↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
冒険者編
88/111

第80話 収蔵

【シーン①:侵入】

 海だった。

 見渡す限り、何もない。


 波は穏やかだ。

 風も弱い。

 船がゆっくりと揺れている。



 ヘレナが地図を見下ろす。

 指先は一点で止まっている。


「ここで合ってる」


 レオンは答えない。

 視線は海面に落ちていた。


 何もない。

 島影も、岩もない。


 ガウィンが周囲を見回す。

「外したか?」


 レオンは一歩だけ前に出た。

 船縁に立つ。


 海面を見下ろす。

 揺れている。

 ただ、それだけだ。


 意識を落とす。

 絞る。


 一点。

 座標の真下。



 詠唱に入る。


「ピング」

 音が走る。


 沈む。

 抜ける。

 さらに下へ。


 ――止まる。


 空間。


 空洞。

 広い。


 内部。

 構造あり。


 水ではない。


 レオンの目がわずかに細まる。


 海面に視線を戻す。

 同じ場所を見ている。


 何もない。


 だが、違う。


 わずかに沈む。

 波が遅れる。

 揺れが噛み合わない。


 触れている。


「下だ」


 短く告げる。


 ヘレナの視線が落ちる。

 海面を見る。


「……流れが歪んでる」


 一点だけ、波が崩れない。

 押しても引かない。

 そこだけ、遅れている。


 ガウィンが眉をひそめる。

「穴か?」


「空洞だ」


 レオンは船縁に手をかける。

 位置を測る。


 ずれはない。

 座標と一致している。



 レオンは靴を脱いだ。

 外套を脱ぐ。


「行く」


 それだけ言って、足をかける。


「待ちなさい」

 ヘレナの声が止める。


 ロープが投げられる。

 結び目が素早く組まれる。


「戻れなかったら終わりよ」


 レオンはわずかに頷いた。


 意識を落とす。

 呼吸を止める。


 踏み出す。


 水面に触れる。


 沈む。


 冷たい。重い。


 だが、深くならない。



 すぐに抜けた。


 感触が変わる。


 空気。


 足が床に触れる。


 水音が遅れて響いた。


 レオンは顔を上げる。



 そこは、空洞だった。

 

 

【シーン②:内部空間】


 通路を抜けた先で、空気が変わる。


 湿り気が消えている。

 乾いた静けさだけが満ちていた。

 削られ、整えられた空間。

 自然の形はほとんど残っていない。

 広い。

 しかし、その広さに対して、音も気配も足りていない。


 視界の先に、石の台座が整然と並んでいる。


 武器、魔道具、加工された鉱石、魔獣の骨。

 用途の判別できないものまである。

 形も由来もばらばらだ。

 それなのに、配置だけは揃っている。

 間隔は均一。

 角度も揃えられていた。


 剣が一本、鞘ごと置かれている。

 刃はわずかに露出しており、そこから滲む魔力だけが生きていた。

 隣には、内部で光が巡る球体。

 さらに奥には、黒く焼けた骨が束ねられている。

 どれも、使われた痕跡がない。


「……使わないのか。もったいねえ」

 剣を眺めるガウィンの声が低く落ちる。


 レオンは答えず、視線を走らせる。


 どの品も、外へ流れる気配がない。

 力はある。

 だが、どこにも向かっていない。

 閉じ込められているわけでもなく、ただ動いていない。

 集めて、置くための空間だ。



 レオンは足を進める。

 台座の列を抜け、奥へ向かう。


 並びの終端で、視界が開けた。

 円形の広間。中央だけが、空いている。

 そこに、ひとつだけ存在していた。


 白い人影。

 宙に浮いている。

 

 衣は簡素で、装飾もない。

 露出の多さが、躯体の白さを際立たせている。

 藍色の髪が垂れている。

 うつむいた表情が見える。

 

 その周囲だけ、空気の流れが止まって見えた。

 風はないのに、そこだけ時間が引き延ばされたように、すべての変化が鈍い。



 レオンは足を止め、距離を測る。


 一歩、踏み出す。


 近づいているはずだが、距離が縮まらない。

 空間がずれている。


 もう一歩。


 境界を越えた瞬間、わずかに感覚が沈む。

 重さではない。流れが遅い。


 レオンはその場で止まり、対象を観測する。


 維持されている。

 止まっているわけではない。変化だけが極端に遅い。


 ヘレナの声が小さく届く。

「……ヴェリスなのか」

 レオンは応じない。


 手を伸ばす。

 躊躇はない。


 指先が触れた瞬間、わずかな反応が返る。


 細い流れがひとつだけ生まれる。

 それを逃がさないように、レオンは魔力を流す。

 接続を保つことに集中する。


 内部で、何かが動く。


 ゆっくりと。


 極端に遅い速度で、閉じていた循環がわずかに巡り始める。


 レオンは手を離さない。

 変化を待つ。



 時間がかかる。

 それでも、止まらない。


 まぶたが、わずかに震える。


 さらに時間をかけて、ゆっくりと開く。


 光が宿る。


 焦点が合う。


 その視線が、こちらを捉えた。


 言葉はない。

 それでも、目だけは、こちらを捉えていた。

最後までお読みいただきありがとうございます!

もし「面白い!」「続きが気になる」と思ってくださったら、

★や感想で応援していただけると、執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。