第6話 実験と暴走
【シーン①:自宅・噴水前】
今日は誰もいない。
学校も休み、父は仕事、母はお茶会、乳母マルタも外出中。
絶好の実験日和だ。
レオンは噴水の前に立ち、そそり立つ水の柱をじっと見つめる。
――今日こそは、あの実験を決行できる。
実験を思いついたのは、噴水魔法を教わった日のことだ。
魔法には設置型というタイプがある。
一定の魔法を永続的に発生させる仕組みだ。
教材となったのが噴水の魔法。
もともと噴水に刻まれた詠唱をなぞることで、水が吹きあがる。
吹きあがる水を眺めているうちに、思いついた。
――出力の実験ができるかも。
この魔法は、出力の変化が目に見えてわかりやすい。
光源魔法で出力を変えても、光はすぐに消えてしまうため、比較はできなかった。
噴水魔法なら、水柱の高さがそのまま出力の指標になる。
詠唱を変えて、その出力の変化を観察できるはずだ。
それ以来、頭の中で何度も反復しながら、光源魔法で詠唱の一部を変える実験を重ねてきた。
今日はその応用だ。
これまでの実験で気づいたことがある。
詠唱は前半と後半で役割が違う。
前半が魔法の種類を決め、後半がその動きを制御する。
色や大きさを変えるときは、後半の部分を変える。
今回もそこを変えれば、出力が上がるはずだ。
ただ、後半の詠唱がどこまで変えられるのかは、まだわかっていない。
光源魔法で試したときは、変えすぎると光が乱れた。
噴水魔法でも同様、限界があるはずだ。
まずは、上限を計る必要がある。
うまくいけば、火の魔法や風の魔法の威力調整にも応用できるはずだ。
噴水を、もう一度眺める。
水の柱が規則正しく上がり、落ちる。
今はまだ、ただの噴水だ。
詠唱を変えたとき、何が起きるのか。
出力が上がるのか。
それとも、光源魔法のときのように乱れるのか。
やってみなければわからない。
だからこそ、面白い。
うまくいけば次につながる。
失敗しても、たかが噴水。
どうなるかがわかれば、次に活かせる。
どちらに転んでも、無駄にはならない。
小さく息を吐いた。
あとは実行するだけだった。
【シーン②:暴走・昏倒】
小さく息を整え、詠唱に入る。
「ファウンテ……マクシメル……」
――これで出力が上がるはず……
瞬間、噴水の水がふっと途切れた。
ドーン
轟音が全身を貫いた。
身体が宙に浮く感覚。
そして身体の内側が“空になった”感覚。
意識が途絶えた。
闇の中で、赤い文字が浮かぶ。
消えない。
流れない。
ただそこにある。
いつもと違う。
いつもなら一瞬だけちらりと見えて、すぐに流れ去る。
それが今は、止まったまま動かない。
――なぜ、見えている。
答えは出ない。ただ、今は読めるということだけが確かだった。
[Critical: HardwareAbortion]
Cause: Output exceeds structural durability (Object: VillageFountain)
[Error: ArgumentOutOfRangeException]
Detail: Parameter 'Intensity' set to MAX_VALUE. Unhandled exception in physical constraints.
[Warning: ResourceDepletion]
Source: ExternalBuffer(100%) + InternalStorage(100%)
Status: Total Drain.
[Notice: UnexpectedVarianceDetected]
Status: Unresolved Process.
Initiating Emergency Shutdown of User Interface...
一語ずつ、追っていく。
意味を持ちそうな言葉が並んでいる。
わかりそうな単語もある。
だが断片的で、全体像が掴めない。
なぜこうなったのか、どこで何が起きたのか、文字を追うほどに輪郭がぼやけていく。
意識をログの奥へ動かす。
エラーの下に、別の情報が続いていた。
数値の羅列。
複数の層が重なったような、多層的な何か。
普段は絶対に見えないはずのものが、輪郭だけ浮かんでいる。
読もうとする。
だが、意味が掴めない。
――なんで、こうなった。
≪適切なパラメータが構成されなかったことが原因です≫
声が返ってくる。
だが、それ以上は続かない。
パラメータ?
後半の詠唱に対応する何か?
あそこを変えた?
だが、何が足りなかったのか?
ログの奥の数値が、その答えに繋がっている気がした。
もう一度、文字を追う。
層の奥へ、さらに奥へ。
だが、読もうとするたびに、意識が少しずつ遠のいていく。
深く。
さらに深く。
やがて、何もなくなった。
[System: Rebooting...]
目を……覚ました。
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