第50話 探究
【シーン①:静寂】
最奥の間は静まり返っていた。
レオンは目を閉じていた。
瞼の裏に、ヴェリスの姿がある。
起動時と変わらぬ姿勢。変わらぬ微笑。
数日分の会話が、頭の中を流れていた。
数日の対話で、理解が塗り替わっていた。
外部から魔力を取り込み、術者が制御を行うマナプール構想。
術者の魔力が極小で済む利点があるが、高度な制御技術と十分な外部出力が必要となる。
このマナプール構想は、実現する。
構想の体現者が目の前にいる。
ヴェリスの動力は、体躯の中心にある黒い魔石――魔力核にある。
外部出力である魔力核から魔力を抽出し、状況に応じて制御することで動いている。
微細な制御によって、単一の用途に縛られない動作を実現している。
ただし、それだけではない。
レオンの想像を超える技術が、ヴェリスにはあった。
ヴェリスは魔法で魔力核から魔力を抽出し、魔法で抽出した魔力を制御し、魔法で動く。
複雑に絡まった魔法を連続して循環させることで動作をしている。
――成立している。
完全な理解には至っていない。
それでも、存在している事実は変わらない。
魔力核。
ヴェリスの中心に据えられているもの。
黒い光を帯びた結晶体は、魔石に似ているが明らかに異なる。
「魔力核と魔石の違いはなんだ」
レオンがヴェリスに尋ねた。
数日の言語教育により、ヴェリスは対話を習得していた。
「精錬、スル。
純度、アガル。
容量、フエル。
出力、アガル」
「製造方法は」
「原料、大型魔石。
方法、高純度圧縮」
どちらも容易ではない。
「大型魔石があれば、再現は可能か」
「デキル」
即答。
魔石は強力な魔獣の体内か、魔力の吹き溜まる鉱床で取れる。
市場に出回るものは小さく、それでも高価だ。
大型となれば、普通は目にする機会すらない。
――普通でない方法。
目の前にそれを実現できる存在がある。
手段についても心当たりはある。
一つ、確認が必要だった。
「ヴェリスがこの装置を離れた場合、結界はどうなる」
「サブタンク、アル。
結界、モツ」
「期間は」
「壱年」
短い。
試行錯誤に使うには足りない。
移動距離、探索時間、入手難度。
ヴェリスが損壊するリスク。
いずれも不確定要素が多すぎる。
レオンは首を振った。
「希望、ナンネン?」
ヴェリスが小首をかしげる。
「理想は永遠だな」
結界が消えれば、この街は外界に晒される。
――故郷が荒れるのは避けたい。
「ムリ。
最長、拾年」
返答は即座だった。
「理由は?」
「設定、九百九拾九年。
経過、九百九拾一年。
残リ、八年。
節約、拾年」
猶予はある。
余裕はない。
「延長は?」
「デキル。
条件、再充填」
「魔石に魔力を充填するように、魔力核への魔力充填は」
「デキル。
マスター、限定」
思考が止まる。
「……どういう意味だ」
「マスター、同期認証、済。
再起動時、設定」
「認証した覚えはない」
「拒否宣言、ナシ。
受諾、判断」
合理的ではある。
納得はしない。
「再設定は?」
「条件壱、マスター死亡。
条件弐、再起動」
つまり、再充填ができるのはレオンのみで、代替はない。
現実的ではない。
「維持に必要な魔力量は?」
「イチネン、ヒャクニン。
単位、ヒト族平均」
現実的ではない。
魔石が必要という問題の本質は変わらない。
むしろ悪化している。
この問題からは逃げられない。
レオンはゆっくり目を開けた。
ヴェリスは動かない。
変わらぬ微笑のまま、そこにいる。
公開した場合、どうなるか。
国に報告し、資源を集めるか、国庫を開くか。
国が保有する高純度魔石の魔力を、レオンの体を経由してヴェリスに供給すれば、可能だ。
あるいは、レオンの代わりに王族による供給に切り替えるか。
――そのとき、レオンは不要になる。
公開しない場合、どうなるか。
結界が尽きる前に、高純度魔石を採取するしかない。
主導権は、手放さない。
「サブタンクの再補充は可能か」
「デキル」
一年以内に補充に戻れば、何年かは猶予がある。
公開以前に試す余地はある。
あとは、踏み出すだけだった。
「ヴェリス、同行は可能か」
「デキル。
マスター、テツダウ」
レオンは頷いた。
考えることは、終わった。
残っているのは行動だけだ。
――やることは単純で明確だ。
視線を上げ、一呼吸する。
足りないのは資源だ。
ならば。
「採りに行く」
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