第58話 レオンのパーティ
【シーン①:帰還】
光がほどけた。
石床の冷たさが足裏に戻る。
崩落の轟音が、まだ耳の奥に残っている。
冒険者ギルド地下、帰還装置の受け口。
転移の余韻だけが、空気に薄く漂っていた。
二度目だった。
前回と同じ場所。同じ感触。
ただ、前回と今回では重さが違う。
あのときはベルゲンのパーティだった。
今は、この四人だ。
全員が揃っている。
損耗を確認する。
致命傷なし。軽傷のみ。魔力の残量も許容範囲内。
問題はない。
ガウィンが首を鳴らす。
「生きてるな」
ヘレナは鞄の口を締め直す。
「崩れる前に出られた。上出来だ」
ヴェリスが掌の上で魔石を転がす。
「純度、良好。
保管、スル」
レオンはうなずく。
目的は、果たした。
【シーン②:酒場】
酒場は混んでいた。
入口付近は人で詰まり、出入りのたびに肩が触れる。
奥へ進むほど熱がこもり、酒と油と汗の匂いが混ざって空気が重く沈んでいる。
四人は壁際の卓に陣取っていた。
背後を取られない位置で、視界には店内の半分が収まる。
周囲の動きは把握できる。
卓には皿が並んでいた。
焼いた肉、塩の強い豆、固いパン。
すでにいくつかは崩れ、油が木目に染みている。
ガウィンが肉を掴み、歯で裂く。
指に残った油を気にする様子はない。
「今回の実入りの話なんだが」
ヘレナが口を開いた。
卓の中央に袋を置き、指で軽く押す。
中の硬さを確かめる動きだった。
「パーティー資金がそろそろ、溜まってきた」
袋は膨らんでいる。
音は出ないが、重みは明らかだった。
「そしたらさ」
ガウィンが顔を上げる。
「装備、替えねぇ?」
腰の剣を指で叩く。鈍い音が返る。
「さっきの戦闘でも、刺さったまま抜けなかっただろ」
手首をひねり、抜く動きをなぞる。
動作の途中で止める。
「あれは焦った。死んだかと思った」
愉快そうに笑う。
ヘレナが眉を寄せる。
「まだ使える。刃も死んでない」
「使えるけどよ」
ガウィンは両手を軽く開く。
「いざってときに使えねぇんじゃ、意味がない」
卓の端に柄を軽く当てる。
乾いた音が残る。
レオンが応えた。
「設備投資は必要だ。生存率に直結する」
結論だけを置く。
ヘレナが息を吐く。
「……あんたまで言うか」
「今回の要因の一つだ」
間を置かず続ける。
「再現する」
ヘレナは袋を引き寄せ、口紐を指でなぞる。
判断の手触りを確かめるような動きだった。
「……わかった。検討する」
レオンが続ける。
「明日から武器屋巡りだな。この街なら選択肢は多い」
ガウィンが首を振る。
「だめだ」
即答だった。
「この街の武器屋には、壊れる前提の武器しか置いてねぇ」
ジョッキを持ち上げ、一気に流し込む。
喉が鳴る。
「そこそこ切れる。そこそこ持つ。それだけだ」
置いたジョッキの縁を指で叩く。
「上に行くなら足りねぇ。
どうせ買うなら、いい武器にしたい」
周囲で笑い声が上がる。
卓を叩く音が重なる。
四人の卓は変わらない。
ヘレナが腕を組む。
「じゃあ、どうする」
短く問う。
ガウィンは答えない。顎をわずかに引く。
ヘレナは一度目を伏せ、卓を指で二度叩いた。
思考を切り替える癖だった。
「……一つある」
ヘレナが顔を上げる。
「知り合いに、ドワーフの鍛冶師がいる」
ガウィンが反応する。
「いいのか?」
「腕はいい」
ヘレナは言葉を切り分ける。
「名前はゼムスト。武器防具の専門だ」
ガウィンが笑う。
「いいじゃねぇか」
目を輝かせる。
「ただ……」
ヘレナは眉を寄せる。
「場所が問題だ。コルデリア。
東方山脈の手前」
言葉を区切る。距離の重さをそのまま置く。
「遠い」
ガウィンは動じない。
「いいもん作るなら、そのくらい大したことじゃねぇ」
即答だった。
レオンは整理する。
距離、日数、補給、消耗。
成立する。
「問題ない。
移動コストも許容範囲だ」
結論だけを出す。
ヘレナは黙ったまま袋を閉じる。
紐を強く引き、余りを巻く。
決断の動きだった。
「……値段は張る。
しばらくは倹約生活だ。
それでもいいね」
ガウィンは即座にうなずく。迷いはない。
ヘレナは短く息を吐いた。
肩の力がわずかに抜ける。
「……わかった。行こう」
決定だった。
ガウィンが椅子の上に立ち上がり、椅子が軋む。
ヘレナに怒られる。
レオンは杯を手に取る。
ヴェリスはいつもの様子で佇んでいる。
行き先は決まった。
コルデリア。
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