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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
7/19

第7話 見えない値

【シーン①:自室】

 まぶたを開いた瞬間、視界いっぱいに人の顔があった。

 父。母。そしてマルタ。

 三人が揃って、こちらを覗き込んでいる。

 

「レオン!」

「よかった……!」

「坊ちゃん……本当に……!」

 声が重なる。

 

 いつもより近い。

 息がかかるほどの距離だ。

 レオンは一瞬、状況が理解できずに目を瞬かせた。

 

――ああ。

 

 

 ゆっくりと、記憶が戻ってくる。

 噴水。

 詠唱。

 一瞬の違和感。

 そして――轟音。

 

「……ぼく……」

 

 声がかすれる。

 母の手が、そっと額に触れた。

 少し冷たい。

 けれど、安心する温度だった。

 

「無理に話さなくていいのよ」

 父は腕を組んだまま、じっとレオンを見ている。

 その表情は厳しい。

 だが、どこか張り詰めていた。

 

「……何をした」

 短い問い。

 責める響きではない。

 確認する声だった。

 

 レオンは少しだけ視線を逸らす。

「……ちょっと……ためしただけ……」

 

 マルタが大きく息を吐いた。

「"ちょっと"で、あんなことになりますか!」

 珍しく強い口調だった。

「あんな……?」

 父が低く言った。

「噴水は吹き飛んだ。周囲の石も割れている」

 

――吹き飛んだ。

 

 思っていたより、ずっと大きい。

 レオンは黙り込んだ。

 胸の奥に、重いものが落ちる。

 

 やりすぎた。

 そう理解する。

 

「……ごめんなさい」

 自然と、言葉が出た。

 母が少し驚いたように目を見開き、それから微笑んだ。

 マルタはほっとしたように肩の力を抜く。

 父はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐いた。

「……無事なら、それでいい」

 それだけだった。

 だが、その一言で十分だった。

 

 レオンは目を閉じた。

 

――次は、ちゃんとやる。

 

 ぼんやりとした頭の奥で、そう思った。

 

 

【シーン②:再現と検証】

 夕方。

 部屋は静かだった。

 昼間の騒ぎが嘘のように、何もかもが落ち着いている。

 レオンはベッドの上で、目を閉じた。

 

 

――思い出せ。

 

 赤い文字。

 全部は無理だ。

 でも、断片は残っている。

 出力。

 足りなくなる何か。

 そして――

「……何が起きたんだ?」

 

≪出力が許容量を超過しました≫

 

「……なんで?」

 

≪適切なパラメータが構成されていませんでした≫

 

――構成。

 

「……構成って、なんだ?」

 

≪複数の可変要素の組み合わせです≫

 

 組み合わせ。

 レオンはゆっくり息を吐く。

 

 詠唱の一部を変えた。

 それが出力に繋がった。

 値だ。

 言葉じゃない。

 だから変わる。

 だから、制御を誤れば壊れる。

「……魔力って……自分で調整するんだよね?」

 

≪原則的にはそうです。今回のように条件を明示した場合は、詠唱が優先されます≫


――詠唱が優先する。


「……じゃあ……術者は?」


≪詠唱で指定された魔力量を用意します。用意できない場合、限界まで魔力を引き出されます≫


 

 息が止まった。

 常に自分で調整していると思っていた。

 

 違った。

 詠唱が先に量を決めて、身体はそれに従うだけだ。

 足りなければ、限界まで持って行かれる。

「……今回は?」

 

≪上限が設定されていませんでした。結果として無制限とされた最大値に対して、魔力が不足した状態になりました≫

 

――すべてを一度に吐き出した。

 

 そういうことか。

「……上限を設定すれば?」

 

≪上限で止まるようになります≫

 

「……超えたら?」

 

≪上限で止まります≫

 

 なるほど。

 上限があれば、詠唱が引き出せる量に天井ができる。

 今回はその天井がなかった。

 だから限界を超えて魔力が引き出された。

「……少しずつ上げるなら、上限なしでも大丈夫?」

 

≪段階的であれば、上限設定は必須ではありません≫

 

 頭の中で、繋がる。

 やり方がある。

 ルールがある。

 術者が調整するのではなく、詠唱の中に設定する。

 急ぎすぎると、身体が追いつかない。

 それだけのことだった。

 

 

――いや、待て。

 

 詠唱の中に、設定する。

 魔力量だけじゃない。

 色も、大きさも、出力も、全部詠唱の中に指定していた。

 

 ならば。

 

「……詠唱で……他にも設定できる?」

 

≪はい。詠唱は複数の条件を同時に指定できます≫

 

 複数の条件。

 レオンは息を吐いた。

 

 

 これまで、一つずつ変えることしか考えていなかった。

 色を変える。

 大きさを変える。

 出力を変える。

 でも、組み合わせられる。

 同時に指定できる。

 

――どこまで?

 

「……条件の数に、限界はある?」

 

≪詠唱の構造が許す範囲内であれば、複数の条件を指定できます≫

 

 詠唱の構造が許す範囲。

 その範囲がどこまでなのか、まだわからない。

 だが、今よりずっと複雑なことができるはずだ。

 試したいことが、一気に増えた。

 

 

 レオンは手を持ち上げる。

「……ライト……」

 淡い光が浮かぶ。

 条件を付与しない。

 感覚で調整する。

 光がわずかに強くなる。


――条件付与。

 

 止まる。

 脳裏に、あの光景がよぎった。


 轟音。吹き飛んだ噴水。途切れる意識。


 指先に、わずかに力が入る。

 

――マクシメル。あのとき使った言葉。一気に引き上げる、あの感覚。

 やれば、たぶんできる。だが。

 

 レオンはゆっくりと息を吐いた。

「……今日は、やめておこう」

 小さく呟く。

 

 光はそのまま、静かに揺れている。

 無理に試す必要はない。

 やり方は、もう見えている。

 なら。

――順番にやればいい。

 

 レオンは手を下ろした。

「……だいたい、わかった」

 光が、静かに消えた。

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