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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
冒険者編
64/111

第58話 レオンのパーティ

【シーン①:帰還】

 光がほどけた。

 石床の冷たさが足裏に戻る。

 崩落の轟音が、まだ耳の奥に残っている。

 

 冒険者ギルド地下、帰還装置の受け口。

 転移の余韻だけが、空気に薄く漂っていた。

 

 二度目だった。

 前回と同じ場所。同じ感触。

 ただ、前回と今回では重さが違う。

 あのときはベルゲンのパーティだった。

 今は、この四人だ。

 

 

 全員が揃っている。

 損耗を確認する。

 致命傷なし。軽傷のみ。魔力の残量も許容範囲内。

 問題はない。

 

 ガウィンが首を鳴らす。

「生きてるな」

 ヘレナは鞄の口を締め直す。

「崩れる前に出られた。上出来だ」

 ヴェリスが掌の上で魔石を転がす。

「純度、良好。

 保管、スル」

 レオンはうなずく。

 目的は、果たした。

 

 

【シーン②:酒場】

 酒場は混んでいた。

 入口付近は人で詰まり、出入りのたびに肩が触れる。

 奥へ進むほど熱がこもり、酒と油と汗の匂いが混ざって空気が重く沈んでいる。

 

 

 四人は壁際の卓に陣取っていた。

 背後を取られない位置で、視界には店内の半分が収まる。

 周囲の動きは把握できる。

 

 卓には皿が並んでいた。

 焼いた肉、塩の強い豆、固いパン。

 すでにいくつかは崩れ、油が木目に染みている。

 

 ガウィンが肉を掴み、歯で裂く。

 指に残った油を気にする様子はない。

 

 

「今回の実入りの話なんだが」

 ヘレナが口を開いた。

 卓の中央に袋を置き、指で軽く押す。

 中の硬さを確かめる動きだった。

「パーティー資金がそろそろ、溜まってきた」


 袋は膨らんでいる。

 音は出ないが、重みは明らかだった。

 

「そしたらさ」

 ガウィンが顔を上げる。

「装備、替えねぇ?」

 腰の剣を指で叩く。鈍い音が返る。

 

「さっきの戦闘でも、刺さったまま抜けなかっただろ」

 手首をひねり、抜く動きをなぞる。

 動作の途中で止める。

「あれは焦った。死んだかと思った」

 愉快そうに笑う。


 ヘレナが眉を寄せる。

「まだ使える。刃も死んでない」

「使えるけどよ」

 ガウィンは両手を軽く開く。

「いざってときに使えねぇんじゃ、意味がない」


 卓の端に柄を軽く当てる。

 乾いた音が残る。

 

 レオンが応えた。

「設備投資は必要だ。生存率に直結する」

 結論だけを置く。

 

 ヘレナが息を吐く。

「……あんたまで言うか」

「今回の要因の一つだ」

 間を置かず続ける。

「再現する」


 ヘレナは袋を引き寄せ、口紐を指でなぞる。

 判断の手触りを確かめるような動きだった。

「……わかった。検討する」


 レオンが続ける。

「明日から武器屋巡りだな。この街なら選択肢は多い」

 ガウィンが首を振る。

「だめだ」

 即答だった。

 

「この街の武器屋には、壊れる前提の武器しか置いてねぇ」

 ジョッキを持ち上げ、一気に流し込む。

 喉が鳴る。

 

「そこそこ切れる。そこそこ持つ。それだけだ」

 置いたジョッキの縁を指で叩く。

「上に行くなら足りねぇ。

 どうせ買うなら、いい武器にしたい」



 周囲で笑い声が上がる。

 卓を叩く音が重なる。

 四人の卓は変わらない。


 ヘレナが腕を組む。

「じゃあ、どうする」

 短く問う。

 

 ガウィンは答えない。顎をわずかに引く。

 ヘレナは一度目を伏せ、卓を指で二度叩いた。

 思考を切り替える癖だった。

 

「……一つある」

 ヘレナが顔を上げる。

「知り合いに、ドワーフの鍛冶師がいる」


 ガウィンが反応する。

「いいのか?」

「腕はいい」

 ヘレナは言葉を切り分ける。

「名前はゼムスト。武器防具の専門だ」

 ガウィンが笑う。

「いいじゃねぇか」

 目を輝かせる。

 

「ただ……」

 ヘレナは眉を寄せる。

「場所が問題だ。コルデリア。

 東方山脈の手前」

 言葉を区切る。距離の重さをそのまま置く。

「遠い」


 ガウィンは動じない。

「いいもん作るなら、そのくらい大したことじゃねぇ」

 即答だった。

 

 レオンは整理する。

 距離、日数、補給、消耗。

 成立する。

 

「問題ない。

 移動コストも許容範囲だ」

 結論だけを出す。

 

 ヘレナは黙ったまま袋を閉じる。

 紐を強く引き、余りを巻く。

 決断の動きだった。

 

「……値段は張る。

 しばらくは倹約生活だ。

 それでもいいね」

 ガウィンは即座にうなずく。迷いはない。

 

 ヘレナは短く息を吐いた。

 肩の力がわずかに抜ける。

「……わかった。行こう」

 決定だった。

 

 

 ガウィンが椅子の上に立ち上がり、椅子が軋む。

 ヘレナに怒られる。

 レオンは杯を手に取る。

 ヴェリスはいつもの様子で佇んでいる。

 

 

 行き先は決まった。

 コルデリア。

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