インターミッション 光の剣
【シーン①:南の谷】
ガウィンの体から、魔力が一気に抜けた。
血に濡れた手の中で、光の剣が粒子となって散る。
ベヒモスの魔石を握ったまま、ガウィンはその光を見送った。
昔を、思い出した。
【シーン②:山小屋】
山の空気は冷たかった。
雪の残る坂道を、少年が駆け上がる。
勢いよく扉を開けた。
「じじい、また来たぞ」
小屋の奥で、老人が顔をしかめる。
「おぬし、両親の手伝いをせんか」
片足の老人だった。
粗末な椅子に腰掛け、木刀を削っている。
「終わらせてきた」
「絶対やっておらんな」
ガウィンは笑う。
老人は鼻を鳴らした。
山奥で一人暮らす、変わり者の老人。
昔は剣聖だったらしい。
らしい、というだけで、本当かどうかは知らない。
ただ、強かった。
木刀が投げられる。
「構えろ」
ガウィンが受け取る。
踏み込む。
振る。
弾かれる。
「違う」
老人が叱咤する。
「もう一回」
踏み込む。
振る。
「遅い」
また弾かれる。
何度も繰り返す。
汗が落ちる。
腕が痺れる。
呼吸が荒くなる。
それでも、老人はほとんど説明しない。
「今のは違う」
「振りすぎじゃ」
「踏み込みが浅い」
それだけだ。
だが、本当にうまくいった時。
その時だけ、老人は目を細める。
ガウィンはその癖を見抜いていた。
そして、次の瞬間には、
「次じゃ」
また木刀が飛んでくる。
ガウィンは、それが嫌いじゃなかった。
【シーン③:炎】
木刀がぶつかる。
乾いた音。
老人が片手で受け流す。
「遅い」
「うるせぇ」
いつも通り。
の、はずだった。
風向きが変わった。
煙の臭いがした。
ガウィンが顔を上げる。
村の方角。
黒煙が上がっている。
一瞬で、二人が走り出す。
雪を蹴る。
木々を抜ける。
燃えていた。
家屋が崩れている。
炎が広がる。
悲鳴が響く。
その中央。
巨大な人影が三つ。
オーガ。
分厚い腕。
灰色の皮膚。
人を片手で潰せる質量。
村人たちが農具を武器に、必死に抵抗している。
だが止まらない。
ガウィンの視線が止まる。
自分の家だった。
火に包まれている。
老人が村人の前へ出る。
手には木刀。
片足。
オーガが吼える。
突っ込んでくる。
老人が木刀を投げ捨てた。
次の瞬間。
光が集まる。
老人の手の中で、白い剣が形を成した。
一閃。
オーガの胴が滑る。
もう一閃。
首が落ちる。
残る二体が咆哮する。
狂ったように、左右から襲い掛かる。
光が走る。
二体同時。巨体が崩れた。
燃える家から、ぱちぱちと爆ぜる音がした。
老人の手の中から、光の剣が粒子となって散った。
【シーン④:墓】
雪が積もっていた。
二つの墓の前で、ガウィンは座り込んでいる。
黙ったまま。
老人が隣へ立つ。
しばらく、誰も喋らなかった。
やがて、ガウィンが口を開く。
「あの技、なんだ」
老人が答える。
「特有魔法。光の剣じゃ」
ガウィンは墓を見たまま言う。
「俺も使いたい」
「まだ無理じゃな」
老人が短く返す。
「魔力を食う。
今のおぬしでは、剣の形を保てん」
ガウィンは俯いたまま笑う。
「じゃあ、使えるようになる」
老人が目を細めた。
「そうじゃな」
老人は一瞬、黙った。
「修行はつらいぞ」
ガウィンが顔を上げる。
老人はいつも通りの顔だった。
「これからは毎日じゃ」
雪が降っていた。
白い景色の中で、ガウィンは小さく笑った。
最後までお読みいただきありがとうございます!
もし「面白い!」「続きが気になる」と思ってくださったら、
★や感想で応援していただけると、執筆の励みになります!




