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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
冒険者編
86/111

第78話 ヴェリス

【シーン①:対ガレリウス】

 ガウィンが踏み込む。

 剣が走る。

 届く。

 はずだった。

 

 空を切る。

 ガレリウスは、そこにいた。

 

 最初から、何も起きていないかのように立っている。

 笑みを崩さない。あの、焦点の合わない笑み。

 

 

 踏み直す。

 間合いを詰める。

 振る。

 抜ける。

 

 刃は確かに通っている。

 軌道も、速度も、問題はない。

 だが、手応えがない。

 

 位置が、ずれている。

 いや、違う。

 

 視界の中にいる。

 だが、そこにいない。

 

 

 ヘレナが動く。

 横から差し込む。

 ガウィンと挟む。

 同時。

 

 両方、外れる。

 ガレリウスは変わらずそこに立っている。

 

 詠唱らしき動きはある。

 口元がわずかに動いている。

 だが、声は聞こえない。

 

 間に合っていないわけではない。

 先に、ずれている。

 攻撃の前に、すでに結果が変わっている。

 

 

 ガウィンは踏み込む。

 もう一度。

 振る。

 外れる。

 

 距離を取る。

 一歩。二歩。

 間合いを広げ、呼吸を整える。

 

 ヘレナは動かない。

 前に出ることをやめ、観察に切り替えた。

 視線だけが、ガレリウスを追っている。

 位置。動き。ずれの方向。

 重ねて見る。

 

 答えは出ない。

 

 ガウィンが仕掛けるたびに、ガレリウスの位置が変わる。

 移動の過程がない。

 

 気づけば、そこにいる。

 気づけば、そこにいない。

 

 詠唱との関係も、読めない。

 

 

 指示役がいない。

 レオンがいれば、何か組み立てられたかもしれない。

 だが今は、壁の向こうだ。

 

 

 ガレリウスは笑っている。

 変わらず。

 時間だけが、削れていく。

 

 

【シーン②:対ユスティア】

 衝撃。

 空気が歪む。

 

 レオンは踏みとどまる。

 膝が沈む。

 視線は切らない。

 

 わずかな指の動き。

 その動きだけで、現象が成立している。

 ユスティアは動いていない。

 ただ、そこに立っている。

 

 打開策はない。

――このままでは削られる。


 レオンは一歩出る。

 腰のショートソードを抜き放つ。

 手に馴染まない。

 

――魔法だけでは届かない。

 

 素早く詠唱し、身体に魔力を通す。

 地を蹴る。

 振る。

 

 受け止められる。

 片手が、刃を止める。

 それだけで、止まる。

 

 もう一方の手が伸びる。

 レオンは退く。

 横に流しながら、斬る。

 当たっている。

 だが、届いていない。

 すり抜ける感触だけが残る。

 

 

 ユスティアが前に出る。

 速い。

 間合いが詰まる。

 手を払う。

 弾く。

 

 もう一方が来る。

 触れる。

 一瞬。

 冷たい。

 身体の奥から、何かが引き剥がされる。

 魔力が、根こそぎ持っていかれる感覚。

 

 レオンは距離を取る。

 

「少ない」

 ユスティアが呟く。

 感情はない。

 ただの観測。

 首をわずかに傾ける。

 

 

 レオンはヴェリスの手を掴む。

 魔力の接続が通る。

 詠唱に入る。

 声を出す。

 

 出ない。

 音が、潰れる。

 喉は動いている。

 息もある。

 だが、言葉にならない。

 詠唱が、成立しない。

 

 視線を上げる。

 ユスティアの手が、こちらへ向けられている。

 それだけで、声が消える。

 魔法の構築ではない。

 所作が、現象を上書きしている。

 

 

 ユスティアが踏み込んでくる。

 レオンは詠唱をあきらめて剣を握る。

 切り上げる。

 反射で振った剣は、大きく逸れる。

 ユスティアの手が触れた。

 

 奪われる。

 一瞬で、底が抜ける。

 魔力が消える。

 四肢から力が失われる。

 視界が狭まる。

 地面が近づく。

 倒れる。

 

 ヴェリスの気配がある。

 近い。

 手を伸ばす。

 指先が、届きかける。

 

 ヴェリスも、手を伸ばしている。

 こちらへ。

 

 確かに。

 

 その手が、止まる。

 

 

 首を、掴まれている。

 ユスティアの手が、ヴェリスの首を包んでいた。

 物を掴むような、迷いのない動作。

 

 ヴェリスの瞳は、開いたままだった。

 光だけが、抜けていく。

 

 ゆっくりと、静かに。

 

 手が、力を失う。

 身体から、糸が切れる。

 

 脱力。

 

 そのまま、ユスティアに引き寄せられる。

 

 

 レオンは見ている。

 動けない。

 見ることしかできない。

 

 伸ばした指先が、届かない。

 

 距離が開く。

 開いていく。

 

 視界が歪む。

 音が遠のく。

 

 それでも、目だけは動く。

 

 離れていく。

 ヴェリスが。

 

 意識の端が、揺れる。

――ヴェリス。

 

 

 

 視界が一瞬、白く消えた。

 景色が変わる。

 

 

 暗い室内。石の天井。冷たい床。

 

 呼吸が戻る。

 身体が動かない。

 

 

 横に、ガウィン。

 その先に、ヘレナ。

 

 荒野ではない。

 ギルドの地下。帰還の間だ。

 

 だが、空気が違う。静かすぎる。

 

 ヴェリスはいない。

 

 

 何も、残っていない。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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