↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
冒険者編
74/111

第67話 帰還

【シーン①:冒険者ギルド】

 ラインバッハに戻った頃には、季節が冬に変わりつつあった。

 ほんの数カ月だ。それでも久しぶりに感じる。

 

 レオンたちは冒険者ギルドへ向かった。

 ギルドの依頼外での記録を報告する義務がある。

 

 

 扉を開けると、相変わらずの騒々しさだった。

 知った顔から声を掛けられる。

 声に応えていると、後ろから足音が近づいてきた。

 

 足音の主は受付の女だった。

 書簡を手にしている。

 

「レオン。

 名指しで依頼が来てる」

 ガウィンが口を開く。

「俺らに?

 帰ったばかりだぞ」

「帰ってくるのを待ってたんだよ」

 咎めるような口ぶりだった。

「差出人はダイヤランクパーティ。"碧の疾風"」

 空気がわずかに締まる。

 

 ゴールドランクのパーティに、二段上のランクから直接の依頼。

 ないとは言わないが、異例だ。

 理由が必要な案件だ。

 

 

「内容は」

 レオンが問う。

「大森林の探索に同行してほしい、とだけ。詳細は顔合わせで、とある」


 情報が少ない。

 書簡を受け取り、文面を確認する。

 人数制限、構成指定あり。報酬は相場より高い。条件は整っている。

 整いすぎている。

 釣り合わない何かがある。

 

「高ランク側の依頼だから、ギルドは深くは関わらない」

 受付が続ける。

「受けるかどうかは、あんたたちで決めて」


 ガウィンが笑う。

「断る理由はねぇ。大森林、ちょうど気になってた」

 ヘレナは一拍置く。

「条件が変。だからこそ面白い」

 レオンは書簡を畳む。

「会おう。

 判断はその後だ」



 受付が顎で上階を示す。

「応接室、空けてある。先方はもう上にいる」


 四人は階段へ向かった。



【シーン②:顔合わせ】

 応接室は簡素だった。

 机と椅子が整然と並び、窓からの光が均一に広がっている。

 

 先にいたのは四人。

 前に出た男が、こちらを見て表情を崩す。

 大盾を背負い、片手剣を腰に下げている。重心が低い。

 

 

「やあ、来てくれて助かる。

 ハンスだ。

 "碧の疾風"のリーダーをやっている」

 

 気さくな口ぶりだった。

 声は明るいが、重心は動かない。

「期待の新人パーティだと聞いている」

 

 壁際に双剣の女。

 しなやかな体つきで、こちらを静かに測っている。

 椅子に深く身を預けた老人。

 ローブの袖から覗く指先に、精密な魔力の揺らぎがある。

 窓辺に立つ軽装の女。

 佇まいそのものに音がない。外を向いたまま、動かない。

 

 レオンは四人を順に確認する。

 窓辺の女に差し掛かったところで、わずかな違和感を拾う。

 輪郭の一部が、曖昧だ。

 

 視界の端で、位置の確定が一瞬遅れる。

 同時に、耳元にわずかな声。

「認識阻害、常時展開」

 ヴェリスだった。それだけ言って、黙る。

 

 レオンは反応を出さない。

 情報だけを受け取り、次へ進む。

 

 

 ハンスが机に地図を広げる。

「今回の話なんだけどね。

 大森林の探索で、ちょっと奥まで行きたい。

 ただ、うちだけじゃ人数と構成が足りなくてね」

 

 線で区切られた区域はなく、一本の経路だけが書き込まれている。

 外縁から奥へ、まっすぐに伸びている。

 

「そこで、同行をお願いしたいわけだ。

 こちらのルートを一緒に進んでもらえれば、それで十分だ」

「俺らを選んだ理由は」

 ガウィンが腕を組む。

「さっきも言ったけど、実績だよ。

 ゴールドで二つのダンジョンを攻略。しかも短期間。速度も記録も上位ときた。

 適任だと思ったんだ。

 正直に言えば、将来性も込みで声をかけた」

 

 評価は通る。

 説明として、成立している。

 

 

 レオンは地図から目を上げる。

「報酬が高い。説明が少ない。依頼主は誰だ」


 間があった。

 ハンスは笑みを保ったまま答える。

「そこは現地で話せればと思っている。

 今は伏せさせてくれ」

 笑顔のまま、濁した。

 

 壁際の双剣の女が、口元だけで笑う。

「怖いなら帰れば。代わりはいる」

 軽い圧だった。試している。

 老人が口を挟む。

「若いの、条件は悪くない。見てから決めるのも一手じゃよ」

 窓辺の女がわずかにこちらへ顔を向けた。

 淡い金の瞳。一瞬だけヴェリスに触れ、すぐに外へ戻る。

 観測だ。

 露骨ではない。ただ、確実に行われている。

 

「相談する」

 断りを入れると、レオンは後ろを向いた。

 ガウィンとヘレナに向けて、囁く。

「依頼は成立している。

 だが、目的は別にある」

 ガウィンが笑う。

「上等だ。むしろその方がいい」

 ヘレナは腕を組む。

「どうせ行くんでしょ。だったら早い方がいい」


 顔を戻してハンスと目を合わせる。

 言葉はない。

 

 ハンスが両手を軽く広げる。

「助かるよ。じゃあ、出発は……」

 言いかけて、言葉を止めた。

「そうか、長旅から帰ったばかりだものな。

 三日後の朝ということでどうだ。

 合流地点は後ほど伝える」

 決定した。



 部屋を出ると、空気が軽くなる。

 廊下の喧騒が戻る。

 

 ヘレナが小声で言う。

「あの窓辺の女。外見てたのに、全部把握してた」

 ガウィンが笑う。

「面白ぇ連中だ」

 レオンは歩きながら答える。

「条件は揃っている。だからこそ、外れている」


 判断は保留のまま。

 大森林へ向かう。

最後までお読みいただきありがとうございます!

もし「面白い!」「続きが気になる」と思ってくださったら、

★や感想で応援していただけると、執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。