第79話 追跡
【シーン①:エルフの里】
大森林を三つの影が抜けてゆく。
木々の間の細い道を、足早に進む。
緑が濃く、陽が強い。
その中を進む一行。
枝を払い、根を越え、足を止めない。
視線を落とさない。
一直線に、大森林の奥へ向かっていた。
エルフの里に入る。
里の中は、外の熱気とは切り離されていた。
視線を感じる。
無視して進む。
道は知っている。
案内もなく、長老の樹へとたどり着いた。
長老は変わらず部屋の中央にいた。
半身を樹に埋め、レオン達を招き入れた。
「ユスティア……、ガレリウス……」
長老は深くつぶやいた。
長い記憶をたどる。
「……賢者ガレリウス」
彼方を見る。
視線が、遠くで結ばれる。
「ヒト族の身でありながら、不老にして不死」
さらに深く、記憶をたどる。
「あまたの秘宝を蒐集する」
沈黙。
「すまぬな、これ以上はわからぬ」
「所在について、わかることはないか」
レオンは視線を下げない。
「どこに住まうか。知ることはないな」
「そうか」
レオンは小さく息を吐く。
賢者という単語が残る。
ヴェリスと繋がる。
賢者ギニアスと賢者ガレリウス。
その関係性で追うか。
レオンは思考を整理する。
そのとき、扉が開いた。
「レオン、何事ですか」
報告を受けて急行してきたのは、フェルシオーネだった。
「知らせもなく……」
そう続けたフェルシオーネは、レオンの表情から事態に気づく。
「説明をいただけますか」
レオンは経緯を説明する。
「ユスティアとガレリウスについては、残念ながら情報を持っていません」
フェルシオーネはひと呼吸おいてから、言葉をつづけた。
「ですが、ヴェリスの場所ならば、わかるかもしれません」
「どうやって」
レオンの顔が上がる。
「私が最初にあなた方を調べた方法が、まだ使えるかもしれません」
「どういうことだ」
「魔術師の遺跡へ行きます。説明はそこで」
フェルシオーネは席を立った。
【シーン②:魔術師の遺跡】
制御室へ続く扉は閉ざされていた。
鍵であるヴェリスはいない。
正面からの起動はできない。
フェルシオーネは迷いなくその脇を抜け、別の小部屋へと入る。
室内には複数の魔法装置が並び、その中央に、地図のような陣が刻まれた台座があった。
レオンは一目で理解する。
ヴェリスの位置を探知するためのものだ。
「以前は遺跡に蓄積された魔力で動いていたんですけどね」
フェルシオーネが手を触れ、魔力を流す。
陣が淡く光る。
細い線が走り、中央に一点の光が生まれる。
だが、留まらない。
光はわずかに震え、位置を定めきれないまま揺れ続け、すぐに消えた。
フェルシオーネは表情を変えず、もう一度魔力を流す。
今度は出力を上げる。
再び光が生まれる。
――ずれる。
地図の上を滑るように移動し、定まらない。
軌道が歪み、座標が崩れる。
一瞬だけ、別の地点を指した。
最新の地図と照合する。
城塞都市。
――そんなはずは。
直後、光は消える。
静寂が戻る。
レオンも装置に手をかける。
同じように魔力を流す。
反応はある。
だが、続かない。
光は現れる。
揺れ、消える。
維持できない。
レオンは手を離した。
装置は壊れていない。
だが、結果が成立しない。
視線を落とす。
陣の構造。刻まれた配列。
記憶の中に、同じものがある。
別の遺跡。
同じ系統の装置。
レオンは顔を上げる。
何も言わず部屋を出ようとする。
「どこへ」
フェルシオーネの声が背中に届く。
「心当たりがある」
それだけを言い残した。
【シーン③:城塞都市の遺跡】
最奥の空間は静まり返っていた。
以前と変わらぬ構造。中央の装置も、そのまま残っている。
レオンは迷わず手をかける。
魔力を流す。
即座に反応した。
光が立つ。
消えない。
線が伸び、地図の上を走る。
そのまま、一点に収束する。
動かない。
エルフの里にあった遺跡とは違う。
揺れない。
途切れない。
確定している。
レオンはその位置を見据える。
隣でヘレナが地図を広げる。
古い地図と現在の地図を重ね、わずかなズレを補正していく。
手が止まる。
視線が一点に落ちる。
「ここ」
指が示す。
海だった。
地図には何も記されていない領域。
それでも、座標はそこを指している。
「知られていない島か」
「おそらく」
ヘレナは短く答える。
レオンはもう一度装置を見る。
光は動かない。
消えない。
確定している。
「行こう」
レオンは立ち上がった。
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