第67話 帰還
【シーン①:冒険者ギルド】
ラインバッハに戻った頃には、季節が冬に変わりつつあった。
ほんの数カ月だ。それでも久しぶりに感じる。
レオンたちは冒険者ギルドへ向かった。
ギルドの依頼外での記録を報告する義務がある。
扉を開けると、相変わらずの騒々しさだった。
知った顔から声を掛けられる。
声に応えていると、後ろから足音が近づいてきた。
足音の主は受付の女だった。
書簡を手にしている。
「レオン。
名指しで依頼が来てる」
ガウィンが口を開く。
「俺らに?
帰ったばかりだぞ」
「帰ってくるのを待ってたんだよ」
咎めるような口ぶりだった。
「差出人はダイヤランクパーティ。"碧の疾風"」
空気がわずかに締まる。
ゴールドランクのパーティに、二段上のランクから直接の依頼。
ないとは言わないが、異例だ。
理由が必要な案件だ。
「内容は」
レオンが問う。
「大森林の探索に同行してほしい、とだけ。詳細は顔合わせで、とある」
情報が少ない。
書簡を受け取り、文面を確認する。
人数制限、構成指定あり。報酬は相場より高い。条件は整っている。
整いすぎている。
釣り合わない何かがある。
「高ランク側の依頼だから、ギルドは深くは関わらない」
受付が続ける。
「受けるかどうかは、あんたたちで決めて」
ガウィンが笑う。
「断る理由はねぇ。大森林、ちょうど気になってた」
ヘレナは一拍置く。
「条件が変。だからこそ面白い」
レオンは書簡を畳む。
「会おう。
判断はその後だ」
受付が顎で上階を示す。
「応接室、空けてある。先方はもう上にいる」
四人は階段へ向かった。
【シーン②:顔合わせ】
応接室は簡素だった。
机と椅子が整然と並び、窓からの光が均一に広がっている。
先にいたのは四人。
前に出た男が、こちらを見て表情を崩す。
大盾を背負い、片手剣を腰に下げている。重心が低い。
「やあ、来てくれて助かる。
ハンスだ。
"碧の疾風"のリーダーをやっている」
気さくな口ぶりだった。
声は明るいが、重心は動かない。
「期待の新人パーティだと聞いている」
壁際に双剣の女。
しなやかな体つきで、こちらを静かに測っている。
椅子に深く身を預けた老人。
ローブの袖から覗く指先に、精密な魔力の揺らぎがある。
窓辺に立つ軽装の女。
佇まいそのものに音がない。外を向いたまま、動かない。
レオンは四人を順に確認する。
窓辺の女に差し掛かったところで、わずかな違和感を拾う。
輪郭の一部が、曖昧だ。
視界の端で、位置の確定が一瞬遅れる。
同時に、耳元にわずかな声。
「認識阻害、常時展開」
ヴェリスだった。それだけ言って、黙る。
レオンは反応を出さない。
情報だけを受け取り、次へ進む。
ハンスが机に地図を広げる。
「今回の話なんだけどね。
大森林の探索で、ちょっと奥まで行きたい。
ただ、うちだけじゃ人数と構成が足りなくてね」
線で区切られた区域はなく、一本の経路だけが書き込まれている。
外縁から奥へ、まっすぐに伸びている。
「そこで、同行をお願いしたいわけだ。
こちらのルートを一緒に進んでもらえれば、それで十分だ」
「俺らを選んだ理由は」
ガウィンが腕を組む。
「さっきも言ったけど、実績だよ。
ゴールドで二つのダンジョンを攻略。しかも短期間。速度も記録も上位ときた。
適任だと思ったんだ。
正直に言えば、将来性も込みで声をかけた」
評価は通る。
説明として、成立している。
レオンは地図から目を上げる。
「報酬が高い。説明が少ない。依頼主は誰だ」
間があった。
ハンスは笑みを保ったまま答える。
「そこは現地で話せればと思っている。
今は伏せさせてくれ」
笑顔のまま、濁した。
壁際の双剣の女が、口元だけで笑う。
「怖いなら帰れば。代わりはいる」
軽い圧だった。試している。
老人が口を挟む。
「若いの、条件は悪くない。見てから決めるのも一手じゃよ」
窓辺の女がわずかにこちらへ顔を向けた。
淡い金の瞳。一瞬だけヴェリスに触れ、すぐに外へ戻る。
観測だ。
露骨ではない。ただ、確実に行われている。
「相談する」
断りを入れると、レオンは後ろを向いた。
ガウィンとヘレナに向けて、囁く。
「依頼は成立している。
だが、目的は別にある」
ガウィンが笑う。
「上等だ。むしろその方がいい」
ヘレナは腕を組む。
「どうせ行くんでしょ。だったら早い方がいい」
顔を戻してハンスと目を合わせる。
言葉はない。
ハンスが両手を軽く広げる。
「助かるよ。じゃあ、出発は……」
言いかけて、言葉を止めた。
「そうか、長旅から帰ったばかりだものな。
三日後の朝ということでどうだ。
合流地点は後ほど伝える」
決定した。
部屋を出ると、空気が軽くなる。
廊下の喧騒が戻る。
ヘレナが小声で言う。
「あの窓辺の女。外見てたのに、全部把握してた」
ガウィンが笑う。
「面白ぇ連中だ」
レオンは歩きながら答える。
「条件は揃っている。だからこそ、外れている」
判断は保留のまま。
大森林へ向かう。
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