第75話 偏り
【シーン①:依頼~現地到着】
違和感があった。
灯を掲げ、石畳を歩く。
レオンたちはダンジョンに潜っていた。
単調な通路が延々と続く。
「つまらない」
マッピングするヘレナがぼやく。
違和感は依頼を選ぶ段階からあった。
適当な依頼を探して冒険者ギルドへ訪れたところ、目の前でダンジョン発見の報告が上げられた。
挑戦可能なランク帯のパーティも、たまたまレオンたちしかいない。
結果的に、レオンたちが受注することになった。
タイミングが良すぎる。
ダンジョンでは、魔物との遭遇も宝箱も、ほぼない。
「あっさりしてるな」
ガウィンが首を鳴らす。
腰の黒剣が、わずかに揺れた。
「今回は魔石だけになりそうね」
ヘレナが軽く息を吐く。
順調すぎる。
違和感。
レオンは口に出さず、そのまま歩を進める。
ふと、先日の男が、思考の端にかかる。
ガレリウス――あの男もまた、説明のつかない違和感を伴っていた存在だ。
だが、この状況と結びつけるには根拠がない。
ガレリウスの話は、ガウィンとヘレナにもしてある。
二人は、ヴェリスのことについて口外はしていないと断言した。
であれば、ヴェリスの情報を漏洩させたのはエルフの里の関係者ということになる。
――戻ったら、フェルシオーネにも確認が必要だ。
行動を明確化する。
思考を切り替えた。
【シーン②:最下層】
ボス部屋の前に到達するまで、ほとんど時間はかからなかった。
新設のダンジョンとはいえ、進行速度としては早すぎる。
レオンは扉に手をかけ、わずかに隙間を作って中を覗いた。
広い空間だった。
一見、何もない。
しかし、よく見ると石畳の上に、薄く広がるものがある。
「スライムか」
ガウィンが顔をしかめる。
スライムはほぼ液体のため、剣での攻撃は意味をなさず、その体液は強烈な腐食効果がある。
ガウィンの黒剣は、ほぼ損壊をしないことが売りのドワーフ工廠製ではあるが、それでも不安はある。
さらに、核を破壊しない限り再生する。
レオンは扉を閉めた。
「作戦を組む」
振り返ると、周囲確認に出ていたヘレナが戻ってくる。
「来た道が塞がってる」
「詳細を」
「通ってきた一本道が、そのまま壁に変わってた」
短い報告の後、わずかな沈黙が落ちる。
「どうせ帰りは帰還の魔道具使うんだろ?」
ガウィンが軽く言う。
「それはそうなんだけど……」
ヘレナは言葉を濁した。
違和感は強い。
それでも、進むしかない。
「行くぞ」
侵入を検知したスライムが波打つように動き出し、石畳の上を覆うように広がる。
ガウィンが先行し、円を描くように走ってスライムを引きつけていく。
スライムがまとまり始める。
レオンはヴェリスの手を取る。
緩やかに詠唱を開始した。
「ヴェント・ヘリクス・マクシメル」
風が螺旋を描き、スライムを巻き上げる。
そこへ、ヘレナが油瓶を投げ込み、割れた油が渦の中で混ざり合う。
「フラムボルト」
ヘレナが炎の魔法を放った。
炎が走り、竜巻が火を纏う。
火焔の柱が立ち上がり、スライムを焼き尽くす。
酸と煙が混じり合う匂いが部屋中に充満する。
レオンは魔法の制御を収めた。
焼け焦げた残骸が床に落ちる。
「核を」
レオンの指示に、ガウィンが踏み込む。
黒剣を振い、焼けた塊を削るように叩く。
そのときだった。
黒焦げのスライムが脈動を始める。再生の速度が想定よりも早い。
「もうかよ」
ガウィンの動きが一段速くなる。
何度目か、振り抜いた一撃が、硬いものを叩き割る音を響かせた。
膨らみかけていたスライムが、そのまま崩れ落ちる。
スライムだったものは、溶けるように消えた。
「いい汗かいたな」
ガウィンが息を吐く。
「あっけないわね」
ヘレナが周囲を見回す。
ヴェリスが残骸から魔石を拾い上げる。ひとつまみほどの小さなものだった。
「出来立てのダンジョンだった、ということか」
「帰ろう」
レオンは帰還の魔道具を起動する。
光が溢れ、一行を包み込む。
瞬間、わずかに光が揺れた。
――違和感。
光が収まったとき、そこはいつものギルドの地下ではなかった。
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