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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
冒険者編
95/111

第86話 接触

【シーン①:宿】

 早朝。

 扉が、乱暴に開いた。

 

 乾いた音が、室内に響く。

 数人の影がなだれ込む。

 

 ビーストマンだった。

 粗雑な装備に統一感はない。

 動きは揃っている。

 しかし、兵士とも違う。

 どこかで見た動き方だった。

 

 

「動くな」

 短い声。

 囲まれている。

 出口は、塞がれた。

「我々は自警団だ。

 不審な行動を取った者がいると、告発があった」

 抑揚のない説明。

 慣れている。

 

「連行する」

 有無を言わせない。

 結論は、最初から出ている。

 先頭の男が一歩踏み込む。

 

 迷いがない。

 日常、何度も繰り返してきた手順。

 

 レオンは視線を動かさない。

 ヘレナも、動かない。

 ガウィンが小さく舌打ちする。

 

 男は止まらない。

 手順通りに進めようとする。

 

 

 一歩。

 ジュードが前に出た。

 動きは静かだった。

 

 それでも、室内の意識が一点に集まる。

「手続きに則り、特使として領主への面会を申請します」

 淡々とした声。

 感情がない。

 それでも、声が通る。

 

 男たちの動きが、止まる。

 理解が、一拍遅れる。

 

 ジュードは続ける。

 懐から、一枚の証書を取り出した。

 無造作に、掲げる。

 王国公認の紋章。

 

 空気が、止まる。

 先頭の男が証書を見る。

 もう一度、見る。

 表情が変わる。

 

「……特使?」

 声が落ちる。

 確信が持てない。

 だが、無視もできない。

 

 男は周囲に視線を流す。

 判断を求める。

 誰も答えない。

 

 沈黙が伸びる。短いはずの時間が、長い。

 

 

 先頭の男が、息を吐いた。

「……連れていく」

 言い切る。

 処理ではない。

 判断の先送り。

 形だけ、整える。

 

「領主の館だ」

 誰も異論はない。

 レオンたちは囲まれたまま、外へ出た。

 

 

 雪が、降っていた。

 街は静かなままだった。

 誰も、こちらを見ない。

 見ないように、している。

 

 

【シーン②:領主の館】

 館は静かだった。

 人の気配はある。

 にもかかわらず、音がない。

 

 整っている。

 過剰なほどに。

 

 

 廊下を歩く。

 足音だけが響く。

 案内する者は口を開かない。

 

 周囲にも気配はある。

 しかし、活気は感じられない。

 

 

 通された部屋は簡素だった。

 椅子が並ぶ。

 窓は閉じられている。

 拘束はされない。

 とはいえ、自由でもない。

 監視の気配だけが、四方に残る。

 

 

「待て」

 それだけ言って、扉が閉まった。

 誰も口を開かない。

 

 ヘレナは壁にもたれ、目を閉じている。

 ガウィンは椅子に座り、腕を組む。

 ジュードは立ったまま、動かない。

 レオンは扉を見つめる。



 足音。

 近づく。

 複数。

 止まる。

 扉が開いた。

 

 入ってきた人物を見て、レオンはわずかに目を細めた。

 小柄な体躯。

 濃い色のツインテール。


――ザッハ。


 纏う空気が、以前と違う。

 自警団の男たちが、頭を下げる。

 自然に。

 迷いなく。

 

 部屋を見渡す静かな目。

 状況を測っている。

 値踏みではない。

 確認だ。

 

 視線がヘレナへ向かう。

 ほんの一瞬。

 止まる。

 

 ヘレナは目を閉じたままだ。

 壁にもたれ、動かない。

 

 視線が移る。

 ジュードへ。

 

 

「王国から来たんだって?」

 直接的。

 

 一拍、あった。

 ジュードが進み出て、答える。

「はい、コルデリアの領主様にお会いしたく」

「なぜ?」

「連絡が途絶えておりまして。その確認のため」


「ふうん」

 短いやり取り。

 会話に芯がない。

 別のことを考えている。

 

 部屋の空気が、わずかに変わる。

 自警団の男たちの緊張が、緩む。

 手離れしたことによる安堵。

 ザッハもそれを感じている。

 

「帰っていいよ」

 男たちに向けて言う。

 男たちは幸いとばかりに従う。

 迷わない。

 

 扉が閉まる。

 四人だけになった。

――ジュードを含めれば、五人。

 

 沈黙。

 

 レオンは待つ。

 ザッハが、一歩踏み出した。

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