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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
冒険者編
68/111

第62話 バット

【シーン①:アジト帰還】

「申し訳ございません」

 アジトに戻ったザッハたちを待っていたのは、深く頭を下げたバットだった。

 

 その場で膝をつき、額が床に触れるほどの姿勢で静止している。

 所作に迷いはない。

 準備されていた動きだった。


 ザッハは足を止める。

 周囲の構成員も動かない。

 視線だけが、バットに集まる。

 

 

「人質収監場所の選定を誤りました」

 顔を上げないまま、バットは続ける。

 

「防衛が強固な施設を優先する判断を取りましたが、実際には人質は分散され、防衛の薄い拠点に収容されていました」

 一拍、置く。

「結果として、対応が遅れました。すべて私の判断ミスです」

 言葉は淀みなく出る。

 

 整っている。

 余計な装飾がない。

 感情は乗っていないが、欠落もしていない。

 ザッハは何も言わない。

 

「救出は完了しております」

 その一言で、室内の空気がわずかに動く。

 ヘレナが顔を上げる。

 ガウィンの視線が鋭くなる。

 

「とらわれていた構成員は?」

 短い問いだった。

「ギム以外は無事です」

 返答は即座だった。

 ヘレナの呼吸が止まる。

 そのまま、言葉が出ない。

 

 バットは続ける。

「ギムは、救出時に他の構成員を庇い、そのまま――」

 言葉が、途切れる。

 崩れはない。

 

「命を落としました」

 室内が静まる。

 

 ヘレナは視線を落とす。

 唇がわずかに動くが、音にはならない。

 ザッハは動かない。

 表情だけが、わずかに変わる。

 

「責任はすべて私にあります」

 バットは姿勢を崩さない。

「判断の誤りにより、最古参の構成員を失いました」

 息を呑む。

 

「いかなる処分も受ける覚悟です」

 沈黙が落ちる。

 誰も口を開かない。

 

「必要であれば、この場からの離脱も――」

「いい」

 ザッハが遮る。

 短い一言だった。

 

 バットの言葉が止まる。

 頭はまだ下がったまま。

 

「戻ってきたんだろ」

 ザッハはそれだけを言う。

「他は無事なんだな」

「はい」

 即答だった。

 

 ザッハは小さく頷く。

「なら、それでいい」

 判断は早い。

 迷いがない。

 それ以上、追及はなかった。

 

 周囲の構成員たちが、静かに息を吐く。

 張り詰めていたものが、少しずつほどけていく。

 救出は成功した。

 その認識が、場をゆっくりと満たしていく。

 

 

 ヘレナはまだ動かない。

 視線は床に落ちたまま。

 ゆっくりと顔を上げる。

 息を、一度だけ整える。

 それだけだった。

 

 バットはようやく頭を上げる。

 表情は崩れていない。

 

 謝罪の形を保ったまま、静かに立ち上がる。

 

 

【シーン②:レオンの観察】

 説明は揃っている。

 筋も通っている。

 

 防衛強度を基準にした選定。

 分散収容による想定外。

 救出成功。

 ギムのみ死亡。

 

 整合は取れている。

 結果も出ている。

 場はすでに収束している。

 誰も疑問を口にしない。

 

 

 だが。

 過程が、ない。

 

 どこで分散を把握したのか。

 どう救出に至ったのか。

 なぜ、間に合ったのか。

 情報は提示されている。

 

 繋がりがない。

 提示された事実と事実の間に、何かが抜けている。

 

 バットの言葉に隙はない。

 感情の揺れもない。

 謝罪の形は完璧だった。

 完璧すぎる。

 

――準備されていた。


 レオンは視線をバットへ戻す。

 バットは静かに立っている。

 こちらを見ていない。

 見る必要がない、という立ち方だった。

 

 問いを口にする理由がない。

 証拠がない。

 場の空気が、それを許さない。

 全員が、結果を受け取っている。

 

 

 レオンは視線を外す。

 納得はできる。

 理解には至らない。

 それでも。

 

 違和感だけが、静かに残った。

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