第66話 鍛冶
【シーン①:ゼムスト】
炉が鳴っていた。
低く、腹に響く音だった。
赤く焼けた鉄が台に置かれる。
次の瞬間、叩きつけられる。
火花が散る。
歪み、伸び、形が変わる。
迷いがない。
ゼムストの腕が振り下ろされる。
一打ごとに、わずかに角度が変わる。
熱の抜け方に合わせている。
理屈は追える。
とはいえ、同じ軌道にはならない。
隣でガウィンが笑っている。
同じようにハンマーを振るう。
「そうだ、そのまま持ってけ」
「こうか?」
「違ぇ。今のは遅ぇ」
短い言葉。
だが、修正は一打で入る。
ガウィンの動きが変わる。
次の一撃が、前と違う。音が揃う。
ゼムストが口の端を上げる。
「……意外と、筋がいいじゃねぇか」
「だろ?」
火花の中で、二人が笑う。
レオンは離れて見ていた。
流れは見える。
熱の変化、打点の移動、力の抜き方。
すべて連続している。
分解すれば、追える。
とはいえ——
その一打は、そこからは出てこない。
積み重ねでは届かない瞬間がある。
判断が、飛ぶ。
理由は後からなら説明できる。
だが、その場では先に動いている。
ガウィンの剣と同じだ。
再現はできない。
ゼムストのハンマーが、形を決める。
「冷やすぞ」
水に落とされる。
蒸気が上がる。
音が止まる。
ガウィンが息を吐く。
「面白ぇな、これ」
「だろうな」
ゼムストが短く返す。
出来上がった刃が持ち上げられる。
光が走る。
レオンはそれを見る。
追えるが、届かない。
「お前はやらねぇのか」
ゼムストが顔だけ向ける。
「いい」
短く返す。
ハンマーは振える。
だが、あの一打は出ない。
自分では届かない。
ゼムストは一度だけ鼻を鳴らした。
「そうかよ」
それ以上は何も言わなかった。
【シーン②:バーツ】
「ゼムストのとこの客か」
奥まった工房だった。
光が薄い。
机の上に魔石が並ぶ。
削られ、刻まれ、形を変えている。
ドワーフが一人、座っていた。
顔が上がる。
レオンは無言で魔石を置く。
黒く、重い塊。
ベヒモスの魔石だった。
バーツの目が一瞬だけ止まる。
「……でかいな」
それだけ言う。
すぐに手元へ戻る。
「で、何だ」
「加工してほしい」
レオンが言う。
「内容は」
「魔力を出し入れできるアミュレット」
短く落とす。
バーツの眉が寄る。
「属性は?」
「いらない」
即答だった。
「……は?」
空気が止まる。
「属性はいらない」
繰り返す。
バーツの顔が歪む。
「なんだと?」
「そんなんじゃ暴走しちまうじゃねぇか」
「暴走はしない」
レオンは揺れない。
「俺が制御する」
さらに間が空く。
「何言ってやがる」
吐き捨てるような声。
「蓄えるだけでいい」
それだけを足す。
バーツはしばらく何も言わない。
魔石に手が伸びる。
指先で軽く叩く。
乾いた音。
「……理屈が通らねぇ」
低く呟く。
「魔法にならねぇもんに、意味があんのか」
レオンは答えない。
必要なことは言った。
それ以上は出さない。
沈黙。
数秒。
さらに数秒。
バーツの指が止まる。
「……属性なしで、流すだけだと?」
魔石を持ち上げる。
重さを確かめるように揺らす。
自問のように呟く。
「……ありえねぇ」
口元がわずかに歪む。
「……面白ぇ」
小さく笑った。
「やってみっか」
魔石を机に置く。
「手伝え」
レオンは頷く。
工具が取られる。
刃が当てられる。
削る音が響く。
火は使わない。
だが、確実に何かが削り出されていく。
削る音だけが、続く。
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