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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
冒険者編
97/111

第88話 介入

【シーン①:街】

 クラウディアとの会談に向けて、調整は進んでいた。

 

 ジュードが王国側へ連絡を回し、レオンたちはザッハ側との擦り合わせを行う。

 クラウディアから、コルデリア訪問の意向が示された。

 ザッハ自身も、会談には前向きだった。

 

 少なくとも。

 昨日までは。

 

 

 朝。

 街の空気が変わっていた。

 ざわめきが広がっている。

 人の流れが、一方向へ集まっていた。

 

「広場か」

 レオンが呟く。

「嫌な流れだね」

 ヘレナが眉をひそめた。

「祭りにしちゃ空気が悪ぃ」

 ガウィンが鼻を鳴らす。


 人波を抜ける。

 中央広場。

 演壇が組まれていた。

 

 その上に、男が一人。

 縛られている。

 恰幅のいい中年男。

 服は上等。

 しかし顔色は悪い。

 

 周囲を囲む群衆。

 半数以上がビーストマンだった。

 怒気が混ざっている。

 熱気とも違う。

 鬱積した感情が、浮き上がっていた。

 

 

 壇上にビーストマンの男が上がる。

 声を張る。

 

「こいつは、ビーストマンを安値で働かせ、不当に私腹を肥やした商人だ!」

 群衆がざわめく。

「糾弾されるべきだ!」


 歓声。

 怒号。

 罵声。

 

 縛られた商人が顔を上げた。

「ち、違う……!」

 声が震えている。

「うちは王国御用達の、まっとうな店だ!

 決して不当なことはしていない!」

 

 石が飛ぶ。

 頬を掠めた。

 

「賃金だって相場通りだ!」


 一瞬。

 空気が止まる。

 

 そして――。

「差別のある相場だ!」

 群衆の一角から声が飛ぶ。

「つまり王国は、ビーストマン差別を認めているということだ!」

 熱が広がる。

 一気に。

 

「王国こそが古い体制だ!」

「差別の象徴だ!」

「王国は敵だ!」

 怒号が重なる。

 

 

 レオンは視線を巡らせた。

 そこで見つける。

 群衆の後方。

 黒衣の男。

――バット。


 静かに立っている。

 何もしていない。

 しかし、場の流れだけが、異様に滑らかだった。

 

 

 壇上の男が、たいまつを掲げる。

「ザッハ様の温情により、こいつの命は獲らない!」

 歓声。

 

「だが、こいつの店はすべて破壊する!」

 群衆が沸く。

 

「さぁ!

 ザッハ様の意向を示すためにも、皆、たいまつを持て!」

 誰かが火を掲げる。

 別の誰かが続く。

 

「王国御用達の看板から燃やせ!」

「差別商人に炎を!」

 怒声。

 

 次の瞬間。

 火が投げ込まれた。

 

 窓が割れる。

 布が燃える。

 黒煙が上がる。

 歓声が響いた。

 

 

 レオンは目を細める。

 

 異常だった。

 だが同時に、誰か一人だけが狂っているわけでもない。

 積み重なっていた感情が、噴き出している。

 

 

 そこへ。

「なにを……」

 声が落ちた。

 群衆が割れる。

 ザッハだった。

 

 ツインテールが揺れる。

 困惑が、そのまま顔に出ていた。

「待つのだ!」


 ザッハが壇上へ飛び上がる。

 一瞬だった。

 

「なぜ店を燃やしているのだ!」

 壇上の男へ詰め寄る。

 男は言葉に詰まった。

 

 その横を。

 静かに、一人の男が歩く。

 バット。

 

 群衆の熱とは逆に、静かだった。

 

 

「ご要望の通り、店主の命は守られております」

 落ち着いた声。

「ただし、皆の差別を打倒しようという意志が、燃え上がっているのです」

 ザッハが振り向く。

 

「皆が、ザッハ様の理想のために声を上げているのです」

 ザッハが息を呑む。

 

 バットが、そっと耳打ちした。

 一瞬。

 ザッハの表情が曇る。

 

「皆が差別打倒を掲げるザッハ様のお言葉を待っております」

 静かな声だった。

「労をねぎらうお言葉を、お願いします」

「しかし……」


「さぁ」

 逃がさない。

 

 群衆の視線が、ザッハへ集まる。

 

 期待。

 熱狂。

 崇拝。

 

 

 ザッハが、ゆっくりと壇上へ立った。

 

 迷っている。

 

 無数の視線がザッハに集まる。

 

 口を開く。

 やめる。

 

 言葉を選んでいる。

 

 口を開く。

 

「皆……ご苦労様なのだ」


 一拍。

 そして。

 

 歓声が爆発した。

 

「ザッハ様!」

「差別を潰せ!」

「王国を倒せ!」

 熱狂が広場を揺らす。

 

 ザッハが目を見開く。

 

 ずれた熱狂。

 流れは止まらない。

 

 

 バットだけが静かだった。

 レオンは、その姿を見る。

 

――利用している。


 ザッハの理想を。

 怒りを。

 街を。

 構造にしている。

 

 

「この状況では、クラウディア様にお越しいただくことはできませんね」

 横で、ジュードが言った。

 渋い顔。

 しかし声は軽い。

 

 想定の範囲内だったように。

 

 レオンは顔をしかめる。

 対話へ向かっていた流れが、別の方向へ押し流されていた。

 

 もう一度、群衆を見る。

 熱狂が炎のような渦を巻いていた。

 

 

 燃え上がる炎が、煙を空へ巻き上げる。

 煙が灰色の雲に混じる。

 重い色をした雲は、彼方まで広がっていた。

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