↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
喪失編
49/111

第45話 魔道具と戦闘

【シーン①:大百足】

 木々の隙間、その奥で異様な質量が蠢いていた。

 長く、太く、そして数が多すぎる。

 無数の脚が地面を擦り、枯葉を押し潰しながら進むたび、紫がかった外骨格が鈍く光を返していた。

 視界に収めた瞬間、判断の限界を超えていた。

 

 ジャイアントセンティピート。

 大百足。

 

 

「……森の奥に戻ってくれればいいんだがな」

 グスタフの声は低く、期待の薄いものだった。

 

 クラウスがレオンに近づく。

「こいつを持っておけ。

 使い方は学院で習っているだろ」

 護符を数枚と、タリスマンを押し付ける。

 

「おれと、カルロの間にポジションを取っておけ。

 どちらかが必ずカバーする」

 レオンは頷いた。

 

 

 百足の頭部がわずかに持ち上がり、触角が空気を探るように揺れる。

 

 その反応だけで十分だった。

 気づかれている。

 

 グスタフが前に出る。

 その動きに合わせてクラウスが詠唱と共に護符を切る。

 虹色の光がグスタフの大剣を包む。

 

 カルロが弓を引き絞り、矢に光をまとわせた。

 放たれた一矢は正確に外骨格を捉えるが、硬質な音とともに弾かれ、軌道を逸らして地面に突き刺さる。

 

 浅い。

 通らない。

「硬ぇな」


 舌打ちが落ちた直後、百足の巨体が跳ねるように間合いを詰めた。

 

 速い。

 

 長大な体躯からは想像できない加速で迫るそれを、グスタフは軽やかにかわしつつ、切りつける。

 大剣が振り下ろされる。

 外骨格とぶつかり、衝撃が空気を震わせた。

 

 濃い緑色の液体が飛び散る。

 強化された大剣ならば、徹る。

 

 百足は体躯をくねらせて、またも顎肢でグスタフを狙う。

 これもかわして、返す刀で脚を跳ね飛ばす。

 数百はあろうかという足の一本が宙を舞うだけでは、百足の勢いは止まらない。

 

 

 グスタフが華麗に身をかわしながら気を引いているうちに、カルロは集中した一撃を準備する。

 狙いは頭。

 

 渾身の一撃が放たれるが、かわされる。

 なにせ、速い。

 

「遅らせられないか」

 カルロの注文に、クラウスが応える。

「やってみる」

 

 指輪の一つをさすりながら詠唱を行う。

 近くで聞いていたレオンは、それが「ライト」だと瞬時に理解する。

 違和感。

――詠唱が長い。

――無駄がある。

 

 閃光が百足の頭部周辺に炸裂する。

 一瞬、動きが止まる。

 

 その隙を逃さない。

 グスタフとカルロの攻撃が、頭部に殺到する。

 矢は突き刺さり、大剣は咢の片方を切り飛ばした、かに見えた。

 

 肉に食い込む。

 食い込んだまま、抜けない。

 

 力ずくで抜こうとするグスタフを振り払うように、百足が頭を振った。

 

 グスタフの巨体が飛んだ。

 木々の高さを超えて、レオンの視界から消える。

 

「グスタフ!」

 声を上げたカルロに百足が迫る。

 

――まずい。

 

「カルロ、さがれ」

 クラウスは指示を飛ばしながら、詠唱を始める。

 

――間に合わない。

 指示を出した時間、後方にポジションを取っている距離、カルロの支援にクラウスの魔法は届かない。

 レオンはそう判断した。

 

――俺なら。

 思った時には身体が動いていた。

 自衛用に渡されていた火焔の護符を取り出し、詠唱する。

 

 不思議な感覚があった。

 詠唱が終わった瞬間に、術が起動する。

 

 炎の槍が螺旋を描いて撃ち出され、百足の身を焼き、肢足を数本吹っ飛ばす。

 巨体がわずかに揺れる。

 

 その手応えよりも、別の違和感が強く残った。

 軽い。

 魔力を使った感覚がない。

 不意に、マルセルの顔が浮かぶ。

 

 感触を確かめようと思考が引き寄せられた瞬間、百足の頭部がこちらを向いた。

 標的が切り替わる。

 

 一直線に迫る。

 逃げ切れない。

 

「右、二歩」

 クラウスの声が短く飛ぶ。

 余計な言葉はない。

 

 反射的に従う。

 踏み出した直後、視界が白く弾けた。

 

 閃光。

 

 百足の動きが一瞬だけ鈍る。

 それでも止まらない。

 

 巨体が軌道を保ったまま突っ込んでくる。

 レオンはタリスマンを握りしめた。

 

「シールド」


 しかし、この質量と速度を受け切るには足りないと直感する。

 

「……マクシメル」

 

 出力条件を追記する。

 強引な出力変更は魔道具を破壊する。

 知ってはいる。

 だが、止められない。

 

 無理に書き換えた詠唱が、タリスマンに蓄えられた数回分の魔力を、すべて引き出して発動する。

 強健に仕立て直された不可視の盾が展開されると同時に、タリスマンから光が急速に抜けていく。

 内部に蓄えられていた力が一気に吸い上げられる感覚が、手のひら越しに伝わった。

 

 百足がぶつかる。

 衝撃が全身を貫く。

 押し潰されるような圧力がかかり、シールド越しに百足の体が軋む音がする。

 

 それでも、止まった。

 

 ほんの一瞬。

 空間が固定される。

 

 

 その瞬間、横から衝撃が突き抜けた。

 重い音が、遅れて響く。

 くねっていた巨体が引き延ばされ、横倒しになる。

 百足の頭部が、貫かれている。

 

 大剣。

 

 そのまま押し切るように、頭部を地面へ叩きつける。

 刃が走る。

 切断。

 

 頭部が離れ、地面を転がる。

 遅れて、長大な胴体が崩れ落ちた。

 振動が足元から伝わる。

 

 

 森が静まる。

 残響だけが、しばらくその場に残っていた。

最後までお読みいただきありがとうございます!

もし「面白い!」「続きが気になる」と思ってくださったら、

★や感想で応援していただけると、執筆の励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。