いてたり!」
くだらん。聞き間違いに見間違いだ。深夜の廊下の視認性は著しく低く、真っ黒な忍者など判断できるわけがないだろう。
「そして!校庭の桜の木の下で0時ちょうどに告白すると必ず成功するって都市伝説があるんですよ!!」
全くバカバカしい。この世に絶対成功することなどないことは明白である。ましてや人の脳などまだブラックボックス。相手の感情をコントロールするなど信じられない…。
が。
好奇心を捨てたら技術者として終わりである。
私が身体を改造したのも好奇心と反骨心からだ。
当時、ピアスを開けて叱られた時の話になる。
ピアスを開けるのは校則違反であり、先生にガミガミと注意された。ではソイツは次の日私が全身サイボーグにしてきたらどう反応するのだろうか?私は好奇心と集中力と技術力を全ツッパし、次の日先生にめちゃめちゃ叱られた。校則違反ではないのに。
てなわけでサイボーグになった私に怖いものなどない。いざ何かあったら私がすべて破壊すればいいのだから。力は偉大である。
「で、私は何をすればいい?告白の相手になればいいのか?」
「さすがタケウチさん!話が早い!」
マサルはそれでいいのだろうか。にしてもなぜ私なんだ。好きな子にやりなさい。
ーーーーー
23時45分。
私は閉まっている校門をマサルを背負ってエアロジャンプで軽々飛び越え、桜の木に行くことにした。
都市伝説の検証とはすなわち実験である。条件を記録し、再現性のあるものにしなければならない。
今の気温は20℃、少し肌寒い程度である。天気は晴れ、位置は北緯…。
マサルは何やらモジモジしている。そんなに検証が楽しみなのだろうか。もっと冷静になるべきであろう。
0時丁度。
「タケウチさん!付き合ってください!」
マサルが顔を真っ赤にしながらラブレターを差し出してくる。小道具まで用意してくるとは優秀である。まるで私のことが好きであるかのようだ。
しかしそれにしても微塵も恋愛感情が湧かない。やはり都市伝説は都市伝説といったところか。
…ここで断ったらどうなるんだ?
「えーっと…ごめんなさい」
マサルの表情がどんどん青ざめていく。もしかして私のこと本気で好きだったのだろうか…?それなら悪いことをしたな…。あとで謝っておこう…。
いや、この青ざめ方は普通ではない。肌の表面の質感が木の表面のようにゴワゴワしていく。皮膚の毛がどんどん伸びてゆく。そして私のメモリ占有率がだんだんと減っていくのを感じる。これはもしかしてマサルのデータなのではないか。なるほど。こういうカラクリかと推察してみる。「失敗したら存在自体が記憶から消えるから100%」。こうである可能性がある。
私はマサルのデータをゴミ箱からリサイクルするプログラムを瞬時に生成した後、何かモゴモゴと喋っているマサルの安否を確認しに行く。
そう思って振り返ると、顔面が木のうろに置き換わった狼男のような、爪の長い毛むくじゃらの何かがこちらを見て咆哮している。それがマサルであることを理解するのに数フレームもかからなかった。
咆哮。それは敵や獲物を見つけたときにすることの多い行動である。そのため今回の狼男は敵性実体と仮定しよう。
未知なる敵性実体に遭遇した際、取るべきパターンは何か。それはまず距離を取り観察することである。
距離を詰めることは攻撃を直に食らうことになる。逆に先制攻撃をすることは相手に手の内を晒すと同時にもし敵性実体でなかった場合に大惨事だ。
よって…。まずは一歩一歩後ずさりする。クマへの対処法を知っているだろうか。後ろを向いて一目散に逃げると刺激してしまい、襲い掛かられる確率が高くなる。それと同じである。
とかやってるのは悠長だった。
一目散にこちらに駆けてくるマサルだったものに申し訳ないと思いながらまずは催涙スプレーを噴射する。
どうやら効かないらしい。
これでは打つ手がない、と次に生成した火炎瓶とミサイルを発射。
すべて木のうろに吸い込まれたことを除けば生成も発射も大成功、システムオールグリーンである。つまり相手には何の意味もなかったってことだ。
爪をむき出しで襲ってくる敵性実体を睨みつつ、首から下の身体を反転させジェットパックで猛ダッシュする。どっちがバケモノだよと突っ込まれるかもしれないがそれどころではない。
日本語にはいい言葉がある。「三十六計逃げるにしかず」。死んでしまえば元も子もない。データも取れないし。
一旦撒くためにジェットパックを稼働させ距離を取り、裏門付近に隠れることに成功した。
しかしジェットパックのバッテリーの残りがもう少ない。体重を気にしてバッテリーを軽量化しなければよかった…。乙女だからとか言ってる場合じゃない。
そしてこのまま吸い込まれてジ・エンドってか?この私が?ここで終わるのか?
