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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
冒険者編
85/111

第77話 神族

【シーン①:荒野】

 「フムス」

 レオンの詠唱と同時に煙幕が広がる。

 視界が閉じる前に、ガウィンが踏み込んだ。

 

 初撃。

 全力の斬撃。

――弾かれる。


 ユスティアに刃は届いている。

 にもかかわらず、何かに押し返されたように軌道が逸れた。

 手応えがない。

 

 舌打ち一つ。

 ガウィンは即座に煙の中へ消える。

 

 ヘレナが展開しながらナイフを投げる。

 間を置かず、レオンが魔法を重ねる。

「フラムランス・ループ3」

 炎槍の魔法とナイフによる、回避不能の挟撃。

 

 その瞬間。


 ユスティアを中心に、何かが弾けた。

 衝撃。

 炎槍も、ナイフも、煙幕さえもまとめて吹き飛ぶ。

 

 何もしていない。

 少なくとも、詠唱はなかった。

 

 

 波状攻撃は止まらない。

 わずかに残った煙を抜け、ガウィンが跳躍する。頭上から叩き込む一撃。

 同時に、レオンが詠唱を重ねる。

「グレイヴ」

 地面を薙ぐ真空の刃が走る。

 

 ユスティアが、わずかに手を払った。

 それだけで、グレイヴと同質の現象が発生する。

 空気が裂け、レオンの斬撃とぶつかり、激しく打ち消し合った。

 

 魔法の構築ではない。

 所作だけで、結果だけが再現されている。

 

 ガウィンの一撃がガレリウスへ――届く。

 そう見えた。

 短い詠唱。

 次の瞬間、そこには何もなかった。

 

「抜けた?」

 手応えが消える。

 ユスティアのすぐ隣にいたはずのガレリウスは、離れたところに位置を変えていた。

 

 ガウィンは即座に距離を取る。

 さらに一歩、二歩。

 間合いを広げる。

 

 緊張が張り詰める。

 レオンは状況を整理する。

 

 

 女の所作に、詠唱がない。

 だが、現象は成立している。

 以前に見たザッハ同様、仕組みは読めない。

 ガレリウスの動きも説明できない。

 しかし。

 

――女の方が危険だ。


 判断だけを残し、思考を切り上げる。

 

 

 膠着。

 

 

「仕方ありません」

 ユスティアが、ゆっくりと手を上げた。

 直後、地面が歪む。

 隆起ではない。

 空間ごと押し上げられるように、壁が立ち上がる。

 視界が分断される。

 

 レオンはとっさにヴェリスの手を引き、地を蹴った。

 転がるように位置をずらす。

 

 直前までいた場所を、壁が垂直に貫いていた。



【シーン②:壁のこちら側】

 目の前にユスティア。

 隣にヴェリス。

 ガウィンとヘレナの気配が、向こう側へ遠ざかる。

 

 切り離された。

 完全に。

 

 レオンが立ち上がる。

 視線を外さない。

 ユスティアは、ただ見ていた。

 

 

「優秀です」

 評価。

 ただ事実を並べるような声音だった。

「ですが、無意味です」

 間はない。

 切り捨てるように続く。

 

「それを渡しなさい」

 条件ではない。

 命令でもない。

――決定事項。


 レオンは視線を逸らさない。

 呼吸は浅いまま維持する。

 

 

 観察する。

 立ち位置。距離。視線。

 何も動いていない。

 なのに、余地が削られていく。

 

「名を」

 短く問う。

「ユスティア」

 即答。感情がない。

 

「神族です」

 隠す必要すらない、と言わんばかりの声音。

 圧が変わる。

 言葉が、輪郭を与えた。

 神族。

 理解ではない。分類。

 

「なぜ狙う」

 問いを重ねる。

「危険だからです」

 即答。

 

「その個体は過剰です。

 魔力が集中している。

 構造が歪です」

 ヴェリスに視線が落ちる。

 計測している。

 値として見ている。

 

「放置すれば、世界の均衡を崩します」

 断定。

「ゆえに封印します」

 決定。

 レオンは沈黙する。

 

 

 思考を走らせる。

 とはいえ、結論はすでに出ている。

 それでも糸口を探す。

 

「何をもって均衡とする」

 わずかに踏み込む。

 ユスティアの視線がレオンに戻る。

「安定です」

 簡潔。

 

「変動の排除。逸脱の抑制。

 それが秩序です」

 説明ではない。

 定義の提示。

「我々はそれを維持します」

 揺るがない。

 

 理解する必要もない。

 視線だけを返す。

 

 

 沈黙。

 

 その間にも、圧は消えない。

 むしろ、静かに増している。

 喉が、渇く。

 

 

「差し出しなさい」

 三度目。

 変化はない。

 最初から最後まで、同じ温度。

 

 レオンはヴェリスの手を強く握る。

 細い。軽い。

 それでも、確かにそこにある。

 

 離さない。

 

 

 その瞬間。

 ユスティアの視線が、わずかに細められた。

 

 指先が、動く。

 ほんのわずか。

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