第十一話「夜伽 ―耳―」
『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理をあらはす。』
平家物語。高校の教科書でも取り上げられているとても有名な物語だ。
そして。
耳なし芳一という怪談をご存じだろうか。
芳一の平家物語の語りがあまりにもうまく、平家の霊に大人気。それにビビった芳一と住職は全身にお経を書いて見えなくしようとしたのだが、耳だけ書き忘れたため耳だけ持って帰られてしまった…。という話なのだが。
今回の調査はその耳なし芳一に登場する平家の霊がうちの学校の廊下に出るとのこと。
流石に嘘だ。これは存在を信じる信じないではない。そもそも壇ノ浦は山口県。関東にあるうちの高校に出てきてたまるかという話である。あまりにも地理的に遠すぎるのだ。
というかなんで平家の霊だとわかったんだ。インタビューしたのか?平家物語でも読ませて泣いたのか?ツッコミどころが多すぎる。
「まあタケウチちゃん、そんなかっかしないで…。」
クミもクミだ。出所の怪しい情報をそんなに鵜吞みにしてると詐欺に引っかかるぞ。
「そうですよ。あ、コーヒーいります?」
珍しくレプティリアンもいるじゃないか。愛用のアルミタンブラーをファンを回してふーふーしながら給水口に当てて一気に飲み干す。
「そういえば。レプティリアンくんいたんだ。いつも作戦会議いないから珍しい。」
そんなこと言ってやるなよクミ…。冬だから若干刺々しいのかな。
ほんわかしたいつもの作戦会議だったが、レプティリアンの一言で場が凍った。
「こうやって作戦会議してるとトキコちゃんがいた頃を思い出しますね~。」
トキコちゃん?誰だ?
ーーーーー
前回の任務のあとは散々だった。差別されている半人間が失敗したのだ。馬鹿にするのには絶好の好機であろう。何故だ。「長」による統治は完全で完璧なはずなのに。私はなぜこうなっているのだろう。しかも今回の任務は「芳一殿と平家一族のご案内」。護衛だったはずなのに案内人まで格を落とされてしまった。屈辱である。
私は何故ここまで不当な扱いを受けなければならないのだろうか。
「『長』。何故私はこの任務を担当するのでしょうか。」
「不服か?」
「長」の顔は影となっていて表情が判断できない。
「いいえ。ただ何故にこの任務を当てられたのか知りたいだけにございます。」
「我が命じた時点で運命である。理由など後から決まるものじゃ。」
これ以上詮索したら斬られる。本能で分かった私はそそくさと任務にあたるのだった。
花崎高校2階の廊下。ここは出雲の怪異連合本部から怪異連合関東支部へ向かう道である。
人間界を通ることで距離がひずみ、結果的に一番早く着くことができるといった次第だ。
歩き慣れた道なのだが、ここを通る度に頭痛がする。緩和するには「長」からもらった薬を…。
「…ちゃん!…ちゃん!!」
今のは何だ。何の記憶だ。
身に覚えのない記憶が流れ込んできて私は驚きのあまり薬をなくしてしまった。あれは「長」からの力の証。あれがなければ私は…。
「夜伽殿。出発はいつになるのでしょうか。」
芳一殿とその愛好者の平家一族がそわそわしながら待っている。
「いざ行きましょうか。」
私は本部から廊下に足を踏み出した。
ーーーーー
「なるほど。オカルト研究会には昔トキコという人が在籍していたのか。」
彼女も戦闘要員だったらしく私とポジションが似ていたらしい。
「トキコちゃんは忍法が使えたんですよ!分身とか!変わり身の術とか!いろいろです!」
レプティリアンはここぞとばかりに説明している。一方クミの表情は暗い。
「トキコちゃんの話はしないで。」
あらま。触れたらいけなさそうな空気になってしまった。
深夜。
相も変わらずいつもの通りエアロジャンプで校門を飛び越える。
なんだかトキコさんという人の話をしてからクミは元気がない。そんな態度のわりにオカルト研究会の活動にはついてくるのは不思議だが。ちなみに今回は通常ボディである。数がいるなら範囲攻撃だ。
ぶらぶら歩きながら廊下まで着く。
ベベンベンベン!!!!!!!
琵琶の音と共に、騒がしい武士のご一行が目の前にずらりと並んでいた。




