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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
8/17

第8話 制御という発見

【シーン①:準備と整理】

 夕方前の修練場は、今日も静かだった。

 木の床には古い焦げ跡がいくつも残り、柱の根元には擦れた痕が重なっている。

 普段は訓練の掛け声や金属音が響く場所だが、この時間だけは嘘のように気配が薄い。

 

 

 レオンは中央に立ち、小さく息を吐いた。

 

――やることは決まっている。

 

 頭の中で、順番を整理する。

 感覚ではなく、手順として並べる。

 

――出力を上げる。

 

――ただし、暴走させない。

 

 

 昨日の失敗が、はっきりと残っている。

 噴水。

 轟音。

 途切れる意識。

 

――最大化するときは必ず上限設定だ。

 

 詠唱の中で出力を指定し、そのうえで上限を別に設ける。

 

――最大化するマクシメルと、制限するリミ。

 

 この二つを組み合わせる。



――そういや、こんな感じで仕事してたな。

 消えゆく記憶から、感覚だけが蘇る。

 自然と、少しだけ口元が緩んだ。

 

 切り分けて、仮説を立てて、順番に検証する。

 やることは変わらない。

 ただ対象が魔法に変わっただけだ。

 

 本当なら設置型で試したかった。

 変化を追いやすいし、挙動も見やすい。だが――

 噴水は、壊してしまった。

 

――仕方ない。

 

 

 レオンは静かに手を開き、意識を掌に集中させた。

 

 

【シーン②:検証】

 まずは光。

 

「……ライト……マクシメル……リミ……」

 

 一瞬、視界が白に塗りつぶされた。

 強烈な閃光が弾け、すぐに消える。

 

――上限で止まる。

 

 

 次は風。

 

「……リトルウィンド……マクシメル……リミ……」

 

 どん、と空気が弾けた。

 一瞬だけ強い風が吹き抜け、床の砂を巻き上げて消える。

 

――同じ挙動。

 

 

 炎も試す。

 

「……フラムボルト……マクシメル……リミ……」

 

 炎が鋭く走り、的に当たって散る。

 速い。

 重い。

 だが制御はできている。

 

――問題ない。

 

 ここまでは想定通り。

 次。

 

――質を加える。

 

 

「……ライト……ヴィ……マクシメル……リミ……」

 

 赤い閃光が弾けた。

 一瞬だけ、視界に焼き付く濃い紅。

 

――色も同時に変わる。

 

 出力と性質は、同時に指定できる。

 少しだけ出力を落とす。

 

「……ライト……ヴィ……」

 

 淡い赤い光が静かに灯る。

 安定している。

 

――これでいい。

 

 徐々に変えるなら、術者側で制御できる。

 一気に引き上げるなら、身体がそれに従う。だからリミが必要になる。

 

――使い分けだな。

 

 ここまでは整理できた。

 

 

 レオンは少し考えて、次の仮説に移る。

 

――組み合わせられるか?

 

 光と風。

 

「……ライト……ヴィ……ヴェント……」

 

 発動――しない。

 一瞬、光が揺れて消えた。

 風も起きない。

 レオンは眉を寄せた。

 

――なんだ?

 

 もう一度。

 

「……ライト……ヴェント……」

 

 やはり不発。

 順番を変える。

 

「……ヴェント……ライト……」

 

 微かな風が起き、すぐに途切れる。

 光は出ない。

「……これはできないのか。なんでだ」

 

≪魔法の単純結合はできません≫

 

――単純結合。

 

 つまり、並べるだけではだめということか。

 何かで繋げる?

 どうやって?

 答えはまだ見えない。

 

 

 レオンは小さく息を吐いた。

 

――まあいい。

 

 今わからないものに時間を使っても仕方がない。

 それよりも――できることを、もっと押し広げる。

 

 視線を自分の手に落とす。

 光の色を変え、強さを変え、発光の持続を意識してみる。

「……ライト……ヴィ……パル……」で灯した赤い光を、消えないよう保ちながら強さだけを少しずつ上げる。

 揺れる。

 揺れるが、消えない。

 

――保てる。

 

 今度は色を変えながら強さも変える。

 

「……ライト……アズ……パル……」

 

 青い光が灯る。

 落ち着いた、水面のような色だ。

 そのまま強さを上げると、光が鋭くなる。

 色は変わらない。

 

――性質と出力は、それぞれ独立して動く。

 

 炎で同じことを試す。

 フラムボルトの軌道を意識しながら、速さを変えてみる。

 詠唱の語尾をわずかに変える。

 炎が緩やかな弧を描き、的の手前で失速した。

 速すぎても遅すぎても、当たらない。

 

 何度か繰り返すうちに、ちょうどいい速さの感覚がつかめてきた。

 的の中心に、炎が吸い込まれる。

 

――これだ。

 

 

 詠唱は呪文ではない。

 設定だ。

 

 何をどう変えるかを、言葉で指定している。

 その理解が、今日初めてはっきりと言葉になった。

 

 

【シーン③:違和感と収束】

 何度目かの詠唱のあと、視界がふっと揺れた。

 足元がわずかにぶれる。

 呼吸も浅い。

 

――減ってる。

 

 身体の奥にあった余裕が、確実に削れている。

 試そうと思えば、まだできる。

 だが、その先がどうなるかは、もう知っている。

 

 レオンはゆっくりと息を吐いた。

「……ここまで」

 掌の光が消え、静寂が戻る。

 

 

 頭の中で、今日の結果が静かに並んでいく。

 出力は詠唱で決まる。

 最大化するなら、上限が必要だ。

 徐々に変えるなら術者が制御できる。

 一気に引き上げるなら、身体がついてくる前にリミで抑える。

 

 性質と出力は、それぞれ独立している。

 色を変えても強さは変わらない。

 強さを変えても色は変わらない。

 

 組み合わせは自由だ。

 ただし、魔法同士は単純には繋がらない。

 並べるだけでは成立しない。

 繋げる仕組みがどこかにあるはずだ。

 

――いつかわかる。

 

 今日はここまでで十分だ。

 同時に、身体の奥に残る空虚感にも意識が向く。

 魔力は使えば減る。

 限界がある。

 そしてその限界は、昨日より少しだけ遠くなった気がした。

 

 気のせいかもしれない。

 だが、そう感じた。

 できることが増えている。

 自分の手で、変えられる範囲が広がっている。

 その実感の方が、強かった。

 レオンは小さく笑った。

 

「……面白いな」

 

 夕方の光が差し込み、床の焦げ跡を赤く染めていた。

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