第81話 拒絶
【シーン①:内部空間】
視線が合ったまま、時間だけが流れる。
ヴェリスは動かない。
浮いたまま、わずかに呼吸のような揺らぎがある。
レオンがヴェリスの手を引く。
わずかに、抵抗が消える。
足が、床に触れる。
遅れて、藍色の髪が揺れた。
「損傷は」
短く問う。
間がある。
わずかに遅れて、応答が返る。
「損傷、ナシ」
声は変わらない。
抑揚もない。以前と同じだ。
レオンは視線を外さない。
状態を確認する。
何かが噛み合っていない。
鞄から魔道具を取り出す。
帰還用の起動具。
「戻るぞ」
低く告げ、詠唱に入る。
魔道具へ魔力が満ちる。
発動の直前で、気づく。
ヴェリスの指先が、触れていない。
わずかに距離がある。
意図的に外されていた。
レオンは起動を止めた。
「……どうして?」
ヘレナの声が落ちる。
ヴェリスの視線は動かない。
ただ、こちらを見ている。
「命令、矛盾」
間を置かず、続く。
「拒否スル」
空気が張り詰める。
レオンは魔道具を下げない。
距離を詰める。
ヴェリスが下がる。
詰める。下がる。
レオンは魔道具を下げた。
思考を切り替える。
「状態確認をする」
手をヴェリスに伸ばす。
「拒否スル」
応答は即座だった。
「権限、不足。
変更確認、不可」
レオンの目が細まる。
ヴェリスは、レオンの制御下にある、はずだった。
応答が嚙み合わない。
上位の命令が存在している。
変更確認の権限が、レオンにはない。
思考が詰まる。
つまり、レオンより上の層が、差し込まれている。
――ユスティアか、ガレリウスか。
沈黙。
再度、触れようとする。
その瞬間だった。
「自己防衛、必要性ヲ確認」
ヴェリスの声質が変わる。
「抵抗、スル」
空間が歪む。
「フラムボルト・ループ……」
炎が生まれる。
ひとつではない。
連なる。増える。重なる。
――降る。
「散開!」
レオンの声より先に、ガウィンが動いている。
床を蹴り、横へ跳ぶ。
ヘレナも同時に距離を取る。
炎が叩きつけられる。
「ヴェントダート・ループ……」
続いて、風が来る。
圧縮された刃。
見えないまま、空間を裂く。
石床が削れる。
衝撃が跳ねる。
レオンは後方へ滑る。
軌道を読む。
攻撃は単調だ。
だが、抜けられない。
――数が多い。
「……ふざけてるな」
ガウィンが歯を鳴らす。
踏み込みかけて、止まる。
斬れない。
対象がヴェリスである以上、全力は出せない。
ヘレナが低く息を吐く。
「近づけない……」
防ぐことはできる。
しかし、攻め手がない。
レオンは前を見る。
ヴェリスは動いていない。
その場から、一歩も。
ただ、攻撃だけが放たれる。
単純な魔法ゆえ、詠唱が短い。
無駄がない。
止める手段がない。
踏み込めない。
そのとき、空気が変わった。
圧が落ちる。
炎が途切れる。
風が止む。
レオンは視線を動かす。
そこに、立っていた。
「やれやれ」
軽い声だった。
ガレリウスが、笑っていた。
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