第85話 コルデリア
【シーン①:ギルド応接室】
クラウディアは、レオンたちを見渡す。
「四人パーティーと聞いていたのだけど」
視線をレオンに戻す。
「三人で受けるのね」
「問題ありません」
即答。
クラウディアは軽く頷く。
「同行者をつけるわ」
クラウディアが片手を上げる。
後列にいた男が前に出る。
特徴のない男だった。
音がない。
気配が薄い。
視界から、滑る。
意識しないと、消える。
「ジュードです」
男は頭を下げた。
柔らかい笑み。
記憶に残らない。
だが――印象は消えない。
ヘレナの目が細くなる。
わずかに位置をずらす。
間合いを測る動き。
警戒している。
「現地での情報整理と、私の意向を伝える補助役」
補助役。
言葉どおりには、取れない。
監視役。
レオンは何も言わない。
ヘレナも、口を開かない。
ジュードは変わらず笑っている。
何もしていない。
ただ、気が抜けない。
「準備は任せるわ」
クラウディアが立ち上がる。
早い。
時間をかけない。
「気をつけて」
最後に、それだけを残した。
扉が閉まる。
静寂。
ガウィンが息を吐く。
「面倒くせぇな」
ヘレナは何も言わない。
視線がジュードから外れない。
ジュードは笑ったまま、何も言わない。
そこにいる。
気を抜くと、気配が薄れる。
レオンは席を立つ。
「行くぞ」
誰も異論はなかった。
冒険者ギルドの外、曇天だった。
空が低い。
冬が近い。
大気が、重い。
――何かが。
見えないまま、コルデリアへ向かう。
【シーン②:道中】
道中でたいした事件はなかった。
牧歌的な景色だけが続く。
以前にコルデリアへ向かったときと、何ら変わりがない。
季節を除いて。
コルデリアは背後に東方山脈を控えた場所にある。
山おろしの風に乗って雪が街道に吹き付ける。
灰色の空が、続く。
行き交う人の数は少ない。
季節のせいか。
それとも、別の理由か。
ジュードが、旅宿でコルデリアからの商人に声をかける。
「コルデリアへ行こうと思うのですが、あちらは何か変わりありましたか」
自然に、近づく。
「何も変わりありませんよ」
商人が、一歩退く。
小さな荷馬車に山のような荷物を積んでいる。
「商売繁盛されているようですね」
商人は、一瞬言葉に詰まる。
「え?ええ、おかげさまで」
離れてゆく。
目線を合わせない。
それだけだった。
【シーン③:コルデリア】
街は平穏だった。
二年前に訪れたときと比べて、整然としている。
行き交う人は多くない。
騒々しさも抑えられている。
――整っている。
それは同時に、活気が消えていることを指していた。
ヘレナがレオンを一度見て、消えた。
レオンはジュードについて宿へ向かう。
不愛想な宿だった。
最低限の説明しか、しない。
値踏みするような視線が、残る。
深夜。
ヘレナが戻った。
「ザッハと連絡が取れない」
ヘレナの表情が暗い。
「私の名前を出しても取り次いでもらえない」
アジトは、知らない顔ばかりだったという。
「バズの名前も出したんだけどね」
たしか、二年前にいた若いビーストマンだ。
ヘレナの声が、落ちる。
「しばらく前にいなくなったらしい」
静かだった。
歓楽街が近い。
それでも、声がない。
雪がちらつき始めた。
ヘレナと入れ替わりに、ジュードの姿が消えていた。
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