クソっ!こんなことなら神様でも信じときゃよかった!神様仏様なんでもいいから助けに来い!!!!
べちゃり。
なんか降ってきた。
「あーん…またダメだった〜。って!タケウチさん!?」
隣のクラスのクミだ。なんでこんな所にいるんだろうか。というか今べちゃりと降ってこなかったか?あと肌も半透明の水色になってるしどうしたんだ?
とか考えている場合ではなく。今バケモノが歩いてるから彼女も巻き込むわけには行かない。
「ねぇ!もしかしてタケウチさんも桜の木の下の噂試しに来たの!?」
何をのんびりとしているんだ。ハァ、その通りだよ、断ったらこのザマだ。何よりそんな大声出したら…。
「グオオオオオオオオオ!!!!!」
マサルだったものに気づかれたみたいだ。
あーあ、2人揃ってゲームオーバー。辞世の句でも詠むか?
「…もしかして告白、断ったの?」
断った場合は怪物になって襲ってくるってあたし特製研究メモにあるよ〜?とクミが半笑いで聞いてきた。
ん…?特製研究メモ…?なんだか使えそうじゃないか。
怪物化の解き方、と…ふむふむ。
1つ目はAM4時44分まで逃げる、か。これは現実的だが…それまで私のバッテリーが持つかどうかだ。腹が減っては戦はできぬ。学校のコンセントを使えればよかったんだが私の充電コードを全てタイプCにしたのが仇になったな。設計ミスだ。
2つ目は…キスする…?相手の顔面は木のうろだしこちらの顔面はディスプレイだぞ?キスなんてできるわけがない。ふざけてるのか?
3つ目は…現在調査中…?おい。クミ?
クミは苦笑いしている。要するに逃げるかキスするしかないってことだろう。
バキャッ。木が折れる音がする。
タイムリミットが来たみたいだ。
木のうろとディスプレイが当たっただけでキス判定になるかどうかに賭けるより残りバッテリーに賭けたほうがまだ勝ち目がある。私はクミと一緒にジェットパックなしで廊下を走る。
幸いマサルだったものは爪と木のうろは脅威だがそこまで足が速いわけでもない。ジェットパックで簡単に撒けるくらい。
「で、この状況どうしようか…?」
クミが苦笑いでこちらに視線を送ってくる。
どうするもこうするもないだろう。研究ってのは対象に向き合っていくものだ。
つまり。
どうせバッテリーが切れたらゲームオーバーなら「話の大本となる桜の木自体になにか秘密があるのでは?」という仮説に賭けてみようじゃないか。
「これ見てよ!桜の木は伝説の源。どんなものでも壊せないって性質があるんだよ!」
クミが叫ぶ。
そこはもう見た。
「別のページを見ろ。怪物の爪はどんなものでも切り裂けるって書いてあるだろ。」
クミがハッとした顔をして目を開く。
「じゃあ怪物自身に桜の木を切り裂かせたらどうなる?」
さぁ、実験の時間だ。
桜の木が折れれば元を断つことができ、爪が折れれば戦力の弱体化に繋がる。
「どちらに転んでもWin-Winってことだね!」
そういうこと。クミもよく分かってるじゃないか。
怪物は木を折りながら進んでくる。つまり「最短ルートを選んでいる」訳だ。
つまり桜の木の陰に隠れて待てば…。
マサルだったものは桜の木に爪を振り下ろす。
バチッ。
空間にグリッチが散る。
矛盾という逸話をご存知だろうか。古い中国にどんな盾でも貫ける矛と、どんな矛でも守れる盾を売っていた商人がいた。一人が「この矛で盾を貫いたらどうなるんだ?」と質問したら黙ってしまった。と言う話である。
そう。
どんなものでも壊せない木をどんなものでも壊せる爪で切り裂いたら?
同じ都市伝説の中で、どちらも嘘にせず、両方を成り立たせるとすれば。
答えはエラー。
今回の都市伝説の検証は時が戻って「なかったこと」になったみたいだ。
残ったのは私たちの記憶だけ。
「タケウチさん!都市伝説って興味ありますか?」
マサルが嬉々として、少し照れた顔をして話しかけてきた。
「少なくとも、アンタとはないかな。タイプじゃない。」
「タケウチさーん!!オカルト研究会入るって本当ですか!?」
クミがあちらで手を振っている。
オカルト。貴方は信じるだろうか。
私は…自分の目で見たなら信じるかな。
深紅のポニーテールが風で揺れる中、私は考えていた。
桜の花びらはひらひらと散っている。




