インターミッション 父親
【シーン①:執務室】
夜半。
カールの執務室は、蝋燭の火が揺れていた。
向かいには、大森林探索から帰還したばかりのグスタフが座る。
二人の間には、酒と肴を盛りつけた皿があった。
埃っぽい旅装のまま座るグスタフを、カールは咎めない。
そういう間柄だった。
「それにしても」
グスタフが静かに口を開いた。
「お前が頭を下げて、レオンのことを頼みに来たときは、驚いたぞ」
カールは答えず、酒を煽った。
「まあ、おれもレオンのあんな面をみたら、な」
低く、独り言のように言う。
カールは頷いた。それ以上は言わない。
「事情を聴いてみれば、納得だ。
お前が焦るのも含めてな」
肴に手を延ばす。
素手で燻製肉をつまみ、口の中に落とす。
「期待以上だった。感謝する」
カールは頭を下げる。
グスタフは短く息を吐いた。
「礼はいらん。ルーカスの分もある」
それだけ言って、杯を傾けた。
しばらく、どちらも何も言わなかった。
「魔道具に興味を持ったようだぞ」
「ほう」
「うちの魔術師は変わり種でね。
本人の魔力は月並みなんだが、魔道具の扱いはかなりのもんだ。
帰り道、しつこく付きまとっていた」
「迷惑をかけたか」
「いや。質問の仕方が普通じゃない。術者が何を意図して設計したか、そこから掘り下げてくる」
グスタフは少し間を置いた。
「あの年で、あの目をしている」
「魔道具か……」
カールの額に皺が寄る。
「値が張るがな」
「ああ、ちと高い」
グスタフが皮肉を言う気配を見せたが、カールはすでに別のことを考えている。
「魔道具か」
つぶやいて、カールは立ち上がった。
窓際に歩み寄る。
視線の先には、屋敷の中庭が見える。
「うちの庭に、噴水がある」
グスタフは黙って続きを待った。
「レオンが五歳の頃、跡形もなく吹き飛ばした」
カールは笑わなかった。
「……五歳で」
「ああ」
短い沈黙。
「あの頃から。
いや、もっと前の、魔法を覚えた頃から、あいつはとんでもなかった」
カールは静かに語った。
「ゴブリン災厄の時も、学院での生活も、とんでもないことばかりだ」
グスタフが頷く。
「対抗戦のことは、噂で聞いた」
「そうか」
カールは窓の外を見たまま、それだけ返した。
「それが、帰ってきてアレではな」
カールは再び席に座ると、空になっていた杯に酒を注いだ。
机の上には空き瓶がごろごろしていた。
しばらく、二人とも何も言わなかった。
蝋燭の火が、小さく揺れる。
「ここからだ」
グスタフが言う。
「そうだな」
カールはすぐに返した。
「また、とんでもないことになる」
断言するように、グスタフは言った。
「楽しみだ」
カールは、注いだ酒を静かに飲み干した。
